だからこれからはもう少し(キン肉マンスーパー・フェニックス夢小説)
名前を変える
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
南から大きな台風が近づきつつあった。天気予報は数日前からそのことを知らせていて、もう季節の変わり目なんだなと思った。いよいよ本州に上陸となったところで台風は勢力を増し、昨日の昼ごろからは雨がふり出した。それは夜半をすぎて勢いをまし、朝になると文字どおりの豪雨になっていた。朝のニュースでは外出をひかえるように注意をうながしていて、そのことを朝食の席でフェニックスにつたえると「そうか」と一言。それから少しして「今日は家にいることにした」とつげられた。雨は好きじゃないけど、一緒にいられる時間ができたのはうれしい。だからお昼ごはんにハヤシライスを作ることにした。お肉はおつとめ品で買って冷凍しておいた、とっておきの国産牛(しかも黒毛和牛!)を使うことにする。それからご飯は刻んだパセリとバターを混ぜこんだパセリバターライス。ほかにコールスローサラダとコンソメスープも用意した。
昼食の席についたフェニックスはテーブルのうえの料理を見て「なんだか豪華だな」っていぶかしがっていたけれど、てきとうにごまかしておいた。わたしにはうれしい予定変更でもフェニックスには違うだろうし。それでもハヤシライスをおかわりしてくれて、テーブルを離れるとき「美味かった」って言ってくれたので、なんだか今日は神ってるなって思った。
ふたりで食後のコーヒーを飲んだあと、わたしは昼食の片づけものをした。すっかり台所をキレイにしてリビングにいくと、フェニックスはソファで読書をしていた。それはとてもぶ厚い本で、どうやら物理に関する内容のようだった。と、いってもわたしにはそれ以上の内容はサッパリで、どこかのスパイが使ってる暗号みたいにチンプンカンだけど。気づかれないように背後から、フェニックスの姿を見つめてみる。すこし前かがみになったうしろ姿。超人のなかではどちらかといえば小柄だけど、逆三角形の背中はきっちりと鍛えあげられていて、白いポロシャツごしにもそれがうかがえる。僧帽筋から三角筋をへて上腕二頭筋につらなる筋肉の盛りあがりが、ページをめくるときにかすかにうごく。紙片の一枚一枚から知識をつみとり、そのたびに彼の頭のなかに新しい知識が詰めこまれていく。ゆっくり、だけど確実に。そしてただひたすらにそれをくり返す。
こんなふうにフェニックスが本を読んだり書きものをしている姿をながめるのが好きだ。わたしの知的レベルでは彼の考えていることはすこしも理解できないけど、本を読んでいる姿を見ていると、その世界に少しだけ近づけた気がするから。
ふと、フェニックスはとつぜんこちらを向いた。彼は本を読むときにはいつも黒縁のメガネをかけている。いかにもガリ勉といった雰囲気だけど、レンズに度ははいっていない。もともとはキン肉星で彼がまだお母さんの看病をしていたころ、近視を矯正するために使っていたものだ。王位争奪戦を目前に知性の神の憑依を経て、心身ともに強大な力を手にいれた瞬間、すっかり視力は矯正されてしまった。神の呪縛から解放されたあと力は消えうせたが、なぜか視力だけはそのままで、メガネは不要になったが、それをかけているとなんとなく気分が落ちつくらしい。
「視線を感じたのだが、なにか用か?」
「き、気のせいじゃないかな」
「……そうか」
本を読んでいるさなかに背後の視線に気づくなんて、さすが超人は気配に鋭い。わたしは話をうやむやにしようとシラをきり、彼とは別のソファに腰をおろした。ちょうどフェニックスのソファと直角の位置でコの字をなしている。
フェニックスはそれ以上いぶかしむこともせず、ふたたび本のページに視線をおとした。わたしはパンツのポケットにいれていたモバイルを取りだして、メッセージアプリをチェックするフリをして、また横目で彼に視線をそそいだ。もはやすっかり読書に没入し、声にならないつぶやきを漏らしながらページを繰っている。
