観桜(バッファローマン夢小説)
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「病」と「暴力」は似ている。個人の身体と心を蝕んで、社会に混乱を生じさせる。挙げ句、世界の有り様を取り返しのつかないほど変えてしまう。
バッファローマンは自分の揺るぎない強さをいつも誇りに思っている。暴力をねじ伏せられるその強さを。
いつものようにそれを活かせない状況を、今はもどかしく感じている。
夜半を過ぎた頃。
住宅街のなかに続く桜並木の下を並んで歩いている。
桜は静かに淡く咲いている。蕾はほぼ開き、あと数日で満開となるだろう。
二人だけの、ささやかなお花見。
本来であれば、今年もバッファローマンは彼の仲間たちと「花見」を口実に集まって、旧交を温めていたはずだ。
しかし、今年になって、そんなことが許されない混乱が、世界規模で続いている。
移動制限、入国規制、飛行機の欠航、集会の自粛。
例えそれらが無かったとしても、大衆の規範たるべき彼らが、今の状況で宴を開けるわけがないし、何よりそんな暢気な気分には彼ら自身がとてもなれない。
誰も言い出さなくても、この時期になると(その年に寄って顔ぶれは変わるが)当たり前のように彼らは集まっていた。
毎年、ウルフマンが彼ら以外はオフリミットにした場所を用意してくれる。
そこに銘々が酒肴を持ち寄る。
全員が超人だから、人間とは比較にならないぐらい呑む。それもべらぼうに。
日本酒、ワイン、ありとあらゆる蒸留酒。やがて、グラスや猪口ではまだるっこしいと、そばのこね鉢に酒を受けて飲み始める。
満開の桜の下「角を生やし顔を朱に染めたバッファローマン」が酒を満たした緋色の鉢を干す。
その形様は、鬼だ。
ときたま桜の花弁がひらりと鉢に舞い降りる。
異形のものたちの酒宴。
―――毎年さ、
彼は彼女に話して聞かせる。
「毎年、何かしら誰かがやらかすんだよ。『叫喚!ジェロニモ怒涛のいなり寿司1000個持ち込み事件』とか『悲劇!ブロッケンJr.、ヴルスト持ち込み挫折事件』とか『絶叫!ロビンマスク真夜中のストリップショー事件』とか」
バッファローマンは話しながらクツクツと思い出し笑いをする。
「来年は集まれたらいいね」
「ホントにな。早くいつもの生活が戻るといいんだが」
彼女は、ふと思いついて彼に問う。
「バッファは、どんなことやらかしたの?」
「……なんだそれ?」
「だから、ジェロニモさんとか、他の人みたいに『何かやらかした』ことあるんでしょ?」
彼は呆れたように肩をすくめ、人差し指を一本たて、チッチッチと左右に振った。
「ジェントルマンのオレが、そんなことすると思うか?」
―――する。絶対すると思う。きっとすでにしてる。それも二回や三回じゃ効かない。
バッファローマンはウソを吐くとき、ほんのわずか、右の眉があがる。当人は(恐らく)気がついていない。
この時も、確かに彼の右眉はあがっていた。
でも、まあ、彼がそう言うのなら、今夜はそういう事にしておこう。
本当に、早く皆が日常に戻れますように。
end
初出:PIXIV 2020.03.13
バッファローマンは自分の揺るぎない強さをいつも誇りに思っている。暴力をねじ伏せられるその強さを。
いつものようにそれを活かせない状況を、今はもどかしく感じている。
夜半を過ぎた頃。
住宅街のなかに続く桜並木の下を並んで歩いている。
桜は静かに淡く咲いている。蕾はほぼ開き、あと数日で満開となるだろう。
二人だけの、ささやかなお花見。
本来であれば、今年もバッファローマンは彼の仲間たちと「花見」を口実に集まって、旧交を温めていたはずだ。
しかし、今年になって、そんなことが許されない混乱が、世界規模で続いている。
移動制限、入国規制、飛行機の欠航、集会の自粛。
例えそれらが無かったとしても、大衆の規範たるべき彼らが、今の状況で宴を開けるわけがないし、何よりそんな暢気な気分には彼ら自身がとてもなれない。
誰も言い出さなくても、この時期になると(その年に寄って顔ぶれは変わるが)当たり前のように彼らは集まっていた。
毎年、ウルフマンが彼ら以外はオフリミットにした場所を用意してくれる。
そこに銘々が酒肴を持ち寄る。
全員が超人だから、人間とは比較にならないぐらい呑む。それもべらぼうに。
日本酒、ワイン、ありとあらゆる蒸留酒。やがて、グラスや猪口ではまだるっこしいと、そばのこね鉢に酒を受けて飲み始める。
満開の桜の下「角を生やし顔を朱に染めたバッファローマン」が酒を満たした緋色の鉢を干す。
その形様は、鬼だ。
ときたま桜の花弁がひらりと鉢に舞い降りる。
異形のものたちの酒宴。
―――毎年さ、
彼は彼女に話して聞かせる。
「毎年、何かしら誰かがやらかすんだよ。『叫喚!ジェロニモ怒涛のいなり寿司1000個持ち込み事件』とか『悲劇!ブロッケンJr.、ヴルスト持ち込み挫折事件』とか『絶叫!ロビンマスク真夜中のストリップショー事件』とか」
バッファローマンは話しながらクツクツと思い出し笑いをする。
「来年は集まれたらいいね」
「ホントにな。早くいつもの生活が戻るといいんだが」
彼女は、ふと思いついて彼に問う。
「バッファは、どんなことやらかしたの?」
「……なんだそれ?」
「だから、ジェロニモさんとか、他の人みたいに『何かやらかした』ことあるんでしょ?」
彼は呆れたように肩をすくめ、人差し指を一本たて、チッチッチと左右に振った。
「ジェントルマンのオレが、そんなことすると思うか?」
―――する。絶対すると思う。きっとすでにしてる。それも二回や三回じゃ効かない。
バッファローマンはウソを吐くとき、ほんのわずか、右の眉があがる。当人は(恐らく)気がついていない。
この時も、確かに彼の右眉はあがっていた。
でも、まあ、彼がそう言うのなら、今夜はそういう事にしておこう。
本当に、早く皆が日常に戻れますように。
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初出:PIXIV 2020.03.13
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