テキサス・サンライズ(キン肉マン二次小説)
オレと戦え(日本:1987年11月29日10:00-テキサス:11月28日18:00)
キン肉星王位争奪戦が日本で行われてからずいぶんとたつ。
キン肉マンことキン肉スグルの王位承継を阻まんとする邪悪五大神が暗躍したその戦いは、チームトーナメント戦をスグルが制し、当初の予定通り王位は彼が継ぐこととなった。そして地球での様々な手続きが済み、ついに1987年11月29日日曜日、宇宙船がキン肉星へ出航する日が来た。
出発セレモニーには大勢の超人たちが集結し、その中にはテキサス・ブロンコの異名をとるアメリカ出身のアイドル超人、テリーマンもいた。
スグルが宇宙船の乗船タラップに足をかけたその瞬間、テリーマンは長い年月心にためていた想いを吐き出した。
「オレと戦え、キン肉マン!」
彼はキン肉マンの無二のパートナーだったが同時にライバルでもあった。両者は『いずれ雌雄を決したい』と願いつつ、その機会が訪れぬままとうとう今日という日を迎えてしまったのだ。
(――なぜいまこの瞬間に)
他のアイドル超人やキン肉星関係者らが戸惑いの表情を浮かべるなか、スグルだけは一片の迷いもなくテキサス・ブロンコの挑戦を受けた。
関係各所が首をつきあわせて諸々を鑑みた結果、5日後の12月4日18時00分、神奈川県川崎市の等々力陸上競技場にて幻の対決が実現することとなった。
審議の結果、対決は非公式なものとなり、アイドル超人たちは試合の調整役をつとめることをかって出た。ある程度筋道がたった時点でテリーマンはナツコを連れて調整のためにテキサスのアマリロへ急ぎ帰国した。彼はアマリロで、先祖から受け継いだ牧場を経営している。名を「テリーマンズランチ」といった。
スグルもまたトレーニングのため臣下らとともに皆のもとを離れた。ロビンマスク、バッファローマン、ラーメンマン、ウォーズマン、ブロッケンJr.、ウルフマン、ジェシー・メイビア等は打ち合わせのため、一堂に会していた。
「何でオレがアイツらの夫婦喧嘩に首突っ込まねえといけねえんだ」
棍棒のように太い腕を胸の前で組んで、パイプ椅子に腰かけたバッファローマンは憮然とした表情で言った。
「テリーマンが挑戦を突きつけたとき、一番興奮して盛り上がっていたのはお前じゃないか、何を今更」
ラーメンマンは柳に風といった態で受け流し、事実その通りだったのでバッファローマンは黙りこんだ。
「それぞれに意見はあるだろうが猶予がない。この対決の実現に力を貸してくれ」
ロビンマスクの一言に一同は頷いた。
キン肉マンは元々が日本に籍を置く超人だったため、引き続きこの地で調整を行っているが、その準備が普通ではない。富裕で知られるキン肉王族は次期大王の対決のためにトレーニングの専用施設を建て始めた。翌朝には完成するらしい。財力もさることながら、その決断と実行力に皆が目を剥いた。けれどもそれでやっとドリームマッチが実現するのだという実感がわいたのだった。
『キン肉マン対テリーマン』
それは超人レスラーなら誰もが一度は夢想したことカードだろう。
本当に強いのは『火事場のクソ力』か『ファイティングスピリット』か。
今から全員期待で胸がいっぱいだ。
「オレはキン肉マンのサポートで構わないか?」
黒々とした大銀杏を結った超人、ウルフマンが手を挙げた。相撲超人の彼は当然ながら日本出身、キン肉マンとは『超人オリンピック・ザ・ビッグファイト』の頃からの長い付き合いだ。
「ああ、むろん。サポート以外にも諸々面倒をかけるがよろしく頼む」
ロビンマスクは鷹揚に頷いた。英国籍のこの超人は事実古強者であるが、そうでなくとも特質として彼に備わっているリーダーシップから、今回のような場合にまとめ役を担うことが多い。
「私も、日本組で良いだろうか」
