どうか残さず(ネプチューンマン夢小説)
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ある夜、出先から戻ったネプチューンマンは、スーツの胸ポケットから小さなプレゼントの包みを取り出し「これをおまえにやろう」と彼女に差しだした。しかし、12月24日はまだまだ先だし、誕生日でもない。
「今日って……何かあった?」
「いいや、ただ何となくだ」
ただ何となく、が本当のことなのかそれとも買うに至った別の思いつきがあったのか分からないけれど、こんなことがあると、ちゃんと恋人として認識されているのだと妙な実感がわく。
包みをとくと真っ赤なリップだった。黒い筒形のケースの天辺には、背中合わせになった二つのCが描かれていて、このブランドを知らない大人の女性はあまりいないだろう。
この男はよくこういう事をする。例えば予告もなしに数えきれないくらいのバラの花束を抱えて帰ってきたりとか。もちろんそれは真っ赤なバラで、この時も理由をたずねたら「おまえに花をプレゼントをしたくなった」としか返ってこなかった。賢しいようにみえて、愛情表現に関してはつねに直球なのだ。
ネプチューンマンの人となりについては諸説紛々あるけれども、きっと彼はいつだって己の心に対してひたすらに忠実なのだろう。正義超人らの友情パワーを認め、爆薬を飲みこんで自ら人狼煙となり果てたときもまた、きっとそうであったに違いない。
「きれいな赤だね、ありがとう」
「今夜、つけてくれ」
「……うん」
今夜、というのはつまりそういうことで、こんなところもド直球だ。
夕食の後、ネプチューンマンに続いて彼女も入浴した。湯上りの姿を洗面台の鏡に映してみる。リップの蓋をはずして、少しだけ中身をくり出すと、その赤はまるきりルビーそのもの、それも鳩の血と呼ばれるたぐいの色だ。一度たりとして自分では選んだことがない色。
こんな鮮やかな赤は抜けるような白い肌とか、自己疑念などすこしも抱いたことのない自信家にしか似合わないのでは、と思う。そしてそれは、今もベッドで彼女を待っているあの男にすっかり当てはまるのだと、ふいに気がついた。
これはルビーではなく、あの仮面の赤だった。
彼女はファム・ファタルの仮面をまとうような気分で、赤いリップをひいた。
寝室のドアをあけると、ほの暗い室内でネプチューンマンがベッドに腰かけていた。灯りに照らされた仮面が、炉のように輝いている。彼女がネプチューンマンのかたわらに座ると、彼はその腰に手をまわし、熱のこもった眼差しをむけた。
「どう、かな」
「美しいな。とてもいい」
ネプチューンマンはこれから事にあたる男として、真っ赤なマスクを外すと、折り目正しくサイドボードにそれをおいた。そして彼女のおとがいに手をかけて唇をよせ、熟した果実を味わうように、じっくりと時間をかけて赤い唇をついばんだ。二人の熱でリップの香りが強く鮮やかに立ちこめる。バラを思わせる華やかな香りは、魔法のように彼女を酔わせた。
ややあってネプチューンマンの唇がはなれると、彼女は目をあけた。うっかり、というかやはりというか、唾液に濡れたネプチューンマンの金の口ひげと口元には赤い色がたっぷりうつっていて、まるきり血で汚れたようだった。
「リップがついちゃったね」
ネプチューンマンは自らの口元を親指でぬぐい、それを確かめた。
「こんな些末なことに思い至らなかったとは、私もまだまだだな」
彼はたいして意に介さず、片方の眉をあげ、ニタリと歯をみせて笑った。それはまるで、血に酔ったライオンのようだった。二人は再び唇を重ねあわせ、ネプチューンマンは彼女をベッドに横たえると、その身体に覆いかぶさった。
――これからこの獣に食べられるのだ。そう感じた瞬間、彼女は肌があわだつほど興奮した。
それならば、どうか残さず食べてほしい。
end
(書き下ろし 2024.10.12)
「今日って……何かあった?」
「いいや、ただ何となくだ」
ただ何となく、が本当のことなのかそれとも買うに至った別の思いつきがあったのか分からないけれど、こんなことがあると、ちゃんと恋人として認識されているのだと妙な実感がわく。
包みをとくと真っ赤なリップだった。黒い筒形のケースの天辺には、背中合わせになった二つのCが描かれていて、このブランドを知らない大人の女性はあまりいないだろう。
この男はよくこういう事をする。例えば予告もなしに数えきれないくらいのバラの花束を抱えて帰ってきたりとか。もちろんそれは真っ赤なバラで、この時も理由をたずねたら「おまえに花をプレゼントをしたくなった」としか返ってこなかった。賢しいようにみえて、愛情表現に関してはつねに直球なのだ。
ネプチューンマンの人となりについては諸説紛々あるけれども、きっと彼はいつだって己の心に対してひたすらに忠実なのだろう。正義超人らの友情パワーを認め、爆薬を飲みこんで自ら人狼煙となり果てたときもまた、きっとそうであったに違いない。
「きれいな赤だね、ありがとう」
「今夜、つけてくれ」
「……うん」
今夜、というのはつまりそういうことで、こんなところもド直球だ。
夕食の後、ネプチューンマンに続いて彼女も入浴した。湯上りの姿を洗面台の鏡に映してみる。リップの蓋をはずして、少しだけ中身をくり出すと、その赤はまるきりルビーそのもの、それも鳩の血と呼ばれるたぐいの色だ。一度たりとして自分では選んだことがない色。
こんな鮮やかな赤は抜けるような白い肌とか、自己疑念などすこしも抱いたことのない自信家にしか似合わないのでは、と思う。そしてそれは、今もベッドで彼女を待っているあの男にすっかり当てはまるのだと、ふいに気がついた。
これはルビーではなく、あの仮面の赤だった。
彼女はファム・ファタルの仮面をまとうような気分で、赤いリップをひいた。
寝室のドアをあけると、ほの暗い室内でネプチューンマンがベッドに腰かけていた。灯りに照らされた仮面が、炉のように輝いている。彼女がネプチューンマンのかたわらに座ると、彼はその腰に手をまわし、熱のこもった眼差しをむけた。
「どう、かな」
「美しいな。とてもいい」
ネプチューンマンはこれから事にあたる男として、真っ赤なマスクを外すと、折り目正しくサイドボードにそれをおいた。そして彼女のおとがいに手をかけて唇をよせ、熟した果実を味わうように、じっくりと時間をかけて赤い唇をついばんだ。二人の熱でリップの香りが強く鮮やかに立ちこめる。バラを思わせる華やかな香りは、魔法のように彼女を酔わせた。
ややあってネプチューンマンの唇がはなれると、彼女は目をあけた。うっかり、というかやはりというか、唾液に濡れたネプチューンマンの金の口ひげと口元には赤い色がたっぷりうつっていて、まるきり血で汚れたようだった。
「リップがついちゃったね」
ネプチューンマンは自らの口元を親指でぬぐい、それを確かめた。
「こんな些末なことに思い至らなかったとは、私もまだまだだな」
彼はたいして意に介さず、片方の眉をあげ、ニタリと歯をみせて笑った。それはまるで、血に酔ったライオンのようだった。二人は再び唇を重ねあわせ、ネプチューンマンは彼女をベッドに横たえると、その身体に覆いかぶさった。
――これからこの獣に食べられるのだ。そう感じた瞬間、彼女は肌があわだつほど興奮した。
それならば、どうか残さず食べてほしい。
end
(書き下ろし 2024.10.12)
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