惑星間遠距離恋愛のアポリア 前編(キン肉マンソルジャー夢小説(キン肉アタル))
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遠い昔、キン肉星第58代大王の座をめぐって王位継承サバイバル・マッチが行われ、運命の王子と呼ばれた五人の超人が、チームメイトと共に日本に集結した。キン肉マンスーパー・フェニックスひきいる知性チーム、キン肉マンマリポーサひきいる飛翔チーム、キン肉マンゼブラひきいる技巧チーム、キン肉マンビッグボディひきいる強力チーム、そしてキン肉マンソルジャーひきいる残虐チーム。
彼らは勝敗が決するまで日本に滞在することとなり、不慣れな国で不自由がないようにと宇宙超人委員会の斡旋によりそれぞれのチームに一人ずつアテンドがついた。そのなかで、残虐チームの担当になったのが彼女だった。
この時すでにソルジャーマンはキン肉アタルにとって代わられていたが、彼女はそんなことなどつゆ知らず、彼らがいかんなく試合で実力を発揮できるように、つねに心をつくした。
そうしてついにソルジャーチームとフェニックスチームの試合が行われた。もちろん彼女もテレビの画面越しにソルジャーチームに声援をおくった。しかし、試合の最中にキン肉マンソルジャーの正体、アタルの出自、そして彼の激烈な最期を目にしたことで、かつてないほどの激しいショックをうけた。
紆余曲折の末にキン肉スグルが王位を勝ち取り、戦いにピリオドが打たれたことで、彼女もやっとソルジャー(とチームメンバー)の死を受けいれる気持ちになった。
しかしそのあとすぐ、あろうことかスグルは王位戦の最中に倒れた超人の全員をフェイスフラッシュでよみがえらせた。もちろんそれはこの上なく喜ぶべきことだったが、テレビでその光景を観た彼女はかつてないほどに混乱した。
色々なことが終わったあとで、彼女はソルジャーチームの面々と再会する機会を得たが、彼らの姿を目にした瞬間、これまでの思いがあふれ出し、タガがはずれたように泣きだしてしまった。超人にとっての死と人間にとってのそれが全く異なるものであることをアタルはよく承知していた。「心配をかけてすまなかった」そう言って彼は何度も彼女にわびた。
それからいくらもせず、二人はめでたく恋仲になった。
アタルの運転するクルマは山道を進み、途中で細い枝道に入った。やがて前方に一軒のコテージが見えてきた。周囲は林におおわれ、そこに建物があると知らなければ気がつかずに通りすぎてしまうだろう。しかし、それでいいのだ。本来このコテージは超人特別機動警察隊――通称・アンタッチャブル――が地球における事件関係者の身を保護するために用意されたセーフハウスなのだから。ここで彼女が待っているはずだ。
人目を忍んで会うのはやましいことがあるからではない。アタルは王位争奪戦後にザ・ニンジャとともに結成したアンタッチャブルで、道を外れた悪行超人を日夜追っている。二人の仲が人目につくことで、悪行超人らが彼女に危害を加えるおそれが生じないようにと配慮した段取りなのだ。
彼女はコテージのリビングで、ポケットにしまっていた惑星間通信対応のモバイルを取りだし、画面の時刻をたしかめた。朝からもう何回これを繰りかえしただろう。
もうすぐここに恋人のアタルがやってくる。
アンタッチャブルは宇宙全域を活動場所にしているため、アタルはおおむね宇宙で生活している。おまけに彼はつねに多忙を極めていて、連絡といえばごくたまに近況を知らせるメールが届くのがせいぜいだった。彼女のほうからも、仕事の邪魔になってはと、自分からの連絡は極力ひかえている。その代わり、ネットの星間ニュースなどをしじゅうチェックして「アンタッチャブル、悪質地下組織を壊滅!」などというニュースを見つけると、プリントアウトしてスクラップしていた。