もともと体育会系のスポーツの得意タイプよりも知的なタイプが好きだった。ミステリものなら、緻密な論理を組み上げて犯人を追いつめる探偵とか。超人レスリングにおけるフェニックスの強さとその戦闘スタイルは膂力のみならず――いや、むしろ知性によって構築されたといってもいい。
かつてフェニックスには責められるべき咎があった。それでいっときは人びとの前から姿を消していたけれど、オメガの超人らが地球に襲来したとき、彼は元・王子候補たちとともにまっさきにそれにたちむかった。もはやフェニックスは奸計をたくらむことも、腹蔵だらけのルールに拘泥することもなく、過去を糾弾されても昂然とそれを容認してみせた。自身の汚名をそそぐためではなく、果たすべき使命のために。
知性のもたらすゆるぎない確信につきうごかされる彼の姿と言葉に、当時のわたしは信じられないくらい気分が高揚した。
それからずっと、どうしようもなくこの超人――誰になにを言うでもなく、ただひたすら己の信じた道をいく――、キン肉マンスーパー・フェニックスに惹かれつづけている。
こうしてパートナーとして彼のとなりにいられて、とても幸せだ。だけどそれと同じぶんだけ、臆してしまうこともある。フェニックスの言葉は鋭すぎるときがあるのだ。まるでよく砥がれた刃物みたいに。そのせいでわたしは知らないうちに心に傷を負っている。あとになってそこがピリリと痛んで、それではじめて「ああ傷ついたんだな」と気づく。
だけどその刃が鋭利であればあるほど彼の魅力が増すのもまた事実だ。一片の迷いもない眼差しと声音、つむぎだされる言の葉。フェニックスにそれらを向けられた相手は、当人すら気づいていない隠された心さえ、すっかりあらわにされてしまう。それを無慈悲にうがつ彼の様子はまるで神による断罪だ。
好きで、そばにいたくて、だけどやっぱり痛いのは怖い。だからいつもこんなふうにしかできないんだと思う。
またしてもわたしはじっとフェニックスを見つめていた。そしてその視線に気づいた彼も、ふたたびこちらに向きなおる。
「……何度も同じことを聞くが、なにか用か?」
レンズ越しにのぞく、品定めするような視線。いつまでたってもわたしはこれに慣れることができない。まるで教卓の前に立たされて先生に叱られている小学生みたいな心もちだ。まあ実際、わけもなくジーッと様子をうかがってるなんてけしてほめられたものじゃない。
「えっと、ごめんなさい」
「なぜ、あやまる」
「あなたのこと、ずっと見てたから。キモいのは自分でも分かってる」
「そんなことは、言ってない」
でもその眉間のシワとへの字にむすんだマスクの口もとが、わたしは気になってしかたない。
たとえばあなたに「バカだな」と言われれば本当に「自分はバカだ」と思ってしまう。こうも的確かつ完全に、相手を変えてしまうほどの言葉をほかの誰が吐けるだろうか。それは彼が己の知性を、そして世界にあまたある知識をこの上なく愛し、信じ切っているからこそ為せることなのだ。とはいえ、近ごろはそれが指摘ではなく婉曲な愛情表現の場合もあるってこと、ほんの少しだけ分かってきたけれど。
「ちゃんと考えていることを言ってくれ。また、おまえを不安にさせているのかと気になってしまう」
その言葉に、わたしの胸の奥でなにかがほどけた気がした。「わたしがフェニックスを理解できない」の裏には「フェニックスがわたしを理解できない」もあるのかもしれない。わたしたちはとても違いすぎているから。
「わたし、フェニックスが本を読んだり考えごとしているのを見るのが好きなの。それで、つい」
口ごもるわたしの頭に、フェニックスの手のひらがそっとのせられた。黒縁のメガネごしに向けられる視線はいつもどおり鋭くて、だけどそこには優しさもたしかにあって、わたしは小さく息を吐いた。
