Egyptian(ミスターカーメン夢小説)
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ずいぶん昔「エジプト人のように歩け」と歌った女性バンドがあった。
彼女はたまに考える。その歌はミスターカーメンをモデルにして作られたのではないか、と。
彼は誰もが思い浮かべるエジプト人そのものの出で立ちだから。彼は太陽を象徴する色である黄色を基調とした頭巾 と襟飾り 、腰布 を身につけているのだ。そしてネメスの正面にはファラオの守護者であるコブラの記章がほどこされている。ミスターカーメンは古代エジプトのとても古い王家の血脈を受けついでいるのだ。一族は栄枯盛衰の果てに王家の立場を追われたが、その血脈が途絶えることはなかった。彼らは御位を降りたあと、代々の王家の墓――俗に言うピラミッド――に潜み、ひっそりと生き続けてきた。
ピラミッドに墓泥棒と称される闖入者がしばしば現れることは巷間によく知られていることだが、カーメンの一族は彼らを糧としてきた。獲物をとらえる際は、まず相手の身体をシェンティで包みこんで拘束する。霊力のこめられたこの呪物に包まれてしまうと、抜け出すことは不可能に近い。次に隠し持った筒をストローのように獲物の身体に突き刺し、体液を一滴残らず吸い取ってしまう。それは広大な閉鎖空間の生活において、貴重な資源を最大限有効活用するために考え出された秘術だ。市井に紛れて生きる現代で、それらはもはや必要なくなってしまったが、ミスターカーメンは「ミイラパッケージ」や「カルトゥーシュストロー」という名のフェイバリットホールドとしてリングで使い続けている。
子々孫々にわたり暗所で生活し続けた結果、カーメンの一族の肌の色は陶器人形のように白くなった。そしてその瞳もまた同じような変化をおこした。それは暑く乾燥した空気のせいでカラカラに干からびたエジプトの草たちが嫉妬するような美しい緑色をしていて、まるで大きなオリビンが二つ、そこにはめ込まれているようだ。彼の風貌がエジプト人らしくないのはそれらが理由だ。
彼女はその緑の色をむけられるといつも心臓をぎゅっとわし掴みにされた気分になって、そのまま放心してしまう。その度にカーメンはそれをたしなめたり面白がったりする。そんなとき、彼女は思う。大昔、ピラミッドのなかで彼のご先祖に掴まった人たちも、自分のように呆けているうちに食べられてしまったのではないか、と。そしてそんな相手とひとつ屋根の下で暮らしていることが、彼女はいまだに信じられない。それにカーメンは悪魔超人で、かつて蛮行で名をはせた「七人の悪魔超人」の一人でもあるのだ。
と、いってもそれは昔の話で、いまは人間相手にエジプト占星術を行っている。かつて彼がミート君人質作戦のさなかに戦いの趨勢を予言したことはあまりにも有名だ。そんな人物に自分の将来や運命を占ってもらいたいと、いつも予約は一杯になっている。
現在時刻は昼に近い。
彼女はカウンターキッチンでひき肉をこねて何やら昼食をこしらえている。傍らのバットには細長い棒状の肉塊が一個師団を形成していた。それはエジプト料理のコフタと呼ばれる肉団子に仕上がる予定だ。料理に使われているコリアンダーなどの各種スパイスが漂い、そこはかとなくエキゾチックな雰囲気がただよっている。リビングではカーメンが水タバコを愉しんでいた。彼はペルシャ絨毯に優雅にあぐらをかいて、錬金術を思わせる装置からのびた細長いホースに口をつけ、ときおり口からもうもうと煙を吐き出している。その薫香もまた異国情緒を強めていた。
やがて昼食の支度が整い、二人はテーブルについた。コフタや、コシャリと呼ばれるパスタ入りのライスを盛り合わせた二つの大皿がそれぞれの前に置かれている。