それでも、長いあいだ離れて過ごしていると、たまに弱気の虫がささやきだす――アタルは彼女のことなどもうどうでもよくなってしまったのではないか、と。そんなとき、彼女は宇宙につながっているこのモバイルを、ギュッと抱きしめる。いまもそうして胸に抱えこんだ。だけど今日のそれは心細さではなく、逢瀬への高揚感によるものだ。
ふいに、彼女はこちらへ近づいてくるにエンジン音を聞きつけた。
やっと、彼がやってきた。
予想はあたっていた。玄関のドアを開けると、ちょうどコテージの前にクルマが横づけされ、運転席から一人の超人が降りたつところだった。アーミーグリーンのマスクと迷彩柄の上下に黒革のブーツ。ノースリーブの袖からのぞくはち切れんばかりの上腕、厚い胸板、引きしまったウエストと、たくましい太もも。最後に会ったときから少しも変わっていない。うっとりするほどの偉丈夫だった。
「アタルさん!」
彼女が呼びかけるとアタルはすぐさま駆けより、その身体を息がつまるほど抱きしめた。彼女も厚い胸板に頬をあて、身体の奥の鼓動を確かに聞いた。
すぐにアタルは彼女の肩を抱いたまま玄関のドアをくぐると、後ろ手にドアを閉め、自らのマスクをその半ばまでグイ、と引きあげた。いつもの、なつかしい仕草だった。
「会いたかった」
ただその一言が、一年弱のあいだにできた二人の距離をたちまち埋めていく。
「わたしも、会いたかった。ずっと会いたかった」
答えるかわりにアタルは彼女に口づけた。一度、二度。三度目は長い長いキスだった。
まるでこれまでの分をすべて取りもどそうとするように。
彼女の眼からひとすじの涙がこぼれおちた。
あたりに響く耳を聾するほどのセミの声は、まるで二人の再開を祝福する歓喜の叫びのようだった。
「いま、クーラーをつけるわね」
先頭にたってリビングに入った彼女がリモコンを手に取ると、アタルはそれを制した。
「いや、このままでいい」
久しぶりに感じる風が心地よいのだろう。彼がふだん過ごす宇宙船のなかは気密性の高い閉鎖空間だ。窓を開け開け放したリビングはいくらか暑さを感じるものの、外気のおかげでさわやかだった。ときおり風がやってきて、レースのカーテンがふわりと舞う。
彼女は「座ってて」とキッチンへむかった。アタルはソファに腰をおろすと、長時間の移動で凝った身体を軽くほぐした。宇宙での連続長距離ワープ、地球への着陸、続いてここまでの移動。おまけに出入国にともなう煩雑な手続き。さしもの頑強を誇る超人でも多少は疲れを覚えるというものだ。
「おまたせ、麦茶でいいわよね?」
キッチンから戻ってきた彼女はガラス製の湯のみをテーブルにおくと、アタルのとなりに腰かけた。
「ありがとう、ちょうどのどが渇いていたんだ」
アタルは湯のみに手をのばすと、いっきに麦茶を飲みほし、息をついた。
「ああ、うまい。ホッとした」
彼女は空になったグラスに麦茶をつぎ足し、アタルはさりげなくその様子を目のはしで追った。少し、痩せただろうか。それから落ちつきが増したように思える。どこからどう見ても大人の女性――つまり、ますます自分好みになってきた。
会う度に気づかされる変化はたいてい喜ぶべきものだが、反面それだけ長く離ればなれになってるのだと気づかされる。なかなか悩ましいところだ。
「ここに来るまで大変だったでしょう」
「まあ、慌ただしいだけだがな。捕物というわけでもないし。それより君の予定も確認せずに勝手に決めて悪かった」
「気にしないで。アタルさんと会えるなら、どんな予定でも都合をつけるから」
「嬉しいことを言ってくれる」
アタルが彼女の肩に手をまわ、身体を抱きよせると、彼女は面白がるように笑った。
「アタルさん、飾りが痛いわ」
「すまん、ウッカリしていた」
そういうと、アタルはマスクの下顎の飾りを取りはずした。