相手の考えていることを察することができなくても、だからといってそれで互いを想いあう気もちまで消えてしまうわけじゃないんだ。言いたくて言えなくて、いき場をなくした気もちが、わたしのなかで何度はじけても、この人はそれをちゃんと読みとこうとしてくれる。
だから、これからはもう少し自分に自信をもとう。
「それは、うれしいことだ」
フェニックスがやっとわらってくれた。
end
(2025.09.06 書き下ろし)
昼食の席についたフェニックスはテーブルのうえの料理を見て「なんだか豪華だな」っていぶかしがっていたけれど、てきとうにごまかしておいた。わたしにはうれしい予定変更でもフェニックスには違うだろうし。それでもハヤシライスをおかわりしてくれて、テーブルを離れるとき「美味かった」って言ってくれたので、なんだか今日は神ってるなって思った。
ふたりで食後のコーヒーを飲んだあと、わたしは昼食の片づけものをした。すっかり台所をキレイにしてリビングにいくと、フェニックスはソファで読書をしていた。それはとてもぶ厚い本で、どうやら物理に関する内容のようだった。と、いってもわたしにはそれ以上の内容はサッパリで、どこかのスパイが使ってる暗号みたいにチンプンカンだけど。気づかれないように背後から、フェニックスの姿を見つめてみる。すこし前かがみになったうしろ姿。超人のなかではどちらかといえば小柄だけど、逆三角形の背中はきっちりと鍛えあげられていて、白いポロシャツごしにもそれがうかがえる。僧帽筋から三角筋をへて上腕二頭筋につらなる筋肉の盛りあがりが、ページをめくるときにかすかにうごく。紙片の一枚一枚から知識をつみとり、そのたびに彼の頭のなかに新しい知識が詰めこまれていく。ゆっくり、だけど確実に。そしてただひたすらにそれをくり返す。
こんなふうにフェニックスが本を読んだり書きものをしている姿をながめるのが好きだ。わたしの知的レベルでは彼の考えていることはすこしも理解できないけど、本を読んでいる姿を見ていると、その世界に少しだけ近づけた気がするから。
ふと、フェニックスはとつぜんこちらを向いた。彼は本を読むときにはいつも黒縁のメガネをかけている。いかにもガリ勉といった雰囲気だけど、レンズに度ははいっていない。もともとはキン肉星で彼がまだお母さんの看病をしていたころ、近視を矯正するために使っていたものだ。王位争奪戦を目前に知性の神の憑依を経て、心身ともに強大な力を手にいれた瞬間、すっかり視力は矯正されてしまった。神の呪縛から解放されたあと力は消えうせたが、なぜか視力だけはそのままで、メガネは不要になったが、それをかけているとなんとなく気分が落ちつくらしい。
「視線を感じたのだが、なにか用か?」
「き、気のせいじゃないかな」
「……そうか」
本を読んでいるさなかに背後の視線に気づくなんて、さすが超人は気配に鋭い。わたしは話をうやむやにしようとシラをきり、彼とは別のソファに腰をおろした。ちょうどフェニックスのソファと直角の位置でコの字をなしている。
フェニックスはそれ以上いぶかしむこともせず、ふたたび本のページに視線をおとした。わたしはパンツのポケットにいれていたモバイルを取りだして、メッセージアプリをチェックするフリをして、また横目で彼に視線をそそいだ。もはやすっかり読書に没入し、声にならないつぶやきを漏らしながらページを繰っている。
もともと体育会系のスポーツの得意タイプよりも知的なタイプが好きだった。ミステリものなら、緻密な論理を組み上げて犯人を追いつめる探偵とか。超人レスリングにおけるフェニックスの強さとその戦闘スタイルは膂力のみならず――いや、むしろ知性によって構築されたといってもいい。
