まるでお菓子にみえるから(キン肉マンビッグボディ夢小説)
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今夜はビッグボディが「臨時収入があったから、肉を喰おう!」と彼女をさそい、お気に入りの焼き肉店で、二人で思いきり焼き肉を食べた。七輪にかぶせた焼き網に、はみ出るくらいドサドサと肉をのせ、もうもうとたち上がる白煙のせいで涙目になりつつ、焼けたそばから肉を裏がえしていく。もちろんビッグボディはそんな作業を彼女ひとりに任せたりはせず、むしろ率先して肉を焼き、「ほら焼けたぞ!」と言って、じゅうじゅうとまだ音をたてているカルビを、彼女の取り皿においた。特製のタレのなかにおとされた肉が、滴る脂で表面に透明な輪を描く。彼女がそれを口にはこぶあいだに、つぎの一切れがもう皿におとされている。あせって肉を飲みこもうとしたとたんむせて、彼女は咳きこみながらビールを流しこんだ。その様子をみたビッグボディは「そんなに慌てるなって!肉はまだたくせんあるんだぜ」と、なだめるようにやさしく言った。彼女が思わず「だってビッグボディったら、ペース早いんだもの」とかえすと、ビッグボディは一瞬キョトンとしたあと、笑い声をあげた。
「わりぃ、チームメイトと食べてるペースになっちまってたな」
陽気に笑うビッグボディの姿に、きっと彼は誰といてもこんなふうに面倒みがよいのだろうな、と彼女は胸があたたかくなった。
二人はたらふく食べて店をあとにし、ならんで夜の道を歩いていた。ビッグボディが彼女とならんで歩くとき、彼はいつも少しだけ前かがみになる。それは緊張してお腹が痛いとか、突然これまでの失敗を思いだしてへこんでしまったとか、そういうことでは全然なくて、彼女の言葉を聞きのがすまいとする、彼の熱意からくるものだ。彼女はとくに声もちいさいわけでもないし、身長だって平均的な日本人女性の範囲におさまっている。だけどビッグボディときたら、その名のとおり245センチも身長があるのだ。おまけに怪力無双のファイトスタイルからも分かるとおり、とにかく圧がつよい。と、いうより騒々しい。身もふたもない表現だが、かつてタッグパートナーからもそう指摘されたことがあるので、あながち的外れでもないだろう。
実際に、ドスドスと自分のたてる足音や、張りのあるその大声で、誰かの発言を聞きもらしてしまったことがいくどもある。彼の巨体の影に相手がまぎれてしまい、その存在に気がつかなかったことさえあった。だけど、彼は自分のそういう欠点をよく承知していて、そのために大切な相手の言葉を聞きのがしたくなくて、つい前かがみになってしまうのだった。
「今夜は、ありがとうね。とってもおいしかった」
「よかった。それならさそった甲斐があったってもんだ」
「お腹いっぱいだったけど、デザートのイチゴアイスもおいしいからペロッと食べちゃった」
「甘いものは別腹って、ホントだよなぁ」
イチゴの果肉がたっぷり入った、あざやかなピンク色のアイスは、たくさん注文してくれたサービスだと、店から提供されたものだった。ピンク色の肌をしたビッグボディが同じ色のアイスを食べる様子は、まるで原因と結果がカタチになって現れているように彼女には思えた。
彼女はふと、ビッグボディを見上げて言った。
「ねえ、ビッグボディ。ちょっとコッチにかがんでくれる?」
ビッグボディは不思議そうな顔で、そっと相手のほうへかがみこんだ。彼女の眼前によせられた首は、いくつもの筋肉が浮かび、いかにも頑丈そうだ。彼女はそこへ、そっと顔を近づけた。あたたかくやわらかな息がそっとビッグボディの首すじにあたって、彼の胸がドキン、と高なった。
「お、おい……?」
つぎの瞬間、彼女はクンクンと鼻息をたててビッグボディの匂いをかいだ。
「……イチゴの匂いがするんじゃないかって思ったんだけど、しないわね、やっぱり」
「に、におい!?」
「うん。前からビッグボディの肌の色って美味しそうだなって思ってたの。まるでお菓子にみえるから。今夜はイチゴのアイスを食べたから、そういう匂いがしたらいいなって、なんとなく」
「な、なんだ。てっきりオレは……」
安堵か落胆か、ビッグボディはちいさく肩をおとした。
「てっきり?」
「ああ、いや。だけど、イチゴかあ。それはねえよ。だいいちこんな大男からそんな匂いがしたら気味がわるいだろ」