この食事が済んだらカーメンは占いの仕事に出かける予定だ。
食事のあと、支度をととのたえカーメンは玄関で彼女に告げた。
「行ってくる、帰りは遅くなるから先に寝ていろ」
「さみしいんだけど、な」
「我慢してくれ、その代わり週末はどこかそなたの行きたいところへ行こう」
カーメンが彼女の頬にキスをする。その身体から、よい香りがふわりと漂った。
それは古代エジプトで神々のためにたかれた香のひとつだった。キフィと呼ばれるその香はシナモン、ペパーミントを始めとした様々なハーブや木の実、果実などが混ぜ合わされており、別名「神々を迎える香水」とも呼ばれている。これをカーメンはオリジナルの調合で自作し、自分の身のまわりで使っている。
職場への道をたどるカーメンはネメスにウセクとシェンティをまとい、まるでファラオそのものの出で立ちだった。いかにもといったこの装いが、彼の占いの信憑性をいや増している。
しかし祖先は糧としていた人間をカーメンは占いの相手にしていて、それを皮肉なことだと考えている。まして望まれざる結果がでるとそれに対する助言まで与えているのだ。相手の恐れを取りのぞくために。恐れ――それはむしろかつて一族が人間たちにむしろ与えていたものではないか。とはいえ人間の女とねんごろになり、二人で暮らしている今の自分が何をかいわんや、だろう。
さて、今夜の客は何を占いに自分のもとへやってくるだろうか。
その夜、彼女はキフィの香りに抱かれながら、ひとり眠りに落ちていた。
夢のなかにはカーメンがいた。彼はリングの上で戦っていて、彼女はそれを見守っている。
カーメンは首から上だけの奇怪な姿で、対戦相手の首もとにその鋭い牙を深く突きたてていた。相手の超人も彼に劣らず奇怪だった。リングコスチュームは紫色、身体の各所は機械のパーツでできていて、背中から六本の細長い鉄板がクジャクの羽根のように生えている。それは赤と黒の二色に別れていて、さながら磁石の両極を思わせた。
カーメンの噛みつき攻撃に相手は苦悶の表情を浮かべているが、カーメンは涼しい顔をしていて、彼女はその様子に(カーメンたら、こんな時でも美男子ね)などと、どうしようもなく場違いなことを考えていた。
しかしカーメンの額のコブラめがけて相手が強烈なパンチを放ったとたん、彼は叫び声をあげ、苦悶の表情とともに隠れていた胴体までも姿を現した。
恋人のピンチに彼女もまた叫び声をあげた。
「カーメン!」
彼女は自分の声でとびおきた。気がつくとパジャマンは汗でビッショリと濡れている。
眠っているあいだに帰ってきたのか、ベッドの隣にはカーメンがいた。
「どうした、急に?」
気づかう声音に彼女はホッと安堵の息をはいた。
「ううん、なんでもない。ごめんなさい、ビックリさせて」
「ずいぶんうなされていたようだが」
「……夢を見たのよ」
彼女が夢の内容を説明するとカーメンは眉根を寄せた。
「そのような相手には覚えがないな。それよりもこの部屋で悪夢を見たということのほうが気になる」
寝室にもキフィが焚かれていた。「聖なる煙」という意味をもつこの香は、悪しきものを部屋に立ち入らせないように用いられることもある。だから今夜はその守られた空間――いわば結界のなかで悪夢という怪異がおきたわけで、カーメンの懸念はそれに由来していた。
「わたし、怖いわ。あんな風に何かあったらどうしよう」
「こちらへ」
カーメンは不安で身を縮こまらせる彼女を招き寄せると、そっと抱きしめた。そして相手の髪をなでながら、言い聞かせるように耳元でささやいた。
「私は不滅だ。そしていつまでもそなたと共にある」
「ほんとうに?」
「このミスターカーメンが嘘をついたことが今までにあったか?」
「……ないわ」
