ぎゅっ(キン肉マンビッグボディ夢小説)
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「インフルエンザが流行りはじめたのでそろそろマスクをしようね」
職場の皆とそんなふうに話していた矢先、打ち合わせの最中に、とつぜん目の前の上司がこちらに向かって大きなクシャミをした。もちろん手で押さえるなんてことはせず、ダイレクトに。
直後に「ごめんね、大丈夫だった?」と謝罪があったけど。
そして、終業後にロッカーで着替えている時に、それがやってきた。
ゾクリ。
まるで誰かに断りなしに冷たい手で足首をつかまれたような感じ。直後に足元に震えがきて、そのままうなじまでゾゾゾ、とそれが駆けぬけて、「あ、いま風邪をひいたな」と、ピンときた。
もともとカンのいい方ではない。霊感などはまるでないし、誰が誰のことを好きなのか、とかそんな雰囲気に気づけたためしがない。だけど、今回のカンだけは確実にあたっていた。
会社を出て、家に帰りつくころにはノドにチクチクと違和感がおきていた。それでも一週間ためた洗濯物をとにかく下着だけでもと洗濯機にほうりこんで、その間にシャワーをあびた。もしかしたら、バスタブにお湯をためて肩までつかって温まっていたら、また違った結果になっていたのかもしれないが、それはもう考えても仕方がない。シャワーのあとで、髪が濡れたまま洗濯物を干したのもまずかった気がするが、おなじくそれも考えても仕方ない。
夕飯を食べるころには腰のあたりは鈍くジクジクと、背中はきしむようにギシギシ、それぞれ痛みはじめていた。
ここまできたら誰がどう見ても風邪、まごうことなき風邪。それでも体温計を脇にはさまなかったのは、もしかしたら明日の朝になればすっかり元どおりになっているんじゃないかと一縷の望みをかけていたから。
――明日はビッグボディとスケートに行く約束をしていた。
十二月になったらきっと向こうは忙しくなるだろうから、もしからすると明日が今年最後のデートになる。
絶対に絶対に会いたかった。
気休めかもしれないけど、食後に解熱鎮痛薬を飲んでから寝た。
目が覚めたら朝で、時計をみたらいつもと同じ起床時間だった。ぐっすり眠ったみたいだけど、身体のほうは相変わらずで、すごく熱っぽい。おそるおそる体温計で計ったら、38.4度もあった。
もう、これじゃデートは絶対ムリだ。着替えやメイクだってできる気がしない。
仕方ない、ビッグボディに電話しよう。メールでもいいけど、せめて声が聞きたい。できればなぐさめてほしい。
でも、その前にトイレ。
トイレに行ったら生理がはじまっていた。風邪をひいて熱が出て、おまけに生理。とことんついてない。
決定的かつきわめつけに、気分がどん底まで落ちこんでいくが、ビッグボディが家を出てしまう前に連絡だけはしておかないと。
ハンズフリーにして電話をかけると、すぐにつながった。
「おう、おはよう」
「……ごめん、今日ムリかも」
「どうした?」
「昨日から風邪ひいて、熱もでちゃって」
「そうか、それじゃ仕方ないな。大丈夫か?」
「ほんとゴメンね」
「気にすんな、ゆっくり寝てろ」
こんなつもりじゃなかったのに。今日着るつもりだった服は一週間前から決めていた。手洗いうがいだって毎日ちゃんとしてた。なのになんでよりによってデートの前の日にあの上司は風邪なんかうつすんだろう。
不可抗力だって分かってても、楽しみが台無しになったせいでやり場のない哀しさがこみ上げて、ジワリと目頭が熱くなった。
「――おい、どうした、泣いてるのか?」
グズグズと鼻をすする音がむこうにも聞こえてしまったみたいだ。
「だいじょうぶ、寝てればなおるから。じゃあね、今までありがとう」
電話を切ったとたん、涙があとからあとからあふれてきて止まらなくなってしまった。
このまま年が明けるまで会えないのかな。
もう熱だけじゃなくてお腹も痛い。
寝よう。
いつの間にか眠ってたみたいだ。気がつくと、ピンポン、ピンポンと、軽やかな電子音が何度も部屋のなかに響いてる。
誰かがインタフォーンを鳴らしているんだ。かけていた毛布をはねのけて、カメラを確かめに行く。
「ビッグボディ!?」
モニターには、あのピンク色のおっきな人影が映っていた。
