王は途方に暮れた
そうこうしているうちに、料理はあっという間に若い超人らの胃袋におさまった。
「いやあ、堪能しました」
「久しぶりに肉を食った!って気分になれたぜ」
食後にキッドはコークを、チェックはストレートのアイスティーを頼んだ。
「……そろそろ話を聞こうか?」
「はい。先ほどの若者たちも口にしていたと思うんですが、相談というのは、予選の第三競技で私のパートナーになってもらった人物のことなんです」
「チェックが選んだのは若い男だったよな」
「ええ、『シンヤ』という名です」
彼が敗退した競技「二人三脚でZEI!ZEI!」は、超人選手が観客席から任意の(超人、人間を問わず)パートナーを選び、二人三脚でスタートからゴールまでの速さを競う障害物競走だった。こう聞くと、人間が行う競技とさほど変わらないような印象を受けるが、コース上には危険な障害物や難路がこれでもかと設定されており、実際に選手のなかには再起不能になるほどの怪我を負った超人もいた。
それでも競技の概要が発表された瞬間、場内は沸きに沸いた。そこに連なる面々は一人残らず超人格闘技のファンであるから、誰もが目当ての超人に「自分を選んでほしい」と猛烈にピーアールを始めた。ご多聞にもれずチェックも大勢の人々から呼びかけられ、そのうちの一人、若い男性にふと彼の目がとまった。小柄でふくよか、地味な顔立ちで、いかにも朴訥そうな外観。チェックの王冠を模したものを頭にのせ、両の手に彼のフィギュアを握り、身にまとったTシャツまでも「新世代超人チェック・メイト」の姿が大きく描かれている。
それが、シンヤだった。
一目で自分のファンであると判ったチェックだったが、最終的に彼を選んだ理由は別にあった。
シンヤはとてもきれいな目をしていた。そして、まるで素晴らしい冒険の世界へ飛びだそうとしている子供のような、期待と喜びに満ちた表情を浮かべていた。
気がつけばチェックはシンヤに向かって手を差しのべていた。
「そちらの若い男性、よろしければ私のパートナーをお願いできますか?」
結局、チェック・メイトの初めての超人オリンピックはその競技で終わった。
チェック・シンヤ組はスタート直後から先頭集団に位置していたが、終盤に差しかかるとシンヤの疲労が頂点に達して、立っているのもやっとという状態になってしまったのだ。
残る距離はあとわずか。セイウチンとキッドがリタイアした現在、せめて自分くらいはトーナメントにコマを進めたい。何より万太郎と表舞台でもう一度戦ってみたかった。
チェックがそんなことを考えていた時、ベルギー代表の超人が妨害を企図して、球形状の巨大カプセルをコース上に大量にばら撒いた。
思案にふけっていた彼は回避行動が遅れ、そのために生じた焦りが判断を狂わせた。
シンヤの存在を忘れて動いてしまい、巨大カプセルが彼に衝突してしまったのだ。
己のおかしたミスに取り乱しながら、チェックはシンヤを抱き起し無事を確かめた。相手は痛みに顔をゆがめながらも「ボクの身体を引きずってもいい、構わずにレースに復帰して」と必死でチェックにうったえた。
傷ついた自分のことよりも、応援する相手の勝利を願う真摯なその表情をみた瞬間、チェックは迷うことなく二人を繋いでいた革ベルトを外し、自らリタイアを宣言したのだった。
レース後、シンヤは全身打撲により十日前後の入院加療が必要であると診断された。
チェックは謝意とともに自身の連絡先を彼に伝え、退院したら一度会って話をしようと伝えた。
シンヤは快諾した。そして回復の程度を伝える連絡が一度だけ彼から届いたが、その後は音信不通になってしまい、もう二週間が経ってしまった。
重篤な後遺症でも起きたのかと病院に問い合わせをしたところ、とっくの昔に退院したという。逡巡したがチェックは自分からシンヤに電話をかけた。
しかし、呼び出し音が鳴るものの、相手が電話に出ることはなかった。
「連絡がこないということは、やはりシンヤは気分を害しているのでしょうか。その場合、こちらから連絡をしていいものなのか。人間と深く付き合ったことがないので、どう判断すればいいのか見当がつきません。私はどうするべきでしょうか……キッドならどうしますか?」
超人、と一言で表しても古くから人間と関わってきた者たちや、逆に人界から隔絶された場所(魔界など)で同じ属性の者とだけ生活してきた者まで、内実は様々だ。後者の典型が元・悪魔六騎士アシュラマン。彼は魔界を統べる一族の王子である。チェックも以前はこちらの範疇に属していた。対して、キッドの父祖、テリー一族は古くから人間たちと関わって暮らしてきた。わけても彼の父であるテリーマンのパートナーは、翔野 ナツコという名の人間の女性だ。
チェックにしてみれば、人間のことを尋ねるのにキッドほど適した相手はいない、と判断したのだろう。
「オレなら、ねぇ……」
競技そのものはキッドも観戦していたが、くだんの青年・シンヤに直接対面したわけではない。
退院したというなら怪我のほうは完治したのだろう。
生臭い話をすれば、特定のエリアの観客席は、競技観戦時に一定のリスクが伴うことを承知する旨を、書類にサインして提出してから着席しているはずだ。つまり、シンヤは一定程度自己責任で観戦している。ましてやチェックはシンヤの状態を慮って自ら勝負をおりた。だから負傷によってチェックへの好意が著しく損なわれたとは考えにくい。