かつてフェニックスには責められるべき咎があった。それでいっときは人びとの前から姿を消していたけれど、オメガの超人らが地球に襲来したとき、彼は元・王子候補たちとともにまっさきにそれにたちむかった。もはやフェニックスは奸計をたくらむことも、腹蔵だらけのルールに拘泥することもなく、過去を糾弾されても昂然とそれを容認してみせた。自身の汚名をそそぐためではなく、果たすべき使命のために。
知性のもたらすゆるぎない確信につきうごかされる彼の姿と言葉に、当時のわたしは信じられないくらい気分が高揚した。
それからずっと、どうしようもなくこの超人――誰になにを言うでもなく、ただひたすら己の信じた道をいく――、キン肉マンスーパー・フェニックスに惹かれつづけている。
こうしてパートナーとして彼のとなりにいられて、とても幸せだ。だけどそれと同じぶんだけ、臆してしまうこともある。フェニックスの言葉は鋭すぎるときがあるのだ。まるでよく砥がれた刃物みたいに。そのせいでわたしは知らないうちに心に傷を負っている。あとになってそこがピリリと痛んで、それではじめて「ああ傷ついたんだな」と気づく。
だけどその刃が鋭利であればあるほど彼の魅力が増すのもまた事実だ。一片の迷いもない眼差しと声音、つむぎだされる言の葉。フェニックスにそれらを向けられた相手は、当人すら気づいていない隠された心さえ、すっかりあらわにされてしまう。それを無慈悲にうがつ彼の様子はまるで神による断罪だ。
好きで、そばにいたくて、だけどやっぱり痛いのは怖い。だからいつもこんなふうにしかできないんだと思う。
またしてもわたしはじっとフェニックスを見つめていた。そしてその視線に気づいた彼も、ふたたびこちらに向きなおる。
「……何度も同じことを聞くが、なにか用か?」
レンズ越しにのぞく、品定めするような視線。いつまでたってもわたしはこれに慣れることができない。まるで教卓の前に立たされて先生に叱られている小学生みたいな心もちだ。まあ実際、わけもなくジーッと様子をうかがってるなんてけしてほめられたものじゃない。
「えっと、ごめんなさい」
「なぜ、あやまる」
「あなたのこと、ずっと見てたから。キモいのは自分でも分かってる」
「そんなことは、言ってない」
でもその眉間のシワとへの字にむすんだマスクの口もとが、わたしは気になってしかたない。
たとえばあなたに「バカだな」と言われれば本当に「自分はバカだ」と思ってしまう。こうも的確かつ完全に、相手を変えてしまうほどの言葉をほかの誰が吐けるだろうか。それは彼が己の知性を、そして世界にあまたある知識をこの上なく愛し、信じ切っているからこそ為せることなのだ。とはいえ、近ごろはそれが指摘ではなく婉曲な愛情表現の場合もあるってこと、ほんの少しだけ分かってきたけれど。
「ちゃんと考えていることを言ってくれ。また、おまえを不安にさせているのかと気になってしまう」
その言葉に、わたしの胸の奥でなにかがほどけた気がした。「わたしがフェニックスを理解できない」の裏には「フェニックスがわたしを理解できない」もあるのかもしれない。わたしたちはとても違いすぎているから。
「わたし、フェニックスが本を読んだり考えごとしているのを見るのが好きなの。それで、つい」
口ごもるわたしの頭に、フェニックスの手のひらがそっとのせられた。黒縁のメガネごしに向けられる視線はいつもどおり鋭くて、だけどそこには優しさもたしかにあって、わたしは小さく息を吐いた。
相手の考えていることを察することができなくても、だからといってそれで互いを想いあう気もちまで消えてしまうわけじゃないんだ。言いたくて言えなくて、いき場をなくした気もちが、わたしのなかで何度はじけても、この人はそれをちゃんと読みとこうとしてくれる。
だから、これからはもう少し自分に自信をもとう。
「それは、うれしいことだ」
フェニックスがやっとわらってくれた。
end
(2025.09.06 書き下ろし)
1/1ページ
