Style(バッファローマン夢小説)
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――ほんの出来心だったのだ。
彼女と二人でブドウを食べていた。
オレが出先でもらってきた物で、わりと新しい品種で、明るい緑色をしていた。
ぽってりした大きめの粒は皮ごと食べるのだと聞いた。丸のまま口に運んで噛みしめると柔らかく厚い果肉からしっとりした果汁が溢れでた。奥ゆかしくまろやかな甘さ。何が素晴らしいといって優雅なその薫りは今まで経験したことのないものだった。
よくよく味わうとそれは果皮と果肉の間に一番蓄えられているようで、なるほど皮ごと食べろというのはこのためか、と得心がいった。
そんなワケで丁寧に一粒ずつ秋の豊穣を味わっていると、向いの彼女は一度に二粒、あるいは三粒も頬張っている。「もう少し大事に食べたらどうだ」と問えば「本当に美味しいものはチビチビ食べてたら楽しめないよ」などという非常に上から目線な答えがかえってきた。
冬眠前のリスか、あるいは強欲なハムスターみたいにブドウの粒で左右の頬をパンパンに膨らませ、得意気な表情を浮かべているのが何だか妙に可愛かったので、ついイタズラ心を起こしてしまった。
彼女の両頬を片手で挟み込みギュッと押した。
ほんの出来心、イジワルをしようとかそんな気持ちはこれっぽっちもなかった。しかし(手加減しつつも)グッと手に力をこめた瞬間、彼女の口から果汁とグチャグチャになった果肉と果皮がたいそうな勢いで噴き出した。
まるでマーライオンになったハムスターみたいで、その面白いことといったら今でも様子を思い浮かべるとニヤニヤしてしまう。
腹を抱えて笑いころげるオレを見て、憤慨しきった彼女はひとしきり罵詈雑言を並べたてるとドスドス足音を立てトイレに向かい、バタン!と大きな音をたてドアを閉め、そこにこもってしまった。
もちろん鍵もガッチリかけている。
三十分、一時間たっても出てこない。
返事すらない。
小さい方はいい、最悪バスルームですませられる。しかし大きい方はもうどうしようもない。ましてや図体の大きいオレだから副産物のサイズもおよそ察してもらえるだろう。不可避的選択により用足しがてら外出することにした。
もちろん彼女にもその旨を伝える。
ドア越しにだが。
「バッファのばーか!」
それが答えだった。
諸々済ませて二時間、いや三時間くらいだったろうか。帰宅してもマーライオンの姫はまだお籠りあそばされていた。
「帰ったぞ」
「あっそ」
「ずっとそこにいるのか?」
「べつにいいでしょ、ほっといて」
だから放っておくことにした。
秋の日没は早い。すっかり陽も暮れて足元から冷えてきた。
こんなときは熱い風呂に限る。
「風呂にはいってくる」
これもまたドア越しに告げた。それから死角に立って気配を消す。
小山のようだと称されるオレだが、これでも一流の超人レスラーなのだ、気配を消すなんてお手のものだ。
案の定、トイレのドアが音もなく開いた。オレがバスルームに向かったと思ったのだろう。
ソロリとリビングに向かおうとした小さな生き物を抱きかかえた。
「ほい、いっちょあがり」
不本意な事態に「はなせはなせ」とバタつくので肩に抱えあげてリビングに運んだ。
「土産買ってきたぞ」
テーブルにはオレが買ってきたスイーツがところせましと並べてある。マロンシャンティ、マロングラッセ、巨峰のパルフェ、焼きリンゴ、アップルシュトゥルーデル、柿のあずきよせ。それから何種類ものフレッシュフルーツ。
それを見た彼女はまだ怒っているのだという表情を浮かべながらもソワソワと眼が泳ぎはじめた。
100%予想通りだったのでおかしくて仕方なかったが、そこで笑ってしまっては元の木阿弥なのでグッとこらえた。
「今朝はゴメンな」
ストンとおろしたあと、後ろからそっと抱きしめる。
頭のてっぺんにキスもする。
「これ食べていいの?」
「ああ。ぜーんぶおまえのだぞ」
するとこちらに向き直ってギュッとしがみついてきた。
それに応えて優しく背中を撫でる。
……チョロい、なんてチョロいんだ。
これがオレ流の小さい生き物とのつき合い方だ。
良かったら参考にしてくれ。
end
