テキサス・サンライズ(キン肉マン二次小説)
テキサス・サンライズ(日本:1987年11月30日昼-テキサス:11月29日夜)
バッファローマンとウォーズマンは秘密裏にテキサスへ赴くことにした。たれ目がちの甘いマスクや明るい雰囲気から誤解されがちだが、テリーマンはあれで案外意固地というか頑固なところがあって、「自分一人で始めたことだから」と二人の助力を固辞する恐れがあった。代わりに彼のパートナー、元・雑誌カメラマンの翔野ナツコに下話をしておいた。己の恋人の気質も、アイドル超人たちの友情についてもよくわきまえた彼女は申し出を感謝し、来訪を心待にしていると二人に答えた。
二人は急ぎ飛行機に乗りこみ、テキサス州アマリロに飛んだ。そこからバスで牧場至近の街まで行き、レンタカーを調達して牧場まで行くつもりだった。しかし街まで行ったのはいいが、間の悪いことにレンタカーは全て出はらっていた。
一番早く返却されるもので数日後だという。のんべんだらりと待つ余裕はなかった。レンタカーショップでそう説明すると、人の良さそうな初老の店主は車の代わりに馬で行くことをすすめてきた。
見知らぬ土地で騎乗など、と渋面を作る二人に「自分の所有する馬はここいらの地理を知り尽くしているので道に迷う心配もないし、向こうに着いたらそのまま放してくれれば勝手に戻ってくるので返しに来る必要がない」などと滔々とまくしたてた。
実際ここから30キロほどの地点にある、パンデュロキャニオン州立公園は乗馬トレイルの拠点にこの街を指定している。
店主は「ついてこい」とレンタカーショップの裏手へ強引に二人を案内した。
渋面をうかべたバッファローマンは「オレを乗せられる馬なんているわけがない――」と言いかけて黙りこんだ。
店主が裏の馬屋から最初に引き連れてきたのは、体重が1トンはあろうかという栗毛の巨馬だった。周囲を脾睨するように落ちついた足どりで陽光の下へ進み出た。
その瞳がピタリとバッファローマンを見すえ、一頭と一人はしばし見つめ合った。
わずかな後、巨馬はとどろくようにいななき、その様子を見て店主は頷いた。
「うん、カサブランカはアンタが気に入ったらしい」
「待て、まだオレは乗るって決めたワケじゃねえ」
老人はバッファローマンの抗議などおかまいなしに、手近な杭にカサブランカの引綱を結ぶと、馬屋から馬をもう一頭連れてきてウォーズマンに引き合わせた。こちらはジェット(黒石)のように艶のない黒毛馬で、額にある白い小さな点が夜空に星をひとつ住まわせているようだった。
「こいつはナイトレイド。超人さんの黒いボディにピッタリじゃないか。まさに人馬一体だな」
これまたウォーズマンの意見などおかまいなしにご満悦で頷いている。
「あのなぁ、ジイさん」
「ジイさんじゃない。ワシの名前はルイス・バックランド」
ルイス氏はどうだ、と言わんばかりに胸をはった。
それがどうした、とバッファローマンが口を開こうとした瞬間、ウォーズマンが尋ねた。
「もしかして……テリーの義足を作ったバックランドさんのご親族ですか?」
「親族もなにも、テリー牧場の名装蹄師にしてアイドル超人テリーマンのお抱え装具士『ロバート・バックランド』はワシの兄だ」ドン、と自慢げに胸をたたく。
結局それが決め手となって、二人は彼の提案を受け入れることがベストだと結論づけた。
こうして二人は馬上の人となった。しばらく前にすっかり陽は落ちて、群青色の夜が訪れていた。このまま進み続ければ夜明けにはテリーマンズランチにたどり着けるらしい。
カサブランカにまたがるバッファローマンがウォーズマンに語りかけた。
「お前、使用人の名前までよく知ってたな」
「テリーマンとのつき合いは長いからね。だけど蹄鉄師は使用人じゃない、牧場経営に欠くべからざる職能者だ」
「ふうん……しかしこの辺りは一人っ子ひとりいねえな」
見わたす限りこれぞ『テキサス!』といった風情の荒野が続いている。望むならしばし上を向けば、夜空を滑るように流れる星をいくつも見つけることができるだろう。
「夜になって結構冷えてきたな」
バッファローマンはいつもの出で立ち――レスリングパンツ、バッファローサポーター、赤いグローブのほかに黒のレザージャケットを羽織っている。
「もう少し南に下ればメキシコだから、昼夜の温度差が大きいのかもしれない」
ウォーズマンもまた幾何学模様のポンチョをまとっているが、これは防寒ではなく日光を遮るためのものだった。
どれほど進んだろうか、荒野の向こうでかすかに遠吠えが聞こえた。始めひとつだったものに別の声が応えるように続く。
いぶかしんで辺りを見回すウォーズマン。
「……なんの声だろう?」
「コヨーテだな」
「大丈夫だろうか」
「コイツら、二頭とも落ち着いているから平気だろう」
バッファローマンは自分を乗せているカサブランカの首筋を、ねぎらうようにトントンと優しく叩いた。言葉通り二頭とも何かに怯える様子はなく、やがて吠え声は遠ざかっていった。
そのあとはとり立てて言葉を交わすこともなく、粛々と路程をたどった。