「だ、だいじょうぶか!?」
「待って、いま開けるね」
エントランスのロックを開けるとすぐに、ドアの向こうからドタドタと大きな足音が近づいてくるのが聞こえてきた。あわてて玄関ドアも開けると、目の前にビッグボディが立っていた。人食いライオンから逃げてきたみたいにゼイゼイと肩で息をしている。
「どうしたの?急に」
「お、おまえ……おまえが『今までありがとう、じゃあね』なんて言うから、てっきり何かあったんじゃないかと心配で心配でとんできた」
「……そんなこと言ったっけ?」
「言った!しかも泣きながら!!」
どうしよう、記憶にない。
とりあえず、散らかってて恥ずかしいけど部屋にはいってもらった。
ちっちゃいテーブルをはさんで向かい合って座る。「これがこうでおまえがこう言って」とさっきの電話の内容をビッグボディが説明してくれた。
「ごめん。朝から熱でて具合悪くて、生理も始まっちゃって。それで哀しくなって、つい言っちゃったんだと思う」
「何だよもう、それならそう言ってくれよ」
ビッグボディはガックリと肩を落として頭をかかえこんだ。まさにトホホ、という感じ。
「心配した?もしかして」
「するに決まってんだろ……でも、よかった、無事で」
「えへへ、ありがと。ゴメンね」
ウトウトしたせいか、さっきより少しだけ気持ちが軽くなっていた。それとも、もしかしたらビッグボディが駆けつけてくれたからかもしれない。
「とりあえず、寝てれば治ると思うから。それよりお茶でものまない?」
「いいよ、オレがいれる」
寝てろ、と強い口調で(めずらしく)言われたので、ベッドに戻って、横になりながらキッチンでお茶を用意するビッグボディをながめていた。身体が大きすぎて、まったくサイズが合ってない。いまにも吊戸棚に頭をぶつけそう。人間の住み家に勝手にあがりこんだクマみたいだ。
それでもちゃんと、紅茶のはいったカップがふたつ運ばれてきた。
「分かんねえから、あるもんでいれた」
「うん、ありがと」
きれいな紅い飲み物をそっと口にふくむと、じんわりとした熱が口のなかに広がった。ビッグボディも鼻のあたりまでマスクを引き上げて、紅茶を飲もうとしている。ヤケドしないように、ポッテリした唇をすぼめた様子はどこかユーモラスで、しかも当人はたぶん気がついていない。オフのときの、そういうちょっと抜けたところも彼のかわいいところだ。
「紅茶、おいしい」
「ならよかった。つってもカップに湯を入れただけだけどな」言葉どおりに安心したのか、ビッグボディは目を細めて笑いかけ、こちらの頭をガシガシなでた。
「メシは食ったのか?」
「ううん、ずっと寝てたから」
「何でもいいから食ったほうがいい。コンビニで買ってきてやるよ」
「じゃあヨーグルト食べたい、果物がはいってるやつ」
「分かった、他に欲しいものあるか?」
……ある。でも、どうしよう。頼んでいいものかどうか。
「一応、あるんだけど……お願いしてもいい?」
「おう、何でも買ってきてやる」
そうか、何でもか。じゃあ大丈夫かな。
「あのね、ナプキン買ってきてほしい。あと二個しかなくて」
ビッグボディの大きくない黒目が、キョトン、とさらに小さくなった。
「なぷきん?」
あ、おそらく意味が伝わってない。
「……ええとね、生理用品、買ってきてほしいの」
「生理用品……えええ!!!!!」
言葉の意味を理解した瞬間、ビッグボディはあぐらをかいたままズザザ!と後ずさって、壁にぶつかった。でっかいのに器用だな。
「ゴメン、いつもなら来週くらいのはずだったから、買い足してなくて」
「まあ、そういうこともある……って、いやいやいやいやいや、それは仕方ないとして、それって男が買っても大丈夫なのか!?」
「平気だよ?べつに」
ダメだったら逆にそっちのほうがコワい気がする。
「でもオレ、どれ買ったらいいか分かんねえよ!」
「じゃあ、いま使ってるの持っていけばいいんじゃない?」
「許して!それだけは許してくれ!ごめん!!」
ビッグボディときたら、まるで隠していたエッチな本が見つかってしまった中学生みたいだ。彼の(見えている部分の)肌は、ピンクを通り越してもはや赤紫色になっている。このままお風呂にはいったら、お湯のなかにアントシアニンとか溶けだしそう。そんな成分を持ってればだけど。