(2021.11 Pictmalfem 初出)
彼女と二人でブドウを食べていた。
オレが出先でもらってきた物で、わりと新しい品種で、明るい緑色をしていた。
ぽってりした大きめの粒は皮ごと食べるのだと聞いた。丸のまま口に運んで噛みしめると柔らかく厚い果肉からしっとりした果汁が溢れでた。奥ゆかしくまろやかな甘さ。何が素晴らしいといって優雅なその薫りは今まで経験したことのないものだった。
よくよく味わうとそれは果皮と果肉の間に一番蓄えられているようで、なるほど皮ごと食べろというのはこのためか、と得心がいった。
そんなワケで丁寧に一粒ずつ秋の豊穣を味わっていると、向いの彼女は一度に二粒、あるいは三粒も頬張っている。「もう少し大事に食べたらどうだ」と問えば「本当に美味しいものはチビチビ食べてたら楽しめないよ」などという非常に上から目線な答えがかえってきた。
冬眠前のリスか、あるいは強欲なハムスターみたいにブドウの粒で左右の頬をパンパンに膨らませ、得意気な表情を浮かべているのが何だか妙に可愛かったので、ついイタズラ心を起こしてしまった。
彼女の両頬を片手で挟み込みギュッと押した。
ほんの出来心、イジワルをしようとかそんな気持ちはこれっぽっちもなかった。しかし(手加減しつつも)グッと手に力をこめた瞬間、彼女の口から果汁とグチャグチャになった果肉と果皮がたいそうな勢いで噴き出した。
まるでマーライオンになったハムスターみたいで、その面白いことといったら今でも様子を思い浮かべるとニヤニヤしてしまう。
腹を抱えて笑いころげるオレを見て、憤慨しきった彼女はひとしきり罵詈雑言を並べたてるとドスドス足音を立てトイレに向かい、バタン!と大きな音をたてドアを閉め、そこにこもってしまった。
もちろん鍵もガッチリかけている。
三十分、一時間たっても出てこない。
返事すらない。
小さい方はいい、最悪バスルームですませられる。しかし大きい方はもうどうしようもない。ましてや図体の大きいオレだから副産物のサイズもおよそ察してもらえるだろう。不可避的選択により用足しがてら外出することにした。
もちろん彼女にもその旨を伝える。
ドア越しにだが。
「バッファのばーか!」
それが答えだった。
諸々済ませて二時間、いや三時間くらいだったろうか。帰宅してもマーライオンの姫はまだお籠りあそばされていた。
「帰ったぞ」
「あっそ」
「ずっとそこにいるのか?」
「べつにいいでしょ、ほっといて」
だから放っておくことにした。
秋の日没は早い。すっかり陽も暮れて足元から冷えてきた。
こんなときは熱い風呂に限る。
「風呂にはいってくる」
これもまたドア越しに告げた。それから死角に立って気配を消す。
小山のようだと称されるオレだが、これでも一流の超人レスラーなのだ、気配を消すなんてお手のものだ。
案の定、トイレのドアが音もなく開いた。オレがバスルームに向かったと思ったのだろう。
ソロリとリビングに向かおうとした小さな生き物を抱きかかえた。
「ほい、いっちょあがり」
不本意な事態に「はなせはなせ」とバタつくので肩に抱えあげてリビングに運んだ。
「土産買ってきたぞ」
テーブルにはオレが買ってきたスイーツがところせましと並べてある。マロンシャンティ、マロングラッセ、巨峰のパルフェ、焼きリンゴ、アップルシュトゥルーデル、柿のあずきよせ。それから何種類ものフレッシュフルーツ。
それを見た彼女はまだ怒っているのだという表情を浮かべながらもソワソワと眼が泳ぎはじめた。
100%予想通りだったのでおかしくて仕方なかったが、そこで笑ってしまっては元の木阿弥なのでグッとこらえた。
「今朝はゴメンな」
ストンとおろしたあと、後ろからそっと抱きしめる。
頭のてっぺんにキスもする。
「これ食べていいの?」
「ああ。ぜーんぶおまえのだぞ」
するとこちらに向き直ってギュッとしがみついてきた。
それに応えて優しく背中を撫でる。
……チョロい、なんてチョロいんだ。
これがオレ流の小さい生き物とのつき合い方だ。
良かったら参考にしてくれ。
end
(2021.11 Pictmalfem 初出)
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