次に名乗りをあげたのはラーメンマン。
彼もまたキン肉マンが一流の超人レスラーとして世間に認知されるきっかけとなった『超人オリンピック』の頃からの古い付き合いだ。
時には姿形や名前を変えてまで、陰に陽に彼の支えになってきた。
「オレとジェロはロビンに頼まれた通り、ドッチにもつかずに連絡と調整なんかをやらせてもらうぜ」
「テリーマン先輩のお役に立ちたいのはやまやまだが、こんな一世一代の大勝負、オラじゃ力不足だ」
ブロッケンJr.は横に座るジェロニモと共に意を表した。目深にかぶった軍帽の下の眼差しは好奇の光をたたえ、ジェロニモもまた敬愛するテリーマンの檜舞台に顔を輝かせている。
「私も、及ばずながら力を貸そう」
そう申し出たのは超人ジェシー・メイビア。キン肉マンのアメリカ巡業がきっかけで、今日まで彼との付き合いが続いている。表舞台に立つことはもう少ないが、先の王位争奪戦でもウルフマンら志を同じくするものたちと大阪城まで馳せ参じた。赤銅色の肌、キリリと引き締まった眉、口元から時おりのぞく粒の揃った真っ白な歯。プリンス・カメハメのみならず彼もまた『ハワイのプリンス』と呼んで差し支えない貫禄だ。
来歴から何から全く異なる彼らが、志をひとつにしてキン肉マンとテリーマンに力を貸そうとしている。
それはバッファローマンが「そうあってほしい」と焦がれた正義超人のありようだった。
仕方ない、と彼は心を決めた。
だって今では彼もその一員なのだから。
「……そんで、オレと一緒にカウボーイに愛のムチを打ちにいくヤツはダレなんだ?」
スッ、と黒くしなやかな腕が上がった。
「テキサスにはオレが行く」
「ウォーズが!?」
バッファローマンは驚きに目を丸くした。
「バッファだけでなく、オレもキン肉マンと直接戦ったことがある。それはテリーマンにとって有意義な情報だ――それに、テキサスって一度は行ってみたかったんだ」
ウォーズマンははにかむように笑った。
キン肉星王位争奪戦が日本で行われてからずいぶんとたつ。
キン肉マンことキン肉スグルの王位承継を阻まんとする邪悪五大神が暗躍したその戦いは、チームトーナメント戦をスグルが制し、当初の予定通り王位は彼が継ぐこととなった。そして地球での様々な手続きが済み、ついに1987年11月29日日曜日、宇宙船がキン肉星へ出航する日が来た。
出発セレモニーには大勢の超人たちが集結し、その中にはテキサス・ブロンコの異名をとるアメリカ出身のアイドル超人、テリーマンもいた。
スグルが宇宙船の乗船タラップに足をかけたその瞬間、テリーマンは長い年月心にためていた想いを吐き出した。
「オレと戦え、キン肉マン!」
彼はキン肉マンの無二のパートナーだったが同時にライバルでもあった。両者は『いずれ雌雄を決したい』と願いつつ、その機会が訪れぬままとうとう今日という日を迎えてしまったのだ。
(――なぜいまこの瞬間に)
他のアイドル超人やキン肉星関係者らが戸惑いの表情を浮かべるなか、スグルだけは一片の迷いもなくテキサス・ブロンコの挑戦を受けた。
関係各所が首をつきあわせて諸々を鑑みた結果、5日後の12月4日18時00分、神奈川県川崎市の等々力陸上競技場にて幻の対決が実現することとなった。
審議の結果、対決は非公式なものとなり、アイドル超人たちは試合の調整役をつとめることをかって出た。ある程度筋道がたった時点でテリーマンはナツコを連れて調整のためにテキサスのアマリロへ急ぎ帰国した。彼はアマリロで、先祖から受け継いだ牧場を経営している。名を「テリーマンズランチ」といった。
スグルもまたトレーニングのため臣下らとともに皆のもとを離れた。ロビンマスク、バッファローマン、ラーメンマン、ウォーズマン、ブロッケンJr.、ウルフマン、ジェシー・メイビア等は打ち合わせのため、一堂に会していた。