こうして運命の王子の一人で、強力の神さまに愛されてて、「気は優しくて力持ち」を地でいってる、みんなの人気者の超人は「多い日用」とだけ書かれたメモを片手に、すごすごとコンビニに出かけて行った。
あんまりにも慌てふためいているので可哀そうになって「そんなに嫌なら自分で買いに行くよ」と言ったら「これ以上おまえが具合悪くなったら心配で帰れないから、オレが行ってくる」と、そこだけは頑として譲らなかった。
そのあとしばらくして、ビッグボディが帰ってきた。カギを渡しておいたので、自分で玄関ドアをあけて部屋に入って、靴なげでもするみたいに足をふって靴をぬいだ。それから一直線にベッドまでやってきて、まるで大きな仕事をやりとげたみたいに、コンビニ袋をズイ、と差しだしてきた。
「買ってきた、ぞ」
ヨーグルトとナプキンだけにしてはやけに袋が大きい。なかをのぞくとサンドイッチやおにぎり、カップスープにゼリーやスポーツドリンクと、ほかにも雑多な食べ物や飲み物がはいっていた。
「いっぱい入ってるね」
「腹が減ったら食えるように。けど、何がいいか分からんから一通り買ってきた」
「ありがと。ほんとゴメンね、恥ずかしかったでしょ」
すると、しゃがみこんだビッグボディにギュッと抱きしめられた。
「ビックリしただけで、恥ずかしくなんかねぇよ」
「ホント?さっきは違うこと言ってた気がするけどな」
「オレがそうっつったら、そうなの」
それからしばらく、ゆっくりゆっくりと背中をさすってくれた。おっきくて分厚い手のひらがふれた部分から、ほんのりと身体が温かくなっていく。まるで超人のエネルギーを分けてくれてるみたい。キスをしたり、抱きしめあったり、そういうときのドキドキする熱さも好きだけど、今はこっちのほうが好きだ。
「元気になったら、また一緒にでかけようね」
「ああ、そうしよう」
痛いのも、苦しいのもイヤだ。だけどそんなとき、この上なく強くて優しいこの超人がそばに居てくれるなら、たまには、こういうことがあってもいい。
また少し、二人の気持ちがギュッと結びついたような気がするから。
end
(書き下ろし 2024.12.04)
職場の皆とそんなふうに話していた矢先、打ち合わせの最中に、とつぜん目の前の上司がこちらに向かって大きなクシャミをした。もちろん手で押さえるなんてことはせず、ダイレクトに。
直後に「ごめんね、大丈夫だった?」と謝罪があったけど。
そして、終業後にロッカーで着替えている時に、それがやってきた。
ゾクリ。
まるで誰かに断りなしに冷たい手で足首をつかまれたような感じ。直後に足元に震えがきて、そのままうなじまでゾゾゾ、とそれが駆けぬけて、「あ、いま風邪をひいたな」と、ピンときた。
もともとカンのいい方ではない。霊感などはまるでないし、誰が誰のことを好きなのか、とかそんな雰囲気に気づけたためしがない。だけど、今回のカンだけは確実にあたっていた。
会社を出て、家に帰りつくころにはノドにチクチクと違和感がおきていた。それでも一週間ためた洗濯物をとにかく下着だけでもと洗濯機にほうりこんで、その間にシャワーをあびた。もしかしたら、バスタブにお湯をためて肩までつかって温まっていたら、また違った結果になっていたのかもしれないが、それはもう考えても仕方がない。シャワーのあとで、髪が濡れたまま洗濯物を干したのもまずかった気がするが、おなじくそれも考えても仕方ない。
夕飯を食べるころには腰のあたりは鈍くジクジクと、背中はきしむようにギシギシ、それぞれ痛みはじめていた。
ここまできたら誰がどう見ても風邪、まごうことなき風邪。それでも体温計を脇にはさまなかったのは、もしかしたら明日の朝になればすっかり元どおりになっているんじゃないかと一縷の望みをかけていたから。
――明日はビッグボディとスケートに行く約束をしていた。
十二月になったらきっと向こうは忙しくなるだろうから、もしからすると明日が今年最後のデートになる。
絶対に絶対に会いたかった。
気休めかもしれないけど、食後に解熱鎮痛薬を飲んでから寝た。
目が覚めたら朝で、時計をみたらいつもと同じ起床時間だった。ぐっすり眠ったみたいだけど、身体のほうは相変わらずで、すごく熱っぽい。おそるおそる体温計で計ったら、38.4度もあった。