じっとこちらをのぞきこむカーメンの瞳は、いつも通りに清らかに透きとおったオリビンのようで、その色が心に染みこんでいくうちに彼女の不安は溶け、やがて消えた。
「案ずることは何もない――眠れ、棺のなかの王のように」
まるで呪文を唱えるようなカーメンの声を聞きながら、彼女はゆるゆると深い眠りに沈んでいった。
end
彼女はたまに考える。その歌はミスターカーメンをモデルにして作られたのではないか、と。
彼は誰もが思い浮かべるエジプト人そのものの出で立ちだから。彼は太陽を象徴する色である黄色を基調とした
ピラミッドに墓泥棒と称される闖入者がしばしば現れることは巷間によく知られていることだが、カーメンの一族は彼らを糧としてきた。獲物をとらえる際は、まず相手の身体をシェンティで包みこんで拘束する。霊力のこめられたこの呪物に包まれてしまうと、抜け出すことは不可能に近い。次に隠し持った筒をストローのように獲物の身体に突き刺し、体液を一滴残らず吸い取ってしまう。それは広大な閉鎖空間の生活において、貴重な資源を最大限有効活用するために考え出された秘術だ。市井に紛れて生きる現代で、それらはもはや必要なくなってしまったが、ミスターカーメンは「ミイラパッケージ」や「カルトゥーシュストロー」という名のフェイバリットホールドとしてリングで使い続けている。
子々孫々にわたり暗所で生活し続けた結果、カーメンの一族の肌の色は陶器人形のように白くなった。そしてその瞳もまた同じような変化をおこした。それは暑く乾燥した空気のせいでカラカラに干からびたエジプトの草たちが嫉妬するような美しい緑色をしていて、まるで大きなオリビンが二つ、そこにはめ込まれているようだ。彼の風貌がエジプト人らしくないのはそれらが理由だ。
彼女はその緑の色をむけられるといつも心臓をぎゅっとわし掴みにされた気分になって、そのまま放心してしまう。その度にカーメンはそれをたしなめたり面白がったりする。そんなとき、彼女は思う。大昔、ピラミッドのなかで彼のご先祖に掴まった人たちも、自分のように呆けているうちに食べられてしまったのではないか、と。そしてそんな相手とひとつ屋根の下で暮らしていることが、彼女はいまだに信じられない。それにカーメンは悪魔超人で、かつて蛮行で名をはせた「七人の悪魔超人」の一人でもあるのだ。
と、いってもそれは昔の話で、いまは人間相手にエジプト占星術を行っている。かつて彼がミート君人質作戦のさなかに戦いの趨勢を予言したことはあまりにも有名だ。そんな人物に自分の将来や運命を占ってもらいたいと、いつも予約は一杯になっている。
現在時刻は昼に近い。
彼女はカウンターキッチンでひき肉をこねて何やら昼食をこしらえている。傍らのバットには細長い棒状の肉塊が一個師団を形成していた。それはエジプト料理のコフタと呼ばれる肉団子に仕上がる予定だ。料理に使われているコリアンダーなどの各種スパイスが漂い、そこはかとなくエキゾチックな雰囲気がただよっている。リビングではカーメンが水タバコを愉しんでいた。彼はペルシャ絨毯に優雅にあぐらをかいて、錬金術を思わせる装置からのびた細長いホースに口をつけ、ときおり口からもうもうと煙を吐き出している。その薫香もまた異国情緒を強めていた。
やがて昼食の支度が整い、二人はテーブルについた。コフタや、コシャリと呼ばれるパスタ入りのライスを盛り合わせた二つの大皿がそれぞれの前に置かれている。
この食事が済んだらカーメンは占いの仕事に出かける予定だ。
食事のあと、支度をととのたえカーメンは玄関で彼女に告げた。
「行ってくる、帰りは遅くなるから先に寝ていろ」
「さみしいんだけど、な」
「我慢してくれ、その代わり週末はどこかそなたの行きたいところへ行こう」
カーメンが彼女の頬にキスをする。その身体から、よい香りがふわりと漂った。
