惑星間遠距離恋愛のアポリア 前編(キン肉マンソルジャー夢小説(キン肉アタル))
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一息つくと、彼女は「お風呂をたてておいたからさっぱりしてきたら?」とアタルにすすめ、彼はよろこんでそれに従うことにした。入浴、ことに湯船につかるというのは、宇宙生活ではなかなかできない行為だ。キン肉王家を出奔するまで一族の長兄として過ごした彼は、温かい湯につかる心地よさを充分すぎるほど知っている。
さっそく脱衣所で着の身着のままだった衣服を脱ぎすて、浴室で身体をザッと洗いながすと、たっぷりの湯ぶねに肩まですっかり浸った。思わず愉悦のため息がもれる。長時間の移動で硬くなった身体がほぐれていくのが感じられた。
そのあとは湯をふんだんに使って全身をくまなく洗った。そして、髪も。マスクは脱衣所だ。それは彼が風呂から出るまで彼女はけしてそこに立ち入らないという絶対の信頼があってこそのふるまいだった。
アタルはすっかり満足して浴室を出た。脱衣かごにあらかじめ用意してあった着替えを手に取って広げると、それはモスグリーンの浴衣だった。と、いっても浴衣と帯だけのごく簡単なものだが。
あの頃――王位争奪戦の時代、日本の宿泊施設で用意される寝間着といえばたいていコレだった。珍しがって喜んだものの伝統衣装など袖を通したことのないアタルや、バッファローマン、ブロッケンjr.、アシュラマンらに着方を手ほどきしたのはザ・ニンジャだった。もっともアシュラマンは三本の腕すべてを袖に通すときゅうくつになってしまい、そうそうに脱ぎすててしまっていたが。そうして朝になると、バッファローマンなどは寝乱れてもはや浴衣の態をなしておらず、衣服というよりはシーツを巻き付けただけのような格好になっていた。その有様を見たニンジャは「どうしたらそんな姿になるのだ」といつも眉根をよせていた。
――本当に、よく覚えているものだ。
マスクからのぞく青い目が柔和な笑みをうかべた。
「いい湯だった」
風呂から戻ったアタルの満ちたりた様子に彼女は顔をほころばせた。
「その浴衣、よく似合ってる」
「急だったのに、用意がいい」
「喜ぶかなって。ニンジャさんはお元気?」
「ああ。相変わらず仕事の虫だ。そのくせオレには『休むのも仕事のうちだ』と言ってくる。こうして来られたのもヤツのおかげだ。おまえによろしくとのことだそうだ」
「彼らしいわ。帰ったらわたしからもお礼をつたえて」
いくらもしないうちに山の端に日がかかりはじめ、どこか遠くでヒグラシが鳴きはじめた。高く続く鳴き声はどこかもの悲しく切なげだった。
夕食はテーブルの真ん中にホットプレートをすえて焼肉にした。何を作ろうか彼女はさんざん迷ったあげく、やっぱり肉に決めた。牛、豚、鶏のさまざまな部位や、ピーマン、カボチャ、ズッキーニにトウモロコシなど色あざやかな野菜を大きな皿に盛りあわせて食卓に運ぶと「焼肉は久しぶりだ」と、アタルは顔をほころばせた。
「ちょっと色気に欠けるかなって気もしたんだけど」
「いいさ、色気より食い気だ」
やはり選択は間違っていなかった。準備に時間がかからなかった分ゆっくりできるし、食べながらの会話もはずむ。アタルは超人らしくじつによく食べ、かつ飲んだ。彼女はさし向かいで「このお肉、もう焼けたみたい」とか「ビール、もう少しどう?」などとかいがいしく世話をやき、なんだか夫婦になったみたいで、くすぐったくて嬉しかった。
そろって腹がくちくなった頃「そういえば――」と彼女は話しだした。
「むかし、みんなでお肉を食べに行ったじゃない?」
「あったな。争奪戦が終わっていくらもしない頃だったか」