もう、これじゃデートは絶対ムリだ。着替えやメイクだってできる気がしない。
仕方ない、ビッグボディに電話しよう。メールでもいいけど、せめて声が聞きたい。できればなぐさめてほしい。
でも、その前にトイレ。
トイレに行ったら生理がはじまっていた。風邪をひいて熱が出て、おまけに生理。とことんついてない。
決定的かつきわめつけに、気分がどん底まで落ちこんでいくが、ビッグボディが家を出てしまう前に連絡だけはしておかないと。
ハンズフリーにして電話をかけると、すぐにつながった。
「おう、おはよう」
「……ごめん、今日ムリかも」
「どうした?」
「昨日から風邪ひいて、熱もでちゃって」
「そうか、それじゃ仕方ないな。大丈夫か?」
「ほんとゴメンね」
「気にすんな、ゆっくり寝てろ」
こんなつもりじゃなかったのに。今日着るつもりだった服は一週間前から決めていた。手洗いうがいだって毎日ちゃんとしてた。なのになんでよりによってデートの前の日にあの上司は風邪なんかうつすんだろう。
不可抗力だって分かってても、楽しみが台無しになったせいでやり場のない哀しさがこみ上げて、ジワリと目頭が熱くなった。
「――おい、どうした、泣いてるのか?」
グズグズと鼻をすする音がむこうにも聞こえてしまったみたいだ。
「だいじょうぶ、寝てればなおるから。じゃあね、今までありがとう」
電話を切ったとたん、涙があとからあとからあふれてきて止まらなくなってしまった。
このまま年が明けるまで会えないのかな。
もう熱だけじゃなくてお腹も痛い。
寝よう。
いつの間にか眠ってたみたいだ。気がつくと、ピンポン、ピンポンと、軽やかな電子音が何度も部屋のなかに響いてる。
誰かがインタフォーンを鳴らしているんだ。かけていた毛布をはねのけて、カメラを確かめに行く。
「ビッグボディ!?」
モニターには、あのピンク色のおっきな人影が映っていた。
「だ、だいじょうぶか!?」
「待って、いま開けるね」
エントランスのロックを開けるとすぐに、ドアの向こうからドタドタと大きな足音が近づいてくるのが聞こえてきた。あわてて玄関ドアも開けると、目の前にビッグボディが立っていた。人食いライオンから逃げてきたみたいにゼイゼイと肩で息をしている。
「どうしたの?急に」
「お、おまえ……おまえが『今までありがとう、じゃあね』なんて言うから、てっきり何かあったんじゃないかと心配で心配でとんできた」
「……そんなこと言ったっけ?」
「言った!しかも泣きながら!!」
どうしよう、記憶にない。
とりあえず、散らかってて恥ずかしいけど部屋にはいってもらった。
ちっちゃいテーブルをはさんで向かい合って座る。「これがこうでおまえがこう言って」とさっきの電話の内容をビッグボディが説明してくれた。
「ごめん。朝から熱でて具合悪くて、生理も始まっちゃって。それで哀しくなって、つい言っちゃったんだと思う」
「何だよもう、それならそう言ってくれよ」
ビッグボディはガックリと肩を落として頭をかかえこんだ。まさにトホホ、という感じ。
「心配した?もしかして」
「するに決まってんだろ……でも、よかった、無事で」
「えへへ、ありがと。ゴメンね」
ウトウトしたせいか、さっきより少しだけ気持ちが軽くなっていた。それとも、もしかしたらビッグボディが駆けつけてくれたからかもしれない。
「とりあえず、寝てれば治ると思うから。それよりお茶でものまない?」
「いいよ、オレがいれる」
寝てろ、と強い口調で(めずらしく)言われたので、ベッドに戻って、横になりながらキッチンでお茶を用意するビッグボディをながめていた。身体が大きすぎて、まったくサイズが合ってない。いまにも吊戸棚に頭をぶつけそう。人間の住み家に勝手にあがりこんだクマみたいだ。
それでもちゃんと、紅茶のはいったカップがふたつ運ばれてきた。
「分かんねえから、あるもんでいれた」
「うん、ありがと」
きれいな紅い飲み物をそっと口にふくむと、じんわりとした熱が口のなかに広がった。ビッグボディも鼻のあたりまでマスクを引き上げて、紅茶を飲もうとしている。ヤケドしないように、ポッテリした唇をすぼめた様子はどこかユーモラスで、しかも当人はたぶん気がついていない。オフのときの、そういうちょっと抜けたところも彼のかわいいところだ。
