*2019年書き下ろしカレンダーの一幕から思い付いたポエム的なもの
鴇色の国(赤葦)
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みて。
降り頻る花びらが頬の横を掠めるたびに、そんな声が聞こえる気がする。
「木兎さん、汚れますよ」
「だってこんなときくらいしかできねぇじゃん?」
「俺も俺も」
「うわ、まじか」
麗らかな春。桜の木の下。
散ったばかりの花びらは、引き寄せられた私の指先をほのかに濡らした。
かき集めてはしゃぐ彼らを少し離れた場所から眺め、吐息だけで「ふふ」と忍び笑いする。
"ねえ、みて"
絶えることなくはらはらと踊る花びらは、そんな唄を口ずさんでいる。
なんて、これは、本当は私の願望。
柔らかな光が透ける黒髪。凛とした横顔。
赤葦は、今日もきれいだ。
ねえ赤葦。私のこと、見て。
私ばかりがいつもこうしてあなたを見ている。
「ヘイヘイ、ヘーイ!!」
木兎さんが、多量の花びらを春の上空めがけて放った。
青空のキャンバスに鴇色のコラージュが出来上がる。まるで、額縁の中で規則正しく旋回しながら足掻いている私たちの日常を、翻すような一景。
眩しくて、瞳に蓋をした。瞬間、まぶたで遮断できなかった光が裏側でふわりと陰った。
鼻先を微かに心地のよい香りが漂い、なんだろう? 私は不思議な気持ちを抱いてまぶたを開いた。
「っ、赤、葦……?」
「木兎さんが、ごめん」
赤葦の脱いだ制服のジャケットに、頭からすっぽりと包まれているらしい。そう理解した時にはもう頬が火照ってしかたがなくて。
咄嗟にうつむいていた。だって、ものすごく赤い顔をしているに違いないから。
こんな顔見られたら、赤葦に気持ちがばれてしまう。
"見て"だなんて桜に想いを託したところで、所詮乙女心など複雑でちぐはぐで矛盾だらけだ。
「あ、あの、ありが」
「また、後で見にこようか」
「……え?」
「───…二人で」
きっと、春風にさらわれてしまったのだろう。
至近距離で微笑んだ赤葦のお陰で行方不明になってしまった呼吸を返して、と切に思う。
( ……先輩たちの笑い声が、遠い )
絶えることなく舞い踊るあなたへの恋情に
私はいつか窒息してしまうのかもしれない。
* F i n *