「何でオレがアイツらの夫婦喧嘩に首突っ込まねえといけねえんだ」
棍棒のように太い腕を胸の前で組んで、パイプ椅子に腰かけたバッファローマンは憮然とした表情で言った。
「テリーマンが挑戦を突きつけたとき、一番興奮して盛り上がっていたのはお前じゃないか、何を今更」
ラーメンマンは柳に風といった態で受け流し、事実その通りだったのでバッファローマンは黙りこんだ。
「それぞれに意見はあるだろうが猶予がない。この対決の実現に力を貸してくれ」
ロビンマスクの一言に一同は頷いた。
キン肉マンは元々が日本に籍を置く超人だったため、引き続きこの地で調整を行っているが、その準備が普通ではない。富裕で知られるキン肉王族は次期大王の対決のためにトレーニングの専用施設を建て始めた。翌朝には完成するらしい。財力もさることながら、その決断と実行力に皆が目を剥いた。けれどもそれでやっとドリームマッチが実現するのだという実感がわいたのだった。
『キン肉マン対テリーマン』
それは超人レスラーなら誰もが一度は夢想したことカードだろう。
本当に強いのは『火事場のクソ力』か『ファイティングスピリット』か。
今から全員期待で胸がいっぱいだ。
「オレはキン肉マンのサポートで構わないか?」
黒々とした大銀杏を結った超人、ウルフマンが手を挙げた。相撲超人の彼は当然ながら日本出身、キン肉マンとは『超人オリンピック・ザ・ビッグファイト』の頃からの長い付き合いだ。
「ああ、むろん。サポート以外にも諸々面倒をかけるがよろしく頼む」
ロビンマスクは鷹揚に頷いた。英国籍のこの超人は事実古強者であるが、そうでなくとも特質として彼に備わっているリーダーシップから、今回のような場合にまとめ役を担うことが多い。
「私も、日本組で良いだろうか」
次に名乗りをあげたのはラーメンマン。
彼もまたキン肉マンが一流の超人レスラーとして世間に認知されるきっかけとなった『超人オリンピック』の頃からの古い付き合いだ。
時には姿形や名前を変えてまで、陰に陽に彼の支えになってきた。
「オレとジェロはロビンに頼まれた通り、ドッチにもつかずに連絡と調整なんかをやらせてもらうぜ」
「テリーマン先輩のお役に立ちたいのはやまやまだが、こんな一世一代の大勝負、オラじゃ力不足だ」
ブロッケンJr.は横に座るジェロニモと共に意を表した。目深にかぶった軍帽の下の眼差しは好奇の光をたたえ、ジェロニモもまた敬愛するテリーマンの檜舞台に顔を輝かせている。
「私も、及ばずながら力を貸そう」
そう申し出たのは超人ジェシー・メイビア。キン肉マンのアメリカ巡業がきっかけで、今日まで彼との付き合いが続いている。表舞台に立つことはもう少ないが、先の王位争奪戦でもウルフマンら志を同じくするものたちと大阪城まで馳せ参じた。赤銅色の肌、キリリと引き締まった眉、口元から時おりのぞく粒の揃った真っ白な歯。プリンス・カメハメのみならず彼もまた『ハワイのプリンス』と呼んで差し支えない貫禄だ。
来歴から何から全く異なる彼らが、志をひとつにしてキン肉マンとテリーマンに力を貸そうとしている。
それはバッファローマンが「そうあってほしい」と焦がれた正義超人のありようだった。
仕方ない、と彼は心を決めた。
だって今では彼もその一員なのだから。
「……そんで、オレと一緒にカウボーイに愛のムチを打ちにいくヤツはダレなんだ?」
スッ、と黒くしなやかな腕が上がった。
「テキサスにはオレが行く」
「ウォーズが!?」
バッファローマンは驚きに目を丸くした。
「バッファだけでなく、オレもキン肉マンと直接戦ったことがある。それはテリーマンにとって有意義な情報だ――それに、テキサスって一度は行ってみたかったんだ」
ウォーズマンははにかむように笑った。