「紅茶、おいしい」
「ならよかった。つってもカップに湯を入れただけだけどな」言葉どおりに安心したのか、ビッグボディは目を細めて笑いかけ、こちらの頭をガシガシなでた。
「メシは食ったのか?」
「ううん、ずっと寝てたから」
「何でもいいから食ったほうがいい。コンビニで買ってきてやるよ」
「じゃあヨーグルト食べたい、果物がはいってるやつ」
「分かった、他に欲しいものあるか?」
……ある。でも、どうしよう。頼んでいいものかどうか。
「一応、あるんだけど……お願いしてもいい?」
「おう、何でも買ってきてやる」
そうか、何でもか。じゃあ大丈夫かな。
「あのね、ナプキン買ってきてほしい。あと二個しかなくて」
ビッグボディの大きくない黒目が、キョトン、とさらに小さくなった。
「なぷきん?」
あ、おそらく意味が伝わってない。
「……ええとね、生理用品、買ってきてほしいの」
「生理用品……えええ!!!!!」
言葉の意味を理解した瞬間、ビッグボディはあぐらをかいたままズザザ!と後ずさって、壁にぶつかった。でっかいのに器用だな。
「ゴメン、いつもなら来週くらいのはずだったから、買い足してなくて」
「まあ、そういうこともある……って、いやいやいやいやいや、それは仕方ないとして、それって男が買っても大丈夫なのか!?」
「平気だよ?べつに」
ダメだったら逆にそっちのほうがコワい気がする。
「でもオレ、どれ買ったらいいか分かんねえよ!」
「じゃあ、いま使ってるの持っていけばいいんじゃない?」
「許して!それだけは許してくれ!ごめん!!」
ビッグボディときたら、まるで隠していたエッチな本が見つかってしまった中学生みたいだ。彼の(見えている部分の)肌は、ピンクを通り越してもはや赤紫色になっている。このままお風呂にはいったら、お湯のなかにアントシアニンとか溶けだしそう。そんな成分を持ってればだけど。
こうして運命の王子の一人で、強力の神さまに愛されてて、「気は優しくて力持ち」を地でいってる、みんなの人気者の超人は「多い日用」とだけ書かれたメモを片手に、すごすごとコンビニに出かけて行った。
あんまりにも慌てふためいているので可哀そうになって「そんなに嫌なら自分で買いに行くよ」と言ったら「これ以上おまえが具合悪くなったら心配で帰れないから、オレが行ってくる」と、そこだけは頑として譲らなかった。
そのあとしばらくして、ビッグボディが帰ってきた。カギを渡しておいたので、自分で玄関ドアをあけて部屋に入って、靴なげでもするみたいに足をふって靴をぬいだ。それから一直線にベッドまでやってきて、まるで大きな仕事をやりとげたみたいに、コンビニ袋をズイ、と差しだしてきた。
「買ってきた、ぞ」
ヨーグルトとナプキンだけにしてはやけに袋が大きい。なかをのぞくとサンドイッチやおにぎり、カップスープにゼリーやスポーツドリンクと、ほかにも雑多な食べ物や飲み物がはいっていた。
「いっぱい入ってるね」
「腹が減ったら食えるように。けど、何がいいか分からんから一通り買ってきた」
「ありがと。ほんとゴメンね、恥ずかしかったでしょ」
すると、しゃがみこんだビッグボディにギュッと抱きしめられた。
「ビックリしただけで、恥ずかしくなんかねぇよ」
「ホント?さっきは違うこと言ってた気がするけどな」
「オレがそうっつったら、そうなの」
それからしばらく、ゆっくりゆっくりと背中をさすってくれた。おっきくて分厚い手のひらがふれた部分から、ほんのりと身体が温かくなっていく。まるで超人のエネルギーを分けてくれてるみたい。キスをしたり、抱きしめあったり、そういうときのドキドキする熱さも好きだけど、今はこっちのほうが好きだ。
「元気になったら、また一緒にでかけようね」
「ああ、そうしよう」
痛いのも、苦しいのもイヤだ。だけどそんなとき、この上なく強くて優しいこの超人がそばに居てくれるなら、たまには、こういうことがあってもいい。
また少し、二人の気持ちがギュッと結びついたような気がするから。
end
(書き下ろし 2024.12.04)
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