「そうかしら、わたしは好きだわ。でも、実際は焼き肉の匂いね。まあ、それは私たち二人ともだけど」
彼女はピンク色の太い首に顔をうずめ、クスクスと笑った。その髪が、くすぐるようにビッグボディの首と肩をなで、彼の心臓がふたたびドキンと大きく高なった。
冬の暗くさえたしじまに、きれいな満月が浮かんでいる。月光が二人の影を、アスファルトにクッキリと映しだしていた。小さな影にむかってかがみ込む大きな影は、まるで相手を頭から一呑みにしてしまおうと企んでいるようにもみえた。
end
(書き下ろし 2025.01.24)
「わりぃ、チームメイトと食べてるペースになっちまってたな」
陽気に笑うビッグボディの姿に、きっと彼は誰といてもこんなふうに面倒みがよいのだろうな、と彼女は胸があたたかくなった。
二人はたらふく食べて店をあとにし、ならんで夜の道を歩いていた。ビッグボディが彼女とならんで歩くとき、彼はいつも少しだけ前かがみになる。それは緊張してお腹が痛いとか、突然これまでの失敗を思いだしてへこんでしまったとか、そういうことでは全然なくて、彼女の言葉を聞きのがすまいとする、彼の熱意からくるものだ。彼女はとくに声もちいさいわけでもないし、身長だって平均的な日本人女性の範囲におさまっている。だけどビッグボディときたら、その名のとおり245センチも身長があるのだ。おまけに怪力無双のファイトスタイルからも分かるとおり、とにかく圧がつよい。と、いうより騒々しい。身もふたもない表現だが、かつてタッグパートナーからもそう指摘されたことがあるので、あながち的外れでもないだろう。
実際に、ドスドスと自分のたてる足音や、張りのあるその大声で、誰かの発言を聞きもらしてしまったことがいくどもある。彼の巨体の影に相手がまぎれてしまい、その存在に気がつかなかったことさえあった。だけど、彼は自分のそういう欠点をよく承知していて、そのために大切な相手の言葉を聞きのがしたくなくて、つい前かがみになってしまうのだった。
「今夜は、ありがとうね。とってもおいしかった」
「よかった。それならさそった甲斐があったってもんだ」
「お腹いっぱいだったけど、デザートのイチゴアイスもおいしいからペロッと食べちゃった」
「甘いものは別腹って、ホントだよなぁ」
イチゴの果肉がたっぷり入った、あざやかなピンク色のアイスは、たくさん注文してくれたサービスだと、店から提供されたものだった。ピンク色の肌をしたビッグボディが同じ色のアイスを食べる様子は、まるで原因と結果がカタチになって現れているように彼女には思えた。
彼女はふと、ビッグボディを見上げて言った。
「ねえ、ビッグボディ。ちょっとコッチにかがんでくれる?」
ビッグボディは不思議そうな顔で、そっと相手のほうへかがみこんだ。彼女の眼前によせられた首は、いくつもの筋肉が浮かび、いかにも頑丈そうだ。彼女はそこへ、そっと顔を近づけた。あたたかくやわらかな息がそっとビッグボディの首すじにあたって、彼の胸がドキン、と高なった。
「お、おい……?」
つぎの瞬間、彼女はクンクンと鼻息をたててビッグボディの匂いをかいだ。
「……イチゴの匂いがするんじゃないかって思ったんだけど、しないわね、やっぱり」
「に、におい!?」
「うん。前からビッグボディの肌の色って美味しそうだなって思ってたの。まるでお菓子にみえるから。今夜はイチゴのアイスを食べたから、そういう匂いがしたらいいなって、なんとなく」
「な、なんだ。てっきりオレは……」
安堵か落胆か、ビッグボディはちいさく肩をおとした。
「てっきり?」
「ああ、いや。だけど、イチゴかあ。それはねえよ。だいいちこんな大男からそんな匂いがしたら気味がわるいだろ」
「そうかしら、わたしは好きだわ。でも、実際は焼き肉の匂いね。まあ、それは私たち二人ともだけど」
彼女はピンク色の太い首に顔をうずめ、クスクスと笑った。その髪が、くすぐるようにビッグボディの首と肩をなで、彼の心臓がふたたびドキンと大きく高なった。
冬の暗くさえたしじまに、きれいな満月が浮かんでいる。月光が二人の影を、アスファルトにクッキリと映しだしていた。小さな影にむかってかがみ込む大きな影は、まるで相手を頭から一呑みにしてしまおうと企んでいるようにもみえた。
end
(書き下ろし 2025.01.24)
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