とうとう初めての(ジェロニモ夢小説)

11月も残り半分、今年もとうとう終わりが見えてきた。月が変わったらジェロはアイドル超人の一人として興行その他であちこち飛びまわる。きっとゆっくり過ごせるのは今年は今日が最後だろう。
そんな貴重な休みを「二人で過ごそう」と私のために空けてくれた。うれしい。「どこか行きたいところはないか」と聞かれたけれど、せっかくだから「二人で」じゃなくて「二人きりで」過ごしたい。劇場で見逃した映画がちょうど、サブスクに入ったばかりで、「ジェロの部屋で映画観ようよ」と言ったら「それはいい考えズラ!」と笑って賛成してくれた。

久しぶりのジェロの部屋はとくだん変わったところはなくて、窓際におかれた鉢植えの木に小さな蕾がついていたことと、今年のカレンダーのとなりに来年のカレンダーがかけてあるくらいだった。
他の女の子の気配はしない、当たり前だけど。
いつだってそういう話になると「オラは不器用だから」といって恥ずかしそうにジェロは笑ってみせる。
冗談じゃないって思う。
ふつうの人間にはなれるはずのない超人になって、そのうえ宇宙超人タッグトーナメントやキン肉星の王位争奪戦にメンバーの一人として参加して、あまつさえ身を挺して世界の命運を決める大切な装置の一部にさえなったのに。そんなアイドル超人を女性が放っておくわけがない。
だけど、ジェロのそういう生真面目なところが好きだ。ううん、もう生真面目をとおり越して変人の域だ。こんなにすごいのに、私みたいな平凡な女とつき合っているところからもそれが分かる。

お昼ご飯を食べながら映画を観た。やっぱりすごく面白くて、「劇場で観たかったね」とうなずきあった。
こういうことはたまにある。来月みたいなイベントシーズンとか、故郷の様子を見に行ったりとか。ジェロの故郷はアメリカのオクラホマで、そのなかでも辺鄙なところにある先住民の居留地なので、一度行くと軽く半月くらいは行ったきりだ。でも、きっとそういうことって、相手によってはよくあることだと思うからとくに気にはしていない。
問題なのは世界の危機なんて類のこと。そんなことが起きたら、こっちの都合なんておかまいなしで立ち向かわないといけない。しかも命がけで。
運のいいことに、今日はそういう事態が起こることはなかった。これから当分会えなくなる恋人同士に気を使ってくれたのかも。
かわりに、夕方から雪が降りはじめた。朝の予報ではちっともそんなこと言ってなかったのに。二人で外にでて大はしゃぎしているうちに、気がついたら辺りにはどっさり雪がつもっていた。
いま「またね」と別れれば家に帰れるだろう。電車はまだ動いているはずだ。でも、ふだんの風景を雪が閉じこめているせいで、違う世界にいるみたいな気がして、つい困った顔で言ってみた。
「こんなに積もって、帰る途中で電車が止まったらどうしよう」
きっとジェロも分かっていたと思う。真っ赤な顔をしてポツリと言った。
「今夜は……オラの部屋に泊まればいい」
あとからあとから、音もなく雪が降ってくる。スポットライトみたいな街路灯に照らされて、ジェロはまるで舞台演劇の役者みたいだった。

そのままコンビニに行って、朝ごはんのサンドイッチとお泊りセットを買った。お店を出てすぐにジェロが「買い忘れたものがあったからちょっと待っててくれ」と言って、なかにもどって行った。何を買いに行ったのかも、それが忘れたフリなんだろうってこともすぐに分かった。だから、そそくさと戻ってきた彼に、なんでもないような顔をして「寒いね、早く帰ろう」と言った。
部屋に戻ると、ジェロはエアコンとファンヒーターを全開にして、コップを二つと冷蔵庫に入っていた昼間の飲み残しのコーラ、それからお酒の瓶を持ってきた。
「すこし飲もうか」
てっきりすぐにベッドに行くんじゃないかと思ってたから、少しホッとした。お酒はあまり強いほうじゃないし、ジェロもそれを知ってるから、普段はあんまりすすめてこないけど、今夜は特別だ。
並べたコップにトポトポと茶色く透きとおったお酒が注がれる。なんだか甘くて複雑な香りがした。
「ウイスキー?」
「ああ、バーボンウイスキー」
そこに後からコーラを注いで、それをコークハイというのだそう。渡されたグラスにそっと口をつけてみる。いつものコーラに、ちょっと薬みたいな違和感が混ざっていた。
ウイスキーにも種類があって、バーボンは材料がトウモロコシでアメリカでよく飲まれている。ジェロはそう教えてくれた。「バーボンもコーラもアメリカの飲み物だから、コークハイはジェロの飲み物だね」と言ったらくすぐったそうに笑った。

グラスの中身が半分以下になるころ、何だか身体がフワフワして熱くなってきた。そっとジェロに寄りかかってみる。
「……酔ってるだか?」
「うん、ちょっとだけ。ジェロは?」
「オラは、うん、全然」
やっぱりもっと飲まないと酔ったりしないのか。さすがは超人だ。
肩に腕がまわされて、抱きよせられた。やさしい仕草だったけど、グッと力がこもってて、ジェロも緊張してるのかもしれない。
おでこに何度もキスをされた。それがまぶたに降りてきて、それから、唇に。
ジェロの唇はいつも熱い。今日はいつもよりもっと熱い。熱くて長いキスが終わると、長い前髪に透けたジェロの目がこっちを見つめていた。
「シャワー、浴びたほうが……いいよね?」
「あ、ああ、そうか、そうだな。ちょっと片付けてくる」
とうとう初めての、夜だ。
こんなことが起きるなんて、今朝は全然考えてなかった。何だか胸がドキドキしてきた。でも、すごくうれしい。きっとジェロはすごく優しく、そしてたくさん触れてくれるだろう。
これから私たちは、もっと仲良くなれるに違いない。
神様、今夜の雪をどうもありがとう。

end
2024.11.07 書き下ろし
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