「ずっと言いそびれてたんだけど、実はあの時バッファローマンに『オレとつき合わないか』って言われたの。もちろんその場で断ったし、それきりだけど。でももう私たちがつき合ってるって知ってたのに。こうやってお肉を食べてたらそのこと思いだしちゃった」
「……そんなことがあったのか」
意外な思い出話に、珍しくアタルは毒気をぬかれたような顔をしている。
「バッファローマンて、たぶん、ううん、やっぱり女たらしなのね」
今さらという感じで彼女はウンウンとうなずいた。
「そう言ってやるな。仲間思いのいい奴なんだ」
「つまり友達としては最高だけど、恋人にはしないほうがいいタイプ」
「おまえが、魅力的なんだ。バッファローマンだけじゃない――他の男から見てもな」
アタルはなかば自分に言い聞かせるようにつぶやくと、グラスに残ったビールを一息で飲みほした。
「もしかして、いま後ろ向きなこと考えてる?」
「いや……まあ、うん、考えてた。オレのいない間におまえにモーションをかけるヤツもいるんだろう、と。よく分かったな」
「分かるわ、だってアタルさん目がすわってたもの。考えごとをするときのクセ」
「そうか」
「心配しないで、わたしにはあなただけ。そうでなければこんなに待ちつづけたりしない」
そのことはアタルも充分すぎるほど理解している。
会いたくて会えない。
たぶんそれは二人とも同等だ。しかしだからこそ己が堅固な超人であるのに対して、それより劣る人の身でジレンマを抱えつづけるいじらしさにアタルは胸が痛んだ。
食事の後片づけは、二人ですませた。彼女が食器を洗うそばからアタルが拭いて、もともと皿数の少ないメニューだったからあっという間に片づいた。
「わたしもお風呂に入ってくる」
彼女はエプロンを脱いで、風呂場へ消えた。戻るのを待ちながらアタルは晩酌を続けていた。先ほどのビールは今やウイスキーに代わっている。掌のなかでグラスを温め、まろやかにほどけた琥珀色の酒をちびちびと口にふくむ。鼻にぬける薫香をたのしみながら、これから待っていることを思い浮かべると、マスクの下の顔がついゆるんだ。
「……いかんな」
to be continued
さっそく脱衣所で着の身着のままだった衣服を脱ぎすて、浴室で身体をザッと洗いながすと、たっぷりの湯ぶねに肩まですっかり浸った。思わず愉悦のため息がもれる。長時間の移動で硬くなった身体がほぐれていくのが感じられた。
そのあとは湯をふんだんに使って全身をくまなく洗った。そして、髪も。マスクは脱衣所だ。それは彼が風呂から出るまで彼女はけしてそこに立ち入らないという絶対の信頼があってこそのふるまいだった。
アタルはすっかり満足して浴室を出た。脱衣かごにあらかじめ用意してあった着替えを手に取って広げると、それはモスグリーンの浴衣だった。と、いっても浴衣と帯だけのごく簡単なものだが。
あの頃――王位争奪戦の時代、日本の宿泊施設で用意される寝間着といえばたいていコレだった。珍しがって喜んだものの伝統衣装など袖を通したことのないアタルや、バッファローマン、ブロッケンjr.、アシュラマンらに着方を手ほどきしたのはザ・ニンジャだった。もっともアシュラマンは三本の腕すべてを袖に通すときゅうくつになってしまい、そうそうに脱ぎすててしまっていたが。そうして朝になると、バッファローマンなどは寝乱れてもはや浴衣の態をなしておらず、衣服というよりはシーツを巻き付けただけのような格好になっていた。その有様を見たニンジャは「どうしたらそんな姿になるのだ」といつも眉根をよせていた。
――本当に、よく覚えているものだ。
マスクからのぞく青い目が柔和な笑みをうかべた。
「いい湯だった」
風呂から戻ったアタルの満ちたりた様子に彼女は顔をほころばせた。
「その浴衣、よく似合ってる」
「急だったのに、用意がいい」
