王は途方に暮れた
王は途方にくれた
かつて「超人オリンピック」という、その名の通り、超人にのみ参加を許された祭典があった。1900年代始めに端を発し、宇宙超人委員会の主催によって開かれていたが、1981年の「第21回大会 超人オリンピック ザ・ビッグファイト」を最後に長らく開催されずにいた。
それが2016年の現在 、とつぜん息を吹きかえすことになったのは、主催団体の宇宙超人委員会で役員変更と経営体制の抜本的見直しが行われたことに端を発している。
平たくいえば、新任の委員長が「超人オリンピック」を開催して財源確保を目論んだのだ。
そんな泥臭い背景はさておき、その大会は「第22回 復活超人オリンピック ザ・レザレクション」と題して開催された。予選大会として順に「あっち向いてホイ」「だるま落としでドン!」「ビーチフラッグでイェイ!」「二人三脚でZEI!ZEI!」を経て、勝ち残った超人選手らが優勝決定トーナメントに進出し、決勝戦はキン肉万太郎とケビンマスクの対決となった。
万太郎は善戦したものの、最終的にケビンマスクが勝利して優勝者となり、大会は幕を閉じた。
それが三週間ほど前の出来事だった。
よく晴れた秋の昼下がり、一人の若き超人が、いずこかのジムで筋力トレーニングに励んでいた。トレーニングマシンの動きに合わせて規則正しく息が吐き出され、額にはうっすらと汗をかいている。充分に鍛えあげられた肉体には活力が満ちていた。きれいに刈り込まれた金髪はえり足だけが長目に伸びている。
額にはアルファベットの「K」の文字。
彼の名はテリー・ザ・キッド。
誰もがその名を知る、正義超人テリーマンの一粒種だ。
ふと、マシンの傍らに置かれていた彼のモバイルが、着信ランプを点滅させ始めた。そのことに気がついたキッドは、トレーニングを一時中断してそれに手を伸ばす。
ディスプレイには「チェック・メイト」と表示されていて、珍しいな、と彼は思った。
何となく相手はガゼルマンかセイウチンでないかと予想していたのだ。
万太郎……は、ないだろう。
少なくともオリンピック決勝戦のあとから今日まで、彼からの連絡はなかった。
キッドは電話にでた。
「久しぶりだな、チェック。調子はどうだい?」
「とつぜんにすみません、キッド。おかげさまで、調子はまずまずといったところです」
受話口から届いてくる声は若く爽やだった。
「珍しいな、ユーが電話してくるなんて」
「ええ、その……。実はですね、折り入って貴方に相談したいことが」
待ち合わせの相手が、221センチメートルという長身であれば、たいがいの場合こちらが先に相手を見つけるだろう。それが新世代超人チェック・メイトその人であれば、なおのことだ。
今日はいつもの赤いリングコスチュームでこそないが、赤を基調としたトラッドなファッションに身を包み、左右の肩から青い馬の首と西洋風の石塔が顔を出している。
チェックはその名の通り、チェスを象った超人であった。
「待たせたな!」
テリー・ザ・キッドの声に気がついたチェックは、嬉しそうに相手のもとへ歩みよった。
彼の柔らかな物腰と優美さに、周囲の人々は振り返り、ため息をもらす若い女性までいる。
キッドはその光景を目にして、彼がこの間まで悪魔超人だったとは信じられないことだ、と不思議な気持ちになった。
つい先ごろ「d.M.p 」という組織が消滅した。悪魔超人、残虐超人、完璧超人らの悪行超人で構成された、正義超人に敵対する集まりであったが、内部分裂が生じて瓦解したのだ。
孤児だったチェックは、元・悪魔六騎士かつd.M.p幹部のサンシャインに拾われ、彼の衣鉢を継ぐものとして十年にも及ぶ過酷な修行を受けて育った。
鍛練の結果、立派な悪魔超人となったチェックであったが、キン肉万太郎との戦いで正義超人の精神性に触れ、勝負の果てにあるのは憎悪や怨嗟だけではないことを知り、ついに悪魔超人から正義超人へと転身したのだった。
以降は、師と袂をわかち、万太郎らと行動を共にしている。
「お忙しいところお呼び立てしてすみません、キッド」
「いいさ、それより相談って何だい?」
チェックはどこから話したものかといった風で「ええとですね……」と言ったきり、言葉を詰まらせてしまった。
「そういえばメシ、食ったか?」
「あ、いえまだです」
