【その愛は深淵のように】

〜更木剣八〜



更木隊長は、護廷十三隊きっての戦闘部隊である十一番隊隊長で、最強の男としてその座に君臨している

大体の死神はその名を聞いただけで震え恐れ、目の前に現れれば身体が強張って動かない

喧嘩が好きで戦いが好きで無法者の集団の十一番隊
その中で更木隊長は、大きな象徴的存在と言える

あの人は戦いが好きで戦いがこそが全て
基本的に全ての基準は戦う事に重きを置いている

斬魄刀に名は無く、始解も卍解も出来ない
それなのにその強さと言うのは、卍解を有している他の隊長となんら遜色ない

髪の毛先に付けている鈴は戦いを愉しむ為
左目の眼帯は霊圧制御装置だが、その溢れる霊圧を延々と喰らい続けている
それほどまでに更木隊長の力は底知れない

そんな圧倒的な強さを誇る更木隊長に憧れる者は多い

〝剣八″と言う名は、代々最強の死神に与えられ受け継がれる名前
だからこそ〝更木剣八″と言う男は、その〝剣八″の名に相応しいと言えよう

十一番隊の男達はそんな更木隊長を慕い、黙ってその背中に付いて行く
どうせ死ぬなら派手に喧嘩で…そんな猛者達が集まる十一番隊は通称〝更木隊″と呼ばれる程だ

その更木隊長に憧れる男達の様に、私もあの人の強さに影響を受けた
尊敬もしているし、カッコ良いと思った

強い

ただそれだけ…
それだけだが、慕うにはそれで十分な程に余りある強さ

…私は更木隊長には感謝している
私の力の為に、修行に付き合ってくれた
本人は戦う事が出来るなら、名目なんてどうでも良いと思っているかもしれないけど

でもそのおかげで私は少しだけ前に進めた

私と更木隊長は少し似ている部分がある
戦いが好きで戦いが愉しい
戦闘狂と言われても否定はしない

だからこそ、修行の相手が更木隊長で良かったと思う
そんな似た者同士だから

…でも更木隊長は、私が思っていたよりも繊細な心を持ち合わせていた

ある日聞いたのは〝更木剣八″となる以前の話
それは名前の無かった苦痛

〝更木″の〝剣八″として生きると決めた時、その苦痛から逃れる事が出来たのだろうか?

もし私があの人に名前を付けるならどんな名前にするか聞かれた時、少しだけ、寂しそうな瞳をしてこちらを見ていた
滅多に見せないその表情に思わずドキッとしたのを覚えている

この人は戦いが全てだが、戦い以外は本当に何も無いのかもしれない
だからこそ更木隊長と同じように戦いを愉しみ、戦いを求める私を、あの人は求めるのだろう

…でも、あの人が私に求めるものは、その戦いだけじゃ無かった…

あの人はその大きな身体で、大きな口で、私の身体を何度も貪った

戦いと言う欲が満たされない時、戦いの余熱が冷めない時、更木隊長は私を欲望のままに抱いた

それはあまりにも重く激しく、身も心も押し潰されそうな程で、とても苦しかった

あの人の欲望を受け止められるのは、私しかいないと、この身に言い聞かされてる様だった

どうして私が必要なのか?
どうしてその相手が私じゃないといけないのか?
私には分からなかった

他の人と比べてあまり愛の言葉を口にしない
だからあの人が私を抱くのは欲望の代わりなのか、そこに愛の形は存在するのか…それすらも分からないでいた

もしかしたら飢えているのは戦いだけで無く、愛にも飢えているのかもしれない…
そう思う程に、この身を抱き潰される

あの人に一度捕まって仕舞えば私は逃げる事が出来ない

あの大きな身体でこの身を抱かれる事が怖いと思えた
心も身体も、痛くて、怖くて、苦しかった

例え逃げたくても、一度支配されたこの身体は逃げる事など叶わない

これが私が、
更木剣八と言う男から受けた
〝狂った寵愛″の果てである