for someone(キン肉マンスーパー・フェニックス夢小説)
名前を変える
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝。決められたいつもの時間に、フェニックスはベッドのうえでむくりと上半身をおこした。かたわらでは彼女がいまだふかく寝入っている。
彼は手ばやく身じたくをすませると日課のジョギングのために家をでた。すでに秋分をすぎ、朝晩はだいぶすごしやすくなった。ゆっくりしたペースでいつものコースをたどる。そこここの草花や樹木、そしてあかるくなったばかりの空。変わりゆく季節とともに、目にうつるあらゆるものが色や姿かたちを変えている。フェニックスの脳内にはそれらの学名や生態などが、意図せずともとめどなくあふれ、ながれてゆく。彼の脳は思考活動がおこなわれていないときでさえ、いつもこんなふうに情報のカケラが漂っている。だけどそれらは主がそうと決めさえすれば、たちまちパッとたち消え、ただひとつこれと決めた目的にむかって猛烈な演算をはじめるのだ。たとえばリングにあがったときなど。
フェニックスはそこそこのペースでコースを走りおえて帰宅した。ところがいつものように「おかえり」と、彼をでむかえる声はなく、キッチンは静まりかえっていた。けげんに思ったフェニックスが寝室の様子をうかがうと、彼女は彼が出かけたときとおなじ様子で寝息をたてていた。枕もとにおいたモバイルのアラームがなった様子もない。ところがそこで、彼女が代休をとったと言っていたことを思いだし、そのまま寝かせておくことにした。はだけた毛布をなおしてやると夢でもみているのか、うれしそうになにやらつぶやいた。やすらかにねむる彼女の様子に、フェニックスは思わず笑みをうかべた。そのまなざしには、病床の母を見守っていたころとおなじ、慰撫の光があった。
かつてのフェニックスは善良で真面目で、そしてとりわけ不器用だった。
ほんとうに、それは真実だ。
だからこそ彼はキン肉族に憤怒し、ついに王位を求めるに至ったのだ。老成した今となっては、それが若者が陥りがちな自己欺瞞であり、誤謬であったことを、彼自身もよく理解している。
けだし敗北とは、他者ではなく自身に対するものなのだ。
キッチンにもどったフェニックスは、マグカップいっぱいに熱いコーヒーを淹れ、ニュースをながめながらゆっくりとそれをのんだ。それから冷蔵庫から卵を二個とりだし、二人分の目玉焼きをつくった。もしも彼女が起きてこなかったら、そのぶんは自分が食べてしまえばいい。それはとてもぜいたくなことのように思えた。母とくらしていたあのころのことを考えれば。
だけど結局、フェニックスが食べた目玉焼きは一枚だけだった。トースターのなかのパンが焼きあがるころ、彼女があわてた様子で姿をあらわしたからだ。
「やだ、寝すごしちゃった!!」
「休みなのだろう?」
「けど、ご飯」
「それくらいオレにだってできる。たまにはいいだろう」
フェニックスは皿を二枚とりだし目玉焼きをのせて、うながすようにめいめいの席においた。彼女が席につくと、ついでコーヒーとトーストもならべられた。フェニックスも腰をおろし、食前のあいさつを二人ですませると、彼女ははじめて恋人の手料理を口にした。
「おいしい、いままで食べたなかでいちばんおいしい目玉焼き」
「大げさだな、おまえは」
フェニックスはつとめて無表情をよそおってそう応えた。それでも彼女のうれしそうな様子にあのころを重ねあわせた。そうして「誰かのためにしてやれることがあるというのは、あんがい幸せなのだな」と心中ひそかに考えていた。
それから二人はコーヒーをのみながら、時間を気にせずおしゃべりをたのしんだ。天気は上々のようだから、午後からは街にでて、映画のひとつも観るのかもしれない。
なににせよ今日が終わるころには、きっと二人は今よりももう少し仲よくなっているだろう。
end
(2025.09.27 書き下ろし)
彼は手ばやく身じたくをすませると日課のジョギングのために家をでた。すでに秋分をすぎ、朝晩はだいぶすごしやすくなった。ゆっくりしたペースでいつものコースをたどる。そこここの草花や樹木、そしてあかるくなったばかりの空。変わりゆく季節とともに、目にうつるあらゆるものが色や姿かたちを変えている。フェニックスの脳内にはそれらの学名や生態などが、意図せずともとめどなくあふれ、ながれてゆく。彼の脳は思考活動がおこなわれていないときでさえ、いつもこんなふうに情報のカケラが漂っている。だけどそれらは主がそうと決めさえすれば、たちまちパッとたち消え、ただひとつこれと決めた目的にむかって猛烈な演算をはじめるのだ。たとえばリングにあがったときなど。
フェニックスはそこそこのペースでコースを走りおえて帰宅した。ところがいつものように「おかえり」と、彼をでむかえる声はなく、キッチンは静まりかえっていた。けげんに思ったフェニックスが寝室の様子をうかがうと、彼女は彼が出かけたときとおなじ様子で寝息をたてていた。枕もとにおいたモバイルのアラームがなった様子もない。ところがそこで、彼女が代休をとったと言っていたことを思いだし、そのまま寝かせておくことにした。はだけた毛布をなおしてやると夢でもみているのか、うれしそうになにやらつぶやいた。やすらかにねむる彼女の様子に、フェニックスは思わず笑みをうかべた。そのまなざしには、病床の母を見守っていたころとおなじ、慰撫の光があった。
かつてのフェニックスは善良で真面目で、そしてとりわけ不器用だった。
ほんとうに、それは真実だ。
だからこそ彼はキン肉族に憤怒し、ついに王位を求めるに至ったのだ。老成した今となっては、それが若者が陥りがちな自己欺瞞であり、誤謬であったことを、彼自身もよく理解している。
けだし敗北とは、他者ではなく自身に対するものなのだ。
キッチンにもどったフェニックスは、マグカップいっぱいに熱いコーヒーを淹れ、ニュースをながめながらゆっくりとそれをのんだ。それから冷蔵庫から卵を二個とりだし、二人分の目玉焼きをつくった。もしも彼女が起きてこなかったら、そのぶんは自分が食べてしまえばいい。それはとてもぜいたくなことのように思えた。母とくらしていたあのころのことを考えれば。
だけど結局、フェニックスが食べた目玉焼きは一枚だけだった。トースターのなかのパンが焼きあがるころ、彼女があわてた様子で姿をあらわしたからだ。
「やだ、寝すごしちゃった!!」
「休みなのだろう?」
「けど、ご飯」
「それくらいオレにだってできる。たまにはいいだろう」
フェニックスは皿を二枚とりだし目玉焼きをのせて、うながすようにめいめいの席においた。彼女が席につくと、ついでコーヒーとトーストもならべられた。フェニックスも腰をおろし、食前のあいさつを二人ですませると、彼女ははじめて恋人の手料理を口にした。
「おいしい、いままで食べたなかでいちばんおいしい目玉焼き」
「大げさだな、おまえは」
フェニックスはつとめて無表情をよそおってそう応えた。それでも彼女のうれしそうな様子にあのころを重ねあわせた。そうして「誰かのためにしてやれることがあるというのは、あんがい幸せなのだな」と心中ひそかに考えていた。
それから二人はコーヒーをのみながら、時間を気にせずおしゃべりをたのしんだ。天気は上々のようだから、午後からは街にでて、映画のひとつも観るのかもしれない。
なににせよ今日が終わるころには、きっと二人は今よりももう少し仲よくなっているだろう。
end
(2025.09.27 書き下ろし)
1/1ページ