やがて東の空が白みはじめ、二人と二頭は小高い丘で夜が溶けてゆくさまをしばし眺めたのだった。
バッファローマンとウォーズマンは秘密裏にテキサスへ赴くことにした。たれ目がちの甘いマスクや明るい雰囲気から誤解されがちだが、テリーマンはあれで案外意固地というか頑固なところがあって、「自分一人で始めたことだから」と二人の助力を固辞する恐れがあった。代わりに彼のパートナー、元・雑誌カメラマンの翔野ナツコに下話をしておいた。己の恋人の気質も、アイドル超人たちの友情についてもよくわきまえた彼女は申し出を感謝し、来訪を心待にしていると二人に答えた。
二人は急ぎ飛行機に乗りこみ、テキサス州アマリロに飛んだ。そこからバスで牧場至近の街まで行き、レンタカーを調達して牧場まで行くつもりだった。しかし街まで行ったのはいいが、間の悪いことにレンタカーは全て出はらっていた。
一番早く返却されるもので数日後だという。のんべんだらりと待つ余裕はなかった。レンタカーショップでそう説明すると、人の良さそうな初老の店主は車の代わりに馬で行くことをすすめてきた。
見知らぬ土地で騎乗など、と渋面を作る二人に「自分の所有する馬はここいらの地理を知り尽くしているので道に迷う心配もないし、向こうに着いたらそのまま放してくれれば勝手に戻ってくるので返しに来る必要がない」などと滔々とまくしたてた。
実際ここから30キロほどの地点にある、パンデュロキャニオン州立公園は乗馬トレイルの拠点にこの街を指定している。
店主は「ついてこい」とレンタカーショップの裏手へ強引に二人を案内した。
渋面をうかべたバッファローマンは「オレを乗せられる馬なんているわけがない――」と言いかけて黙りこんだ。
店主が裏の馬屋から最初に引き連れてきたのは、体重が1トンはあろうかという栗毛の巨馬だった。周囲を脾睨するように落ちついた足どりで陽光の下へ進み出た。
その瞳がピタリとバッファローマンを見すえ、一頭と一人はしばし見つめ合った。
わずかな後、巨馬はとどろくようにいななき、その様子を見て店主は頷いた。
「うん、カサブランカはアンタが気に入ったらしい」
「待て、まだオレは乗るって決めたワケじゃねえ」
老人はバッファローマンの抗議などおかまいなしに、手近な杭にカサブランカの引綱を結ぶと、馬屋から馬をもう一頭連れてきてウォーズマンに引き合わせた。こちらはジェット(黒石)のように艶のない黒毛馬で、額にある白い小さな点が夜空に星をひとつ住まわせているようだった。
「こいつはナイトレイド。超人さんの黒いボディにピッタリじゃないか。まさに人馬一体だな」
これまたウォーズマンの意見などおかまいなしにご満悦で頷いている。
「あのなぁ、ジイさん」
「ジイさんじゃない。ワシの名前はルイス・バックランド」
ルイス氏はどうだ、と言わんばかりに胸をはった。
それがどうした、とバッファローマンが口を開こうとした瞬間、ウォーズマンが尋ねた。
「もしかして……テリーの義足を作ったバックランドさんのご親族ですか?」
「親族もなにも、テリー牧場の名装蹄師にしてアイドル超人テリーマンのお抱え装具士『ロバート・バックランド』はワシの兄だ」ドン、と自慢げに胸をたたく。
結局それが決め手となって、二人は彼の提案を受け入れることがベストだと結論づけた。
こうして二人は馬上の人となった。しばらく前にすっかり陽は落ちて、群青色の夜が訪れていた。このまま進み続ければ夜明けにはテリーマンズランチにたどり着けるらしい。
カサブランカにまたがるバッファローマンがウォーズマンに語りかけた。
「お前、使用人の名前までよく知ってたな」
「テリーマンとのつき合いは長いからね。だけど蹄鉄師は使用人じゃない、牧場経営に欠くべからざる職能者だ」
「ふうん……しかしこの辺りは一人っ子ひとりいねえな」
見わたす限りこれぞ『テキサス!』といった風情の荒野が続いている。望むならしばし上を向けば、夜空を滑るように流れる星をいくつも見つけることができるだろう。
「夜になって結構冷えてきたな」
バッファローマンはいつもの出で立ち――レスリングパンツ、バッファローサポーター、赤いグローブのほかに黒のレザージャケットを羽織っている。
「もう少し南に下ればメキシコだから、昼夜の温度差が大きいのかもしれない」
ウォーズマンもまた幾何学模様のポンチョをまとっているが、これは防寒ではなく日光を遮るためのものだった。
どれほど進んだろうか、荒野の向こうでかすかに遠吠えが聞こえた。始めひとつだったものに別の声が応えるように続く。
いぶかしんで辺りを見回すウォーズマン。
「……なんの声だろう?」
「コヨーテだな」
「大丈夫だろうか」
「コイツら、二頭とも落ち着いているから平気だろう」
バッファローマンは自分を乗せているカサブランカの首筋を、ねぎらうようにトントンと優しく叩いた。言葉通り二頭とも何かに怯える様子はなく、やがて吠え声は遠ざかっていった。
そのあとはとり立てて言葉を交わすこともなく、粛々と路程をたどった。
やがて東の空が白みはじめ、二人と二頭は小高い丘で夜が溶けてゆくさまをしばし眺めたのだった。