(――さて、どうしたものか)
キッドは思案をめぐらせた。
「いやあ、堪能しました」
「久しぶりに肉を食った!って気分になれたぜ」
食後にキッドはコークを、チェックはストレートのアイスティーを頼んだ。
「……そろそろ話を聞こうか?」
「はい。先ほどの若者たちも口にしていたと思うんですが、相談というのは、予選の第三競技で私のパートナーになってもらった人物のことなんです」
「チェックが選んだのは若い男だったよな」
「ええ、『シンヤ』という名です」
彼が敗退した競技「二人三脚でZEI!ZEI!」は、超人選手が観客席から任意の(超人、人間を問わず)パートナーを選び、二人三脚でスタートからゴールまでの速さを競う障害物競走だった。こう聞くと、人間が行う競技とさほど変わらないような印象を受けるが、コース上には危険な障害物や難路がこれでもかと設定されており、実際に選手のなかには再起不能になるほどの怪我を負った超人もいた。
それでも競技の概要が発表された瞬間、場内は沸きに沸いた。そこに連なる面々は一人残らず超人格闘技のファンであるから、誰もが目当ての超人に「自分を選んでほしい」と猛烈にピーアールを始めた。ご多聞にもれずチェックも大勢の人々から呼びかけられ、そのうちの一人、若い男性にふと彼の目がとまった。小柄でふくよか、地味な顔立ちで、いかにも朴訥そうな外観。チェックの王冠を模したものを頭にのせ、両の手に彼のフィギュアを握り、身にまとったTシャツまでも「新世代超人チェック・メイト」の姿が大きく描かれている。
それが、シンヤだった。
一目で自分のファンであると判ったチェックだったが、最終的に彼を選んだ理由は別にあった。
シンヤはとてもきれいな目をしていた。そして、まるで素晴らしい冒険の世界へ飛びだそうとしている子供のような、期待と喜びに満ちた表情を浮かべていた。
気がつけばチェックはシンヤに向かって手を差しのべていた。
「そちらの若い男性、よろしければ私のパートナーをお願いできますか?」
結局、チェック・メイトの初めての超人オリンピックはその競技で終わった。
チェック・シンヤ組はスタート直後から先頭集団に位置していたが、終盤に差しかかるとシンヤの疲労が頂点に達して、立っているのもやっとという状態になってしまったのだ。
残る距離はあとわずか。セイウチンとキッドがリタイアした現在、せめて自分くらいはトーナメントにコマを進めたい。何より万太郎と表舞台でもう一度戦ってみたかった。
チェックがそんなことを考えていた時、ベルギー代表の超人が妨害を企図して、球形状の巨大カプセルをコース上に大量にばら撒いた。
思案にふけっていた彼は回避行動が遅れ、そのために生じた焦りが判断を狂わせた。
シンヤの存在を忘れて動いてしまい、巨大カプセルが彼に衝突してしまったのだ。
己のおかしたミスに取り乱しながら、チェックはシンヤを抱き起し無事を確かめた。相手は痛みに顔をゆがめながらも「ボクの身体を引きずってもいい、構わずにレースに復帰して」と必死でチェックにうったえた。
傷ついた自分のことよりも、応援する相手の勝利を願う真摯なその表情をみた瞬間、チェックは迷うことなく二人を繋いでいた革ベルトを外し、自らリタイアを宣言したのだった。
レース後、シンヤは全身打撲により十日前後の入院加療が必要であると診断された。
チェックは謝意とともに自身の連絡先を彼に伝え、退院したら一度会って話をしようと伝えた。
シンヤは快諾した。そして回復の程度を伝える連絡が一度だけ彼から届いたが、その後は音信不通になってしまい、もう二週間が経ってしまった。
重篤な後遺症でも起きたのかと病院に問い合わせをしたところ、とっくの昔に退院したという。逡巡したがチェックは自分からシンヤに電話をかけた。
しかし、呼び出し音が鳴るものの、相手が電話に出ることはなかった。
「連絡がこないということは、やはりシンヤは気分を害しているのでしょうか。その場合、こちらから連絡をしていいものなのか。人間と深く付き合ったことがないので、どう判断すればいいのか見当がつきません。私はどうするべきでしょうか……キッドならどうしますか?」
超人、と一言で表しても古くから人間と関わってきた者たちや、逆に人界から隔絶された場所(魔界など)で同じ属性の者とだけ生活してきた者まで、内実は様々だ。後者の典型が元・悪魔六騎士アシュラマン。彼は魔界を統べる一族の王子である。チェックも以前はこちらの範疇に属していた。対して、キッドの父祖、テリー一族は古くから人間たちと関わって暮らしてきた。わけても彼の父であるテリーマンのパートナーは、翔野 ナツコという名の人間の女性だ。
チェックにしてみれば、人間のことを尋ねるのにキッドほど適した相手はいない、と判断したのだろう。
「オレなら、ねぇ……」
競技そのものはキッドも観戦していたが、くだんの青年・シンヤに直接対面したわけではない。
退院したというなら怪我のほうは完治したのだろう。
生臭い話をすれば、特定のエリアの観客席は、競技観戦時に一定のリスクが伴うことを承知する旨を、書類にサインして提出してから着席しているはずだ。つまり、シンヤは一定程度自己責任で観戦している。ましてやチェックはシンヤの状態を慮って自ら勝負をおりた。だから負傷によってチェックへの好意が著しく損なわれたとは考えにくい。
(――さて、どうしたものか)
キッドは思案をめぐらせた。