キン肉族は出生時に親から授けられた意匠のマスクを生涯身につけることを習わしとしている。そのうえで、人間の種族の一部に成年の証としてヒゲをたくわえる慣習があるように、彼らにも年を経た者のマスクの外観に変更をほどこすことがある。アタルのマスクの下顎の飾りはそれに類するものだ。もしもキン肉族に詳しいものがその飾りを見たなら、それが、かの完璧超人始祖壱式・ゴールドマンのものに酷似していることに気がついただろう。
彼らは勝敗が決するまで日本に滞在することとなり、不慣れな国で不自由がないようにと宇宙超人委員会の斡旋によりそれぞれのチームに一人ずつアテンドがついた。そのなかで、残虐チームの担当になったのが彼女だった。
この時すでにソルジャーマンはキン肉アタルにとって代わられていたが、彼女はそんなことなどつゆ知らず、彼らがいかんなく試合で実力を発揮できるように、つねに心をつくした。
そうしてついにソルジャーチームとフェニックスチームの試合が行われた。もちろん彼女もテレビの画面越しにソルジャーチームに声援をおくった。しかし、試合の最中にキン肉マンソルジャーの正体、アタルの出自、そして彼の激烈な最期を目にしたことで、かつてないほどの激しいショックをうけた。
紆余曲折の末にキン肉スグルが王位を勝ち取り、戦いにピリオドが打たれたことで、彼女もやっとソルジャー(とチームメンバー)の死を受けいれる気持ちになった。
しかしそのあとすぐ、あろうことかスグルは王位戦の最中に倒れた超人の全員をフェイスフラッシュでよみがえらせた。もちろんそれはこの上なく喜ぶべきことだったが、テレビでその光景を観た彼女はかつてないほどに混乱した。
色々なことが終わったあとで、彼女はソルジャーチームの面々と再会する機会を得たが、彼らの姿を目にした瞬間、これまでの思いがあふれ出し、タガがはずれたように泣きだしてしまった。超人にとっての死と人間にとってのそれが全く異なるものであることをアタルはよく承知していた。「心配をかけてすまなかった」そう言って彼は何度も彼女にわびた。
それからいくらもせず、二人はめでたく恋仲になった。
アタルの運転するクルマは山道を進み、途中で細い枝道に入った。やがて前方に一軒のコテージが見えてきた。周囲は林におおわれ、そこに建物があると知らなければ気がつかずに通りすぎてしまうだろう。しかし、それでいいのだ。本来このコテージは超人特別機動警察隊――通称・アンタッチャブル――が地球における事件関係者の身を保護するために用意されたセーフハウスなのだから。ここで彼女が待っているはずだ。
人目を忍んで会うのはやましいことがあるからではない。アタルは王位争奪戦後にザ・ニンジャとともに結成したアンタッチャブルで、道を外れた悪行超人を日夜追っている。二人の仲が人目につくことで、悪行超人らが彼女に危害を加えるおそれが生じないようにと配慮した段取りなのだ。
彼女はコテージのリビングで、ポケットにしまっていた惑星間通信対応のモバイルを取りだし、画面の時刻をたしかめた。朝からもう何回これを繰りかえしただろう。
もうすぐここに恋人のアタルがやってくる。
アンタッチャブルは宇宙全域を活動場所にしているため、アタルはおおむね宇宙で生活している。おまけに彼はつねに多忙を極めていて、連絡といえばごくたまに近況を知らせるメールが届くのがせいぜいだった。彼女のほうからも、仕事の邪魔になってはと、自分からの連絡は極力ひかえている。その代わり、ネットの星間ニュースなどをしじゅうチェックして「アンタッチャブル、悪質地下組織を壊滅!」などというニュースを見つけると、プリントアウトしてスクラップしていた。
それでも、長いあいだ離れて過ごしていると、たまに弱気の虫がささやきだす――アタルは彼女のことなどもうどうでもよくなってしまったのではないか、と。そんなとき、彼女は宇宙につながっているこのモバイルを、ギュッと抱きしめる。いまもそうして胸に抱えこんだ。だけど今日のそれは心細さではなく、逢瀬への高揚感によるものだ。