それは古代エジプトで神々のためにたかれた香のひとつだった。キフィと呼ばれるその香はシナモン、ペパーミントを始めとした様々なハーブや木の実、果実などが混ぜ合わされており、別名「神々を迎える香水」とも呼ばれている。これをカーメンはオリジナルの調合で自作し、自分の身のまわりで使っている。
職場への道をたどるカーメンはネメスにウセクとシェンティをまとい、まるでファラオそのものの出で立ちだった。いかにもといったこの装いが、彼の占いの信憑性をいや増している。
しかし祖先は糧としていた人間をカーメンは占いの相手にしていて、それを皮肉なことだと考えている。まして望まれざる結果がでるとそれに対する助言まで与えているのだ。相手の恐れを取りのぞくために。恐れ――それはむしろかつて一族が人間たちにむしろ与えていたものではないか。とはいえ人間の女とねんごろになり、二人で暮らしている今の自分が何をかいわんや、だろう。
さて、今夜の客は何を占いに自分のもとへやってくるだろうか。
その夜、彼女はキフィの香りに抱かれながら、ひとり眠りに落ちていた。
夢のなかにはカーメンがいた。彼はリングの上で戦っていて、彼女はそれを見守っている。
カーメンは首から上だけの奇怪な姿で、対戦相手の首もとにその鋭い牙を深く突きたてていた。相手の超人も彼に劣らず奇怪だった。リングコスチュームは紫色、身体の各所は機械のパーツでできていて、背中から六本の細長い鉄板がクジャクの羽根のように生えている。それは赤と黒の二色に別れていて、さながら磁石の両極を思わせた。
カーメンの噛みつき攻撃に相手は苦悶の表情を浮かべているが、カーメンは涼しい顔をしていて、彼女はその様子に(カーメンたら、こんな時でも美男子ね)などと、どうしようもなく場違いなことを考えていた。
しかしカーメンの額のコブラめがけて相手が強烈なパンチを放ったとたん、彼は叫び声をあげ、苦悶の表情とともに隠れていた胴体までも姿を現した。
恋人のピンチに彼女もまた叫び声をあげた。
「カーメン!」
彼女は自分の声でとびおきた。気がつくとパジャマンは汗でビッショリと濡れている。
眠っているあいだに帰ってきたのか、ベッドの隣にはカーメンがいた。
「どうした、急に?」
気づかう声音に彼女はホッと安堵の息をはいた。
「ううん、なんでもない。ごめんなさい、ビックリさせて」
「ずいぶんうなされていたようだが」
「……夢を見たのよ」
彼女が夢の内容を説明するとカーメンは眉根を寄せた。
「そのような相手には覚えがないな。それよりもこの部屋で悪夢を見たということのほうが気になる」
寝室にもキフィが焚かれていた。「聖なる煙」という意味をもつこの香は、悪しきものを部屋に立ち入らせないように用いられることもある。だから今夜はその守られた空間――いわば結界のなかで悪夢という怪異がおきたわけで、カーメンの懸念はそれに由来していた。
「わたし、怖いわ。あんな風に何かあったらどうしよう」
「こちらへ」
カーメンは不安で身を縮こまらせる彼女を招き寄せると、そっと抱きしめた。そして相手の髪をなでながら、言い聞かせるように耳元でささやいた。
「私は不滅だ。そしていつまでもそなたと共にある」
「ほんとうに?」
「このミスターカーメンが嘘をついたことが今までにあったか?」
「……ないわ」
じっとこちらをのぞきこむカーメンの瞳は、いつも通りに清らかに透きとおったオリビンのようで、その色が心に染みこんでいくうちに彼女の不安は溶け、やがて消えた。
「案ずることは何もない――眠れ、棺のなかの王のように」
まるで呪文を唱えるようなカーメンの声を聞きながら、彼女はゆるゆると深い眠りに沈んでいった。
end
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