L(キン肉マン二次小説)
Morning after
その日の朝、ベルリン界隈で一番塞ぎこんでいたのは恐らく彼、ブロッケンJr.だろう。
彼の住まう石造りの古めかしい屋敷は、建物全体がしんしんと底冷えがして、寒気のせいでブロッケンJr.は目を覚ました。その身体は応接間の時代錯誤なゴブラン織りのソファに横たわっていた。
重だるい身体、渇いた喉とひりつく口内。眉間にはズキズキと脈打つような痛みがある。完璧な二日酔いだ。
とはいえ連日目を覚ますとこの状態で、とくに驚くことでもない。
夕べも酒を飲みすぎ、寝室に引きあげる余力もなくなって、この部屋で眠りこんだのだろう。長時間無理な姿勢を続けたせいですっかり強ばった身体をやっとの思いでひき起こす。オークでできた重厚な柱時計へと目をむければ、時刻は午後1時をまわったところだった。己の自堕落さになお気分が沈みんで、彼は深いため息をひとつついた。
いつまでも付きまとう気鬱。そもそもこれは酒を飲みすぎたせいだろうか。
そうではない。
まず、気鬱があったのだ。
酒浸りの日々はそれがきっかけだった。
酒を飲み始めたばかりの頃はよかった。飲めばその分フワリと気持ちが楽になって、酔っているあいだは気鬱も忘れられた。しかしそれを繰り返すうちに量が増えていき、次に飲み始める時間が早くなった。そうして四六時中飲まずにはいられなくなり、やがて気がつくと酒で気を紛らわすことも出来なくなっていた。
飲むことを止められず、止められないことに焦り、さらに飲む。自分の愚かさに心底腹をたてながら浴びるほど飲んで、意識が泥に沈みこむ直前、その時だけは愚行の終わりに少しだけ安堵する。
そして朝になると目が覚める。
ブロッケンJr.はそんな毎日を繰返していた。
今年の夏の始めに、突然バッファローマンがブロッケンJr.のもとに現れた。「所用のついでに立ち寄った」と言っていたが、それがウソであることをブロッケンJr.はすぐに見抜いていた。手紙や電話にまったく返事がないため、業を煮やして自分に会うためにわざわざやって来たのだろう。もっとも、ブロッケンJr.はバッファローマンだけを袖にしていたのではない。昔の仲間全てと連絡を絶っていたのだけれど。しかし同じヨーロッパとはいえ、けして近くはない距離をはるばるやってきた仲間思いのこの男に、「会う気はないからとっとと帰れ」とはさすがにブロッケンJr.も言えなかった。
結局彼は(渋々とではあったけれど)バッファローマンを屋敷に招き入れ、ずいぶん久しぶりに旧知と呼べる相手と言葉を交わした。実際はバッファローマンが一方的にまくしたてていただけなのだが。
それでも本心ではブロッケンJr.も相手に尋ねたいことが山ほどあった。だけど、聞けば聞いたぶんだけ自分のことも話さなければならなくなる。それがたまらく嫌だった。
もっともある程度は風聞で彼の現状を察していただろうけれど。
しかし、バッファローマンはそんなことはおくびにもださず、つとに明るくふるまい、ついには「しばらくスペインへ来ないか」と、ブロッケンJr.を誘った。
スペイン――バッファローマンの国。
明るい時間はぶっ倒れるまでトレーニングで汗を流し、暗くなればそこかしこの酒場でべらぼうに(だけど陽気で楽しい)酒を飲み、騒ぐ。そんなイメージが彼の心のなかにすぐさまうかんだ。もちろんバッファローマンもそれを見越していたに違いない。
きっと以前のブロッケンJr.なら「行く」と即答していただろう。
だけど、現在 は。
いまはそんな全てがただただ煩わしかった。
気がつくとブロッケンJr.はバッファローマンに告げていた。
「なあ、帰ってくれないか」
とりつくしまもない返事に、とうとうバッファローマンは黙りこんだ。そうして「邪魔して悪かったな」と、ボソリとつぶやいてブロッケン邸を立ち去った。肩を落として去っていく小山のような後ろ姿に、ブロッケンJr.は「また一人仲間を失った」と感じていた。
