【その愛は深淵のように】
〜浮竹十四郎〜
浮竹隊長は十三番隊隊長…だけど人一倍病弱で、良く床に臥せる事が多い
そんな浮竹隊長の為に、私は治療役として総隊長の命により十三番隊へと移籍した
とにかく浮竹隊長は体調をよく崩す
咳や発熱なんて日常茶飯事で、無理をし過ぎると悪化したり吐血する事もあった
四番隊に所属していた時は色んな人を診てきたけど、ここまで目が離せない患者はいなかった
私は四六時中浮竹隊長の側に居た
いつ何が起こってもすぐに対応できる様にと
だからこそかもしれない
浮竹隊長の為人が良く分かり、それに触れる度に心が温まっていく
十三隊の中でも隊長歴は長い方だし、病弱だが隊長なだけあって、やはりその実力も確かなものがあった
そんな隊長に文句を言う隊士はいない
それは人徳もあってこそだろう
明るい性格で、体調が悪い時でもいつもニコニコしている
温厚篤実な性格で、義理堅い部分もあり、それは他の隊士達にも慕われる程だ
そんな浮竹隊長を見ていると、病弱だなんて嘘なんじゃないかと思ってしまう
あの人が笑っているだけで空気が柔らかくなり、自然とその周りに居た人達にも笑みが溢れる
私も自然と笑みが溢れたし、たぶんそんな浮竹隊長に心を救われた隊士は多いだろう
…だけどある日から、私はその笑みが怖くなった
何故なら浮竹隊長は私に愛を囁き、この身を抱く様になったからだ
いつしか私に向ける笑みに、黒い物が見える様になった
悪意の無い無邪気な笑みが怖い
私に向けるその愛が、日に日に重くなるのを感じた
私を無理矢理抱き、名前を呼び、愛を囁き、それを私自身にも求めてきた
何度も何度も
それは十三番隊を去った後も変わらない
寧ろ更に悪くなったと言ってもいい
都合の良いように私を呼び出しこの身を抱く
その呼び出す理由に友人であるルキアを使われた事が、とても気持ち良いものでは無く、どこか不快だった
ルキアの名前を出されたら、私がそれを断れない事を知っているのだ
私とルキアの関係を誰よりも側で見てきた浮竹隊長だからこそ、それが効果的なんだと知っている
ズルい人だ
私の心なんて意にも介さないのだから
十三番隊へ向かう足取りが遅くなり、道のりが長く感じる時もあった
その帰り道は周りには平然とした態度を貫きながらも、逃げる様に去って行った
いつしか浮竹隊長は、昔の様に純粋な明るい笑みを向ける事が無くなった
私を見る目はいつも黒く滲んで、不気味と思える様な笑みを向けるのだから
本当は以前の様ないつもの笑みを向けて欲しい…と、寂しくて、悲しくて、心が泣いていた
だがそんな淡い願いは当然叶うことは無い
目の前で吐血しても、口元をその血で汚しながら私に微笑み掛ける
そんな時にまで私の心を捕えようとするその笑みが怖く、それを見た瞬間鳥肌が立ち身体が強張った
それにいつの間にかあの人の中で、どうやら私とは恋人の様な関係になっている
そんな筈は無いのに、自分達は愛し合っているんだと…何度も言われた
分からなかった
何故そこまでして私を愛し、その向ける愛が歪んでしまったのか
だからこそ浮竹隊長のあの笑みが怖くて苦しかった
その瞳に孕んだ愛の欲望から、私は逃れられない
逃がさないと言い聞かされるのだ
これが私が、
浮竹十四郎と言う男から受けた
〝狂った寵愛″の果てである