【その愛は深淵のように】
〜愛の形〜
愛には色んな形がある
家族・友人・仲間・上司・部下
それぞれ親愛や敬愛が生まれ、その愛がその者達の関係を形作り色付けていく
その中でも私は、
男女間の〝愛″と言うものが良く分からなかった
それに気付いたのは霊術院時代…
真央霊術院は死神育成機関だ
その真央霊術院で死神になるのを目指す一方で、愛だの恋だの好きだのと、色恋沙汰に目覚める者も少なくは無かった
当時、そう言った話は私に関係の無い事だと思っていた
何故なら私は自分の事で手一杯で、誰かを好きになる余裕なんてものは無かった
周りに影響が出ない様に、溢れる力を制御する為に必死で踠いていたから
他の人達を見ていると、私もいつしか誰かを好きになって、その人を愛すようになるのか…なんて遠い未来を考えた事もあった
それでも私には縁遠い物だと思えた
そんなある日、私を好きだと言う人が現れた
初めての事で正直戸惑った
好きだと言われても、私の心が傾く事は無い
付き合って欲しいと言われたが、丁重にお断りした
それからまた別の人に好きだと言われた
最初の人と同じ様にお断りしたら、これから好きになっていけば良いからと、とりあえず付き合ってみないかと言われた
それでも私はその提案を受け入れる事が出来なかった
それから何人もの人が私を好きだと言い始めたが、私の心が傾く事は一度も無かった
私の中には愛が無いのだろうか?
それとも心が無いのだろうか?
一度も異性として誰かを好きになることは無かった
例え何度も同じ人に好きだと言われても、情熱的な愛の告白を受けたとしても、私の心は傾かない
それでも何度もアプローチしてくれる人は、少なからず私の心の中でその存在が大きくなっていった
それでも私がその愛を受け入れる事も、
私の愛が芽生える事も無かった…
私が誰かを好きにならなくても特段問題は無い
無理に好きになる必要も無い
そんな日が続いたある日、私はふと気付いた
周りの人達には仲の良い友人と言う存在が居るものの、私自身は友人と呼べる者がいなかった
仲良くしてくれる人は居たが、どこか一線を置かれ、それ以上私の中に踏み込んで来ようとしない
私の中に、少しだけ穴が空いた様だった
自分は孤独だと思えた
私は私で日が経つにつれ力の制御が難しくなり、自分から他と関わる事もしなかった
それでも男女問わず、向こうから歩み寄ってくれる人は居たから、周りとの関係性に不満を抱く事は無かった
そしてもう一つ、私には分からない事があった
それは〝自分の好きな物″
周りが「あれが好き、これが好き」と言う中で、自分の好きな物を挙げる事が出来なかった
嫌いな物も特に無ければ、好きな物も無い
もしかしたら私には何かを〝愛する心″が無いのかもしれない…と、そう思うようになった
だから何度も好きだと告げられても、心がそちらに傾く事は無く、それを受け取っても受け入れる事が出来ないのかもしれない
それに気付き始めた頃、私は自分の斬魄刀の名を知り、その厄介な力に悩まされた
精神を乗っ取られる様な感覚に、異常な戦闘心
自分自身でもこれは危険だと認知出来る
そしてその斬魄刀は私を抱き寄せこう言い放った
「我が主、俺を愛せ…そして受け入れろ」
その瞬間、私は自分の斬魄刀を好きになる事が出来ないと悟った
この時はまだ嫌悪感は生まれなかったが、自分の斬魄刀が後々嫌いな存在へと変わっていく事となる
…私は心から誰かを愛する事が出来るのだろうか?
だとしてもそれは本当に必要な事なのだろうか?
誰かを愛する前に、先ずは何かを好きにならなければ、それに愛が芽生える事は無いだろう
色んな愛の形がある中で、恋愛感情として形成される愛が、私には分からない
そもそも私を好きと言う人達は、どんな目で私を見ていて私をどうしたいのだろうか?
私には分からない
だからと言って、付き合った男女がその後、どう言った行為をするのか…全く無知な訳じゃない
少なからず、それを目的として私に近付く人達も存在していた
自由自在に燃えて消えゆく愛
もしかして私は、心から誰かを愛せる人達が羨ましいのかもしれない
だがそれで私に向けられた愛は、どうしても受け入れる事が出来ない
…一時の情に流されれば、その身を滅ぼす
それは私の溢れる力を抑える為に、院生時代から念頭に置いてきた言葉
例え異常な愛を受けたとしても、自分の溢れる力を制御する為、その鍛錬の一つの手段として、気持ちを流されない様に心を抑えてきた
私を形作る信念や矜持であるその言葉が、私の足枷になり、誰かの愛を一切受け入れる事が出来ないのかもしれない…
これが私の中に有る
愛と呼ぶにはほど遠い
〝愛の形″だ
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