「喜ぶかなって。ニンジャさんはお元気?」
「ああ。相変わらず仕事の虫だ。そのくせオレには『休むのも仕事のうちだ』と言ってくる。こうして来られたのもヤツのおかげだ。おまえによろしくとのことだそうだ」
「彼らしいわ。帰ったらわたしからもお礼をつたえて」
いくらもしないうちに山の端に日がかかりはじめ、どこか遠くでヒグラシが鳴きはじめた。高く続く鳴き声はどこかもの悲しく切なげだった。
夕食はテーブルの真ん中にホットプレートをすえて焼肉にした。何を作ろうか彼女はさんざん迷ったあげく、やっぱり肉に決めた。牛、豚、鶏のさまざまな部位や、ピーマン、カボチャ、ズッキーニにトウモロコシなど色あざやかな野菜を大きな皿に盛りあわせて食卓に運ぶと「焼肉は久しぶりだ」と、アタルは顔をほころばせた。
「ちょっと色気に欠けるかなって気もしたんだけど」
「いいさ、色気より食い気だ」
やはり選択は間違っていなかった。準備に時間がかからなかった分ゆっくりできるし、食べながらの会話もはずむ。アタルは超人らしくじつによく食べ、かつ飲んだ。彼女はさし向かいで「このお肉、もう焼けたみたい」とか「ビール、もう少しどう?」などとかいがいしく世話をやき、なんだか夫婦になったみたいで、くすぐったくて嬉しかった。
そろって腹がくちくなった頃「そういえば――」と彼女は話しだした。
「むかし、みんなでお肉を食べに行ったじゃない?」
「あったな。争奪戦が終わっていくらもしない頃だったか」
「ずっと言いそびれてたんだけど、実はあの時バッファローマンに『オレとつき合わないか』って言われたの。もちろんその場で断ったし、それきりだけど。でももう私たちがつき合ってるって知ってたのに。こうやってお肉を食べてたらそのこと思いだしちゃった」
「……そんなことがあったのか」
意外な思い出話に、珍しくアタルは毒気をぬかれたような顔をしている。
「バッファローマンて、たぶん、ううん、やっぱり女たらしなのね」
今さらという感じで彼女はウンウンとうなずいた。
「そう言ってやるな。仲間思いのいい奴なんだ」
「つまり友達としては最高だけど、恋人にはしないほうがいいタイプ」
「おまえが、魅力的なんだ。バッファローマンだけじゃない――他の男から見てもな」
アタルはなかば自分に言い聞かせるようにつぶやくと、グラスに残ったビールを一息で飲みほした。
「もしかして、いま後ろ向きなこと考えてる?」
「いや……まあ、うん、考えてた。オレのいない間におまえにモーションをかけるヤツもいるんだろう、と。よく分かったな」
「分かるわ、だってアタルさん目がすわってたもの。考えごとをするときのクセ」
「そうか」
「心配しないで、わたしにはあなただけ。そうでなければこんなに待ちつづけたりしない」
そのことはアタルも充分すぎるほど理解している。
会いたくて会えない。
たぶんそれは二人とも同等だ。しかしだからこそ己が堅固な超人であるのに対して、それより劣る人の身でジレンマを抱えつづけるいじらしさにアタルは胸が痛んだ。
食事の後片づけは、二人ですませた。彼女が食器を洗うそばからアタルが拭いて、もともと皿数の少ないメニューだったからあっという間に片づいた。
「わたしもお風呂に入ってくる」
彼女はエプロンを脱いで、風呂場へ消えた。戻るのを待ちながらアタルは晩酌を続けていた。先ほどのビールは今やウイスキーに代わっている。掌のなかでグラスを温め、まろやかにほどけた琥珀色の酒をちびちびと口にふくむ。鼻にぬける薫香をたのしみながら、これから待っていることを思い浮かべると、マスクの下の顔がついゆるんだ。
「……いかんな」
to be continued
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