東京から約二時間半。新幹線は数多の景色をすり替えながら、私達三人を古都の街へと運んでくれる。
"三人"のうちの一人は、幼馴染みで同じ梟谷学園にも通っていた親友の桃波ちゃん。今回の旅行は桃波ちゃんと電話をしていたときに「ふたりで旅行にでも行きたいね」という話からはじまった。
そして、ひょんな事から旅を共にすることになった、もう一人。
「木兎起きて! 置いてくよ?」
意外にも寝相良く、さぞかし幸せな夢でも見ているのだろう唇ですやすやと寝息をたてている木兎の肩を、桃波ちゃんが小さく揺すった。
前日のトレーニングが相当ハードだったらしい木兎は、新幹線が発車した直後には深い眠りに落ちていた。
桃波ちゃんに起こされて、木兎がハッとした顔で目を覚ます。
「もうついたの!? 金閣寺!?」
「……」
そう叫んで飛び起きた木兎を無視し、通路に降ろしたキャリーバッグを引きながらスタスタと歩き出した桃波ちゃんの後に私も続いた。
小振りなボストンバッグをひょいと容易く荷棚からおろす木兎の姿を横目で見ながら、二泊三日の旅行だというのにミニマリストの代表のような手荷物だけで間に合う木兎を少しだけ羨ましく思う。
一足先にホームへ降りた私達に遅れること数十秒、ミミズクの頭をした大きな体が、旅先の地へと着地した。
「ったく、何で木兎も一緒なのよ。私はなまえとふたりで久しぶりの女子旅を満喫したかったのに」
「んなっ、今更そんな事言わないでください!」
桃波ちゃんが溜め息を吐き、木兎がすがる。
こんな風にやんやするふたりのやり取りも私には懐かしいもので、自分でも気づかないうちに顔に笑みが浮いていたのか「なにひとりでニヤついてんだ?」と木兎に首を傾げられてしまった。
コインロッカーに荷物を預け駅を抜けると、秋晴れの空が私達を出迎える。
「すげーいい天気だな!」
「晴れて良かったよね。あ、バスはあっちみたい」
「タクシーじゃねぇの?」
「贅沢言わないの」
空の写真を同じタイミングでスマホに収めていた桃波ちゃんと木兎。なんだかんだ息ぴったりだなあと思ったことは内緒だ。
今回の旅行に木兎も参加することになった事の発端は、数週間前に遡る。
最近遠出してないなあと言った桃波ちゃんに、旅行でも行きたいねと相槌を打ちながら、日本を目一杯満喫できる場所がいいなと言った私に、『そうだ、京都行こう』と某CMのセリフのような桃波ちゃんの提案に乗り、翌日私が旅行会社へと脚を運んだ。
インターネットで手早く申し込んでも良かったのだけれど、先日京治くん達のバレーを観に行った時、木葉くんが都内の旅行会社で働いていることを知った。
旅行の時はうちをよろしく! の言葉を思い出し、せっかくだからと木葉くんの勤めている代理店を訪ねた。
そこで、偶然にも木兎と鉢合わせたのだ。
たまたま近くを通りかかったから顔見せにきたぜー! という木兎と、別に嬉かねえけどありがとな、と穏やかに受け流す木葉くんの関係性はとてと微笑ましいものだった。
なになにどっか行くの? と子供のようなわくわく顔で詰め寄ってきた木兎に旅行の詳細を伝えたところ、
『マジで!? 俺も行きたい! 休みとる!』
そう言って、その場で会社に電話をかけると有給休暇を取ってしまったのだ。
有給休暇ってそんな簡単に取れるものなのだろうか……という疑問はさておき、その日は私がひとりでふたり分の申し込みをしに来ていたため、木兎の強引さに押されて負けた。
三人で旅行することになったと事後報告した時の桃波ちゃんの荒れようは忘れられない。
こんなことを言うと桃波ちゃんは木兎のことを嫌ってるのかと思われてしまいそうだがそんなことは全くなくて、こう見えても昔から仲は良いのだ。
太陽みたいに明るくて、ちょっとおバカなところもあるけれど憎めない。物怖じせずに誰とでも分け隔てなく仲良くなれる。木兎は昔からそんなひとで、それは七年経った今も全く変わっていない。
バスに乗り込み約十五分。下車した先に広がる参道。
平日にも関わらず、その坂道は観光客で渦巻いていた。
紅葉見頃な情緒溢れる古都の町。
目指す先は清水寺だ。
隙間なく列なる土産物屋やお食事処に立ち寄りながら、人混みを縫うように坂道を登っていくと、ほどなくして色鮮やかな美しい赤が目に止まる。
清水寺の顔とも呼ばれる仁王門を潜り抜け、これまた華美なる三重塔を横目に、本堂へゆっくりと脚を進めて行く。
轟門には梟が彫刻された石造があり、梟に食い付いた木兎がまじまじとそれを見ていた。
途中、おみくじを引く場所があったので、私達はそれぞれ運試しをすることにした。
「あ。やった、大吉」
桃波ちゃんの弾む声が聞こえてすぐ、開いた自分のおみくじは中吉。
「きょ、凶!?」
ゲーン! という効果音がよく似合うリアクションを見せた後、すぐさまショボくれモードに突入した木兎を笑い飛ばしながら、私達は清水の舞台へと身を乗り出した。
「う、わあぁぁ」
息をのむほどの絶景。
京都の街を一望できる高さからの見事な紅葉と快晴の青空に、五感を根こそぎ奪われる。
「ヘイヘイヘーイ! テンション上がってきたー! なあなあ、写真撮ろーぜ、写真! ヘイヘイ! そこのユー! ピクチャートレル?」
木兎に突然呼び止められた白人男性が苦笑いする。もちろん木兎の言葉で会話は成立するはずもなく、私が慌てて男性に謝罪をすると、彼は快く私達にカメラを向けてシャッターを切ってくれた。
「ねえ恥ずかしいから本当やめてよ」
「俺のお陰で写真撮れたんだからいーだろー!」
「あのひとが良いひとだったのよ…」
「まあまあ」
旅先にて
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