ふいに、彼女はこちらへ近づいてくるにエンジン音を聞きつけた。
やっと、彼がやってきた。
予想はあたっていた。玄関のドアを開けると、ちょうどコテージの前にクルマが横づけされ、運転席から一人の超人が降りたつところだった。アーミーグリーンのマスクと迷彩柄の上下に黒革のブーツ。ノースリーブの袖からのぞくはち切れんばかりの上腕、厚い胸板、引きしまったウエストと、たくましい太もも。最後に会ったときから少しも変わっていない。うっとりするほどの偉丈夫だった。
「アタルさん!」
彼女が呼びかけるとアタルはすぐさま駆けより、その身体を息がつまるほど抱きしめた。彼女も厚い胸板に頬をあて、身体の奥の鼓動を確かに聞いた。
すぐにアタルは彼女の肩を抱いたまま玄関のドアをくぐると、後ろ手にドアを閉め、自らのマスクをその半ばまでグイ、と引きあげた。いつもの、なつかしい仕草だった。
「会いたかった」
ただその一言が、一年弱のあいだにできた二人の距離をたちまち埋めていく。
「わたしも、会いたかった。ずっと会いたかった」
答えるかわりにアタルは彼女に口づけた。一度、二度。三度目は長い長いキスだった。
まるでこれまでの分をすべて取りもどそうとするように。
彼女の眼からひとすじの涙がこぼれおちた。
あたりに響く耳を聾するほどのセミの声は、まるで二人の再開を祝福する歓喜の叫びのようだった。
「いま、クーラーをつけるわね」
先頭にたってリビングに入った彼女がリモコンを手に取ると、アタルはそれを制した。
「いや、このままでいい」
久しぶりに感じる風が心地よいのだろう。彼がふだん過ごす宇宙船のなかは気密性の高い閉鎖空間だ。窓を開け開け放したリビングはいくらか暑さを感じるものの、外気のおかげでさわやかだった。ときおり風がやってきて、レースのカーテンがふわりと舞う。
彼女は「座ってて」とキッチンへむかった。アタルはソファに腰をおろすと、長時間の移動で凝った身体を軽くほぐした。宇宙での連続長距離ワープ、地球への着陸、続いてここまでの移動。おまけに出入国にともなう煩雑な手続き。さしもの頑強を誇る超人でも多少は疲れを覚えるというものだ。
「おまたせ、麦茶でいいわよね?」
キッチンから戻ってきた彼女はガラス製の湯のみをテーブルにおくと、アタルのとなりに腰かけた。
「ありがとう、ちょうどのどが渇いていたんだ」
アタルは湯のみに手をのばすと、いっきに麦茶を飲みほし、息をついた。
「ああ、うまい。ホッとした」
彼女は空になったグラスに麦茶をつぎ足し、アタルはさりげなくその様子を目のはしで追った。少し、痩せただろうか。それから落ちつきが増したように思える。どこからどう見ても大人の女性――つまり、ますます自分好みになってきた。
会う度に気づかされる変化はたいてい喜ぶべきものだが、反面それだけ長く離ればなれになってるのだと気づかされる。なかなか悩ましいところだ。
「ここに来るまで大変だったでしょう」
「まあ、慌ただしいだけだがな。捕物というわけでもないし。それより君の予定も確認せずに勝手に決めて悪かった」
「気にしないで。アタルさんと会えるなら、どんな予定でも都合をつけるから」
「嬉しいことを言ってくれる」
アタルが彼女の肩に手をまわ、身体を抱きよせると、彼女は面白がるように笑った。
「アタルさん、飾りが痛いわ」
「すまん、ウッカリしていた」
そういうと、アタルはマスクの下顎の飾りを取りはずした。
キン肉族は出生時に親から授けられた意匠のマスクを生涯身につけることを習わしとしている。そのうえで、人間の種族の一部に成年の証としてヒゲをたくわえる慣習があるように、彼らにも年を経た者のマスクの外観に変更をほどこすことがある。アタルのマスクの下顎の飾りはそれに類するものだ。もしもキン肉族に詳しいものがその飾りを見たなら、それが、かの完璧超人始祖壱式・ゴールドマンのものに酷似していることに気がついただろう。
