ダブル(キン肉マンゼブラ夢小説)
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その日の午後、晴天はにわかにかき曇り、夕立ちに変じた。キン肉マンゼブラと彼女は屋外でのデートを早めに切りあげて、ゼブラの自宅でコーヒーを飲んでいた。
雨はいまだに勢いがおとろえず、窓のむこうがけぶってみえる。リビングの窓ガラスに雨粒があたってパツ、パツと音をたてていた。
「降られなくてよかった」
「そうだな」
折りたたみ傘はもっていたけれど、この勢いではたいして役にたたなかったろう。
あるいは、ずぶ濡れになってもよかったのだ。そうしたら服を乾かさなくてはならないし、そのあいだに「コレを着ろ」なんて、ゼブラの普段着かなにか貸してもらえただろうから。きっとサイズはブカブカで、彼のにおいがして――想像したらドキリとした。
安堵と落胆、どちらが自分の本音なのか彼女は判断がつかず、飾り気のないマグカップに目をおとした。
ゼブラの部屋をおとずれるのは今日が初めてだった。
手のなかのカップとおなじく、住まいもまたシンプルなつくりだ。15畳ほどのLDKは打ちっぱなしのコンクリートの壁にフローリングの床、家具はほぼ黒で統一されている。イスが二脚とテーブル、キッチンには小さな冷蔵庫と電子レンジ、申し訳程度のコンロ。シンクわきの大きな密閉容器の中身はきっとプロテインだろう。
むろん女気など、ない。それで彼女はホッとした。無口で無愛想なゼブラに二股などできようはずがないとアタマでは理解していても、「もしかしたら」と疑念がわくのは惚れた弱みだ。
そんな彼女のもの思いなどつゆ知らず、ゼブラはテレビをながめている。
そういえば朝からバタバタしていてトイレにいっていないことを思いだした。
「ゼブラ、お手洗い借りてもいい?」
「ああ、出て右手の洗面所のとなりのドアだ」
「わかった」
男の一人暮らしにもかかわらず、そこはあんがい清潔に保たれていた。はじめての、恋人の家の手洗いはなぜだか妙に緊張する。
スッキリして廊下にでると、反対側の部屋のドアがうっすらひらいていた。好奇心も手伝って、そっとすき間をのぞいてみれば、ベッドのおかれた寝室だった。ドアと反対側の壁の掃きだし窓はベランダに続いている。こんな天気にもかかわらず洗濯物が吊るされたままになっていて、風雨にはためくTシャツの白さが奇妙に目についた。ゼブラはきっと洗たく物を干したことを忘れているに違いない。この雨ではすでに手おくれだろうが、せっかく気がついたのだからと彼女は取りこんでやることにした。
ドアをあけてそっと足を踏みいれると、手前の壁には作りつけのガラス戸棚があって、なかに並べられたトロフィーやベルトがゼブラの華々しい戦歴を雄弁に物語っていた。輝きにひきつけられ、戸棚のなかをのぞきこんだ彼女は、棚の片すみに写真が一枚立てかけられていることに気がついた。写真には一人の青年と一頭のシマウマがならんで写っている。色あせて古びたそれは、きらびやかな他の品々とくらべて、あきらかに異質だった。
青年はキン肉族なのだろう、頭頂部分に特有の飾りをそなえ、フサフサした眉とくっきりした目元の特徴的な好男子だったが、どこか陰のある印象をいだかせた。となりのシマウマは、彼をふかく慕っている様子で、おそらく野生動物ではないだろう。いつ、どこで撮られたものなのか、さっぱり見当がつかなかった。
彼女のもの思いは背後からかけられた声でやぶられた。
「金目のものはそこにはないぞ」
おどろいてふり返るとゼブラが立っていた。
「あの、洗濯物が干しっぱなしだったから取りこもうかって。ごめんなさい、無断で入ったりして」
ゼブラは窓のそとに目をやると、やっとそのことに気がついた。