「オレもまだなんだ。良かったら、メシでも食いながら話さないか?」
その言葉にチェックの顔がパッと輝いた。
「いいですね、ぜひ!」
かつて「超人オリンピック」という、その名の通り、超人にのみ参加を許された祭典があった。1900年代始めに端を発し、宇宙超人委員会の主催によって開かれていたが、1981年の「第21回大会 超人オリンピック ザ・ビッグファイト」を最後に長らく開催されずにいた。
それが2016年の
平たくいえば、新任の委員長が「超人オリンピック」を開催して財源確保を目論んだのだ。
そんな泥臭い背景はさておき、その大会は「第22回 復活超人オリンピック ザ・レザレクション」と題して開催された。予選大会として順に「あっち向いてホイ」「だるま落としでドン!」「ビーチフラッグでイェイ!」「二人三脚でZEI!ZEI!」を経て、勝ち残った超人選手らが優勝決定トーナメントに進出し、決勝戦はキン肉万太郎とケビンマスクの対決となった。
万太郎は善戦したものの、最終的にケビンマスクが勝利して優勝者となり、大会は幕を閉じた。
それが三週間ほど前の出来事だった。
よく晴れた秋の昼下がり、一人の若き超人が、いずこかのジムで筋力トレーニングに励んでいた。トレーニングマシンの動きに合わせて規則正しく息が吐き出され、額にはうっすらと汗をかいている。充分に鍛えあげられた肉体には活力が満ちていた。きれいに刈り込まれた金髪はえり足だけが長目に伸びている。
額にはアルファベットの「K」の文字。
彼の名はテリー・ザ・キッド。
誰もがその名を知る、正義超人テリーマンの一粒種だ。
ふと、マシンの傍らに置かれていた彼のモバイルが、着信ランプを点滅させ始めた。そのことに気がついたキッドは、トレーニングを一時中断してそれに手を伸ばす。
ディスプレイには「チェック・メイト」と表示されていて、珍しいな、と彼は思った。
何となく相手はガゼルマンかセイウチンでないかと予想していたのだ。
万太郎……は、ないだろう。
少なくともオリンピック決勝戦のあとから今日まで、彼からの連絡はなかった。
キッドは電話にでた。
「久しぶりだな、チェック。調子はどうだい?」
「とつぜんにすみません、キッド。おかげさまで、調子はまずまずといったところです」
受話口から届いてくる声は若く爽やだった。
「珍しいな、ユーが電話してくるなんて」
「ええ、その……。実はですね、折り入って貴方に相談したいことが」
待ち合わせの相手が、221センチメートルという長身であれば、たいがいの場合こちらが先に相手を見つけるだろう。それが新世代超人チェック・メイトその人であれば、なおのことだ。
今日はいつもの赤いリングコスチュームでこそないが、赤を基調としたトラッドなファッションに身を包み、左右の肩から青い馬の首と西洋風の石塔が顔を出している。
チェックはその名の通り、チェスを象った超人であった。
「待たせたな!」
テリー・ザ・キッドの声に気がついたチェックは、嬉しそうに相手のもとへ歩みよった。
彼の柔らかな物腰と優美さに、周囲の人々は振り返り、ため息をもらす若い女性までいる。
キッドはその光景を目にして、彼がこの間まで悪魔超人だったとは信じられないことだ、と不思議な気持ちになった。
つい先ごろ「
孤児だったチェックは、元・悪魔六騎士かつd.M.p幹部のサンシャインに拾われ、彼の衣鉢を継ぐものとして十年にも及ぶ過酷な修行を受けて育った。
鍛練の結果、立派な悪魔超人となったチェックであったが、キン肉万太郎との戦いで正義超人の精神性に触れ、勝負の果てにあるのは憎悪や怨嗟だけではないことを知り、ついに悪魔超人から正義超人へと転身したのだった。
以降は、師と袂をわかち、万太郎らと行動を共にしている。
「お忙しいところお呼び立てしてすみません、キッド」
「いいさ、それより相談って何だい?」
チェックはどこから話したものかといった風で「ええとですね……」と言ったきり、言葉を詰まらせてしまった。
「そういえばメシ、食ったか?」
「あ、いえまだです」
「オレもまだなんだ。良かったら、メシでも食いながら話さないか?」
その言葉にチェックの顔がパッと輝いた。
「いいですね、ぜひ!」
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