その日の朝、ベルリン界隈で一番塞ぎこんでいたのは恐らく彼、ブロッケンJr.だろう。
彼の住まう石造りの古めかしい屋敷は、建物全体がしんしんと底冷えがして、寒気のせいでブロッケンJr.は目を覚ました。その身体は応接間の時代錯誤なゴブラン織りのソファに横たわっていた。
重だるい身体、渇いた喉とひりつく口内。眉間にはズキズキと脈打つような痛みがある。完璧な二日酔いだ。
とはいえ連日目を覚ますとこの状態で、とくに驚くことでもない。
夕べも酒を飲みすぎ、寝室に引きあげる余力もなくなって、この部屋で眠りこんだのだろう。長時間無理な姿勢を続けたせいですっかり強ばった身体をやっとの思いでひき起こす。オークでできた重厚な柱時計へと目をむければ、時刻は午後1時をまわったところだった。己の自堕落さになお気分が沈みんで、彼は深いため息をひとつついた。
いつまでも付きまとう気鬱。そもそもこれは酒を飲みすぎたせいだろうか。
そうではない。
まず、気鬱があったのだ。
酒浸りの日々はそれがきっかけだった。
酒を飲み始めたばかりの頃はよかった。飲めばその分フワリと気持ちが楽になって、酔っているあいだは気鬱も忘れられた。しかしそれを繰り返すうちに量が増えていき、次に飲み始める時間が早くなった。そうして四六時中飲まずにはいられなくなり、やがて気がつくと酒で気を紛らわすことも出来なくなっていた。
飲むことを止められず、止められないことに焦り、さらに飲む。自分の愚かさに心底腹をたてながら浴びるほど飲んで、意識が泥に沈みこむ直前、その時だけは愚行の終わりに少しだけ安堵する。
そして朝になると目が覚める。
ブロッケンJr.はそんな毎日を繰返していた。
今年の夏の始めに、突然バッファローマンがブロッケンJr.のもとに現れた。「所用のついでに立ち寄った」と言っていたが、それがウソであることをブロッケンJr.はすぐに見抜いていた。手紙や電話にまったく返事がないため、業を煮やして自分に会うためにわざわざやって来たのだろう。もっとも、ブロッケンJr.はバッファローマンだけを袖にしていたのではない。昔の仲間全てと連絡を絶っていたのだけれど。しかし同じヨーロッパとはいえ、けして近くはない距離をはるばるやってきた仲間思いのこの男に、「会う気はないからとっとと帰れ」とはさすがにブロッケンJr.も言えなかった。
結局彼は(渋々とではあったけれど)バッファローマンを屋敷に招き入れ、ずいぶん久しぶりに旧知と呼べる相手と言葉を交わした。実際はバッファローマンが一方的にまくしたてていただけなのだが。
それでも本心ではブロッケンJr.も相手に尋ねたいことが山ほどあった。だけど、聞けば聞いたぶんだけ自分のことも話さなければならなくなる。それがたまらく嫌だった。
もっともある程度は風聞で彼の現状を察していただろうけれど。
しかし、バッファローマンはそんなことはおくびにもださず、つとに明るくふるまい、ついには「しばらくスペインへ来ないか」と、ブロッケンJr.を誘った。
スペイン――バッファローマンの国。
明るい時間はぶっ倒れるまでトレーニングで汗を流し、暗くなればそこかしこの酒場でべらぼうに(だけど陽気で楽しい)酒を飲み、騒ぐ。そんなイメージが彼の心のなかにすぐさまうかんだ。もちろんバッファローマンもそれを見越していたに違いない。
きっと以前のブロッケンJr.なら「行く」と即答していただろう。
だけど、
いまはそんな全てがただただ煩わしかった。
気がつくとブロッケンJr.はバッファローマンに告げていた。
「なあ、帰ってくれないか」
とりつくしまもない返事に、とうとうバッファローマンは黙りこんだ。そうして「邪魔して悪かったな」と、ボソリとつぶやいてブロッケン邸を立ち去った。肩を落として去っていく小山のような後ろ姿に、ブロッケンJr.は「また一人仲間を失った」と感じていた。
