オフィスのエントランスを抜けた先、日没後の空に薄く広がる雨雲を見て脚が止まった。
ちらほらと、自分と同じようなスーツに身を包んだ人間がオフィスビルの外を傘も持たずに慌ただしく駆けていく。
本日の降水確率は三十パーセント。雨は深夜から降り始めるでしょうと言った気象予報士の言葉を鵜呑みにしたのは自分だけではなかったようだ。
雨脚は強くない。肉眼を凝らしてようやく確認できるほど雨粒がオフィス街に列なるビルの狭間をひそやかに滑り落ちていく。
九月初旬。うだるような暑さが続く、残暑。鼻につく独特の雨の匂いを吸い込んで、俺は駅目指して駆け出した。
走るのは嫌いじゃない。
昔に比べ距離数は格段に減ってしまったものの、今でも休日にはジョギングの時間を作るよう心がけているし、バレーボールも社内のチームに参加している。
大学卒業後就職した先は広告会社で、部署は営業。忙しいが遣り甲斐もあり面白い仕事だ。
配属したての一年目は、クライアントから受けた依頼の対応や企画の提案、果てはクレーム処理などのノウハウを学び、先輩の指導のもとサポート的な立場で仕事をこなす日々が続いた。
二年目になると部署から単独で任される仕事も増えてくる。少人数制チームの小さなプロジェクトから会社の命運をかけるような大きなプロジェクトまで、依頼は様々。
俺がこの仕事を選んだ理由は、いつの日か好きな国際スポーツイベントに関わるプロジェクトの仕事をしたいと思ったからだ。
数年後、日本で開かれる予定の国際スポーツの祭典。特にバレーボールは木兎さんがチーム要りする可能性が非常に高いため、俺も何かしらで祭典に関われたら…という思いを抱いている。
夢、と言ったら大袈裟だろうか。そんな目標達成に最も近いと思えた企業がここで、そのためにこの業界に就職を決めたと言っても過言ではない。
そして、自分と同じ夢を抱いてこの会社を選んだ人物が身近にいた。
『赤いジャージを着た猫』。
彼も、同じようなことを言っていた。
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