「どうせ洗いなおすんだ。あとで取りこめばいい」
とくだん気を悪くしたふうでもなかったので、彼女はホッとした。
「たくさんあるのね、トロフィーとか」
「まあな」
「この写真の人は、あなたの家族?」
「気になるか?」
「あなたって、自分のことあまり話さないから」
「人に話して聞かせるほどのことなど、たいしてない」
運命の五王子の一人であったとか、そんな派手派手しい部分はわざわざ話すまでもなく誰もが知っている。
「わたしはゼブラのこと、もっと知りたいわ」
「……そうか」
ゼブラは彼女の手をとると、ダンスでもするように足をはらい、かたわらのベッドに相手の身体を押したおした。
のしかかるゼブラの肩ごしに、天井のライトがみえる。
「あ、あの、ゼ」
問いかけはゼブラの唇でふさがれてしまった。いきなりドアを開くように唇をこじ開けられ、強引に舌をからめ取られた。これまでいくどか交わしキスとはまったく異なっている。
こちらの意思などおかまいなし。
それとともにゼブラの膝頭が彼女の両の足のあいだに割りこんだ。膝でスカートをたくし上げつつ、ゼブラはブラウスのすそから右手をさし入れ、肌をもてあそぶ。両の手首は片手でガッシリとつかまれて、抵抗もままならなかったが、彼女のなかにあらがう気持ちはみじんもなかった。むしろ身体をなで回す無骨な大きい手や、ピッタリとよせられた下腹から伝わる硬さに、気がつくと身体の奥が熱をおびていた。
しばらくあと、やっとキスから開放された彼女は荒い息をついた。ゼブラは頬が紅潮した彼女を真剣なまなざしで見おろしている。まるでこれからむつみ合うのではなく、雌雄を決するかのように。
「おまえの知らないオレを、教えてやろう」
彼女を見おろしたまま、ゼブラは空いているほうの手をみずからのマスクの首もとにかけ、かなぐり捨てた。
そうしてあらわになった素顔に彼女は衝撃をうけた。歳月の経過を感じさせるものの、キン肉マンゼブラは、あの古ぼけた写真の人物と同じ顔をしていた。
「アレは、オレだ」
キン肉族の掟――マスクの下の素顔をさらした者は自害――は超人のみならず人間にも広く知られている。もちろん彼女も知っていた。
彼女が「ゼブラのことをもっと知りたい」と言ったせいで、ゼブラはタブーをおかしてしまった。
だからとたんにかたく眼をとじた。
「ゼブラ、ごめんなさい、ゼブラ。お願いだから早くマスクをかぶって。わたしはなにも見てないから」
「……オレを知りたいのではなかったのか?」
「だけど素顔を知りたいなんて思ったわけじゃないわ」
「安心しろ、これは素顔じゃない」
「……え?」
つまりはこういうことだった。写真に写っている頃のゼブラはみなにパワフルマンと呼ばれていた。それは両親が彼の出生にさいして、マスクとともにあたえた名だ。やがてキン肉星の王位継承問題に関連して、ゼブラは邪悪五大神のひとり「技巧の神」に見出され、超人強度一億パワーやマスクとともに、あらたにキン肉マンゼブラという名をさずかった。つまり、ゼブラは出生時に両親から与えられたものと、技巧の神に与えられたもの、二つのマスクをつねに身につけているのだ。
ゼブラに説明をうけ、彼女はポカンとほうけた顔をしてたずねた。
「じゃあ、その顔は素顔じゃないのね」
「そうだ」
「よかった……あなたの素顔を見ちゃったんだとばっかり」
「おまえが写真をみて『これは誰だ?』と聞いたんだろう」
「それならそう言ってくれたらいいのよ。わたしのせいで、てっきりゼブラがし、死なないといけないんじゃないかって」
彼女はゼブラにしがみつくと、ポロポロと安堵の涙をこぼしはじめた。シャツに染みた涙の熱さにゼブラは狼狽し、微苦笑をうかべて彼女を抱きしめた。
「オレは死なん」
やがて、しゃくりあげる声が少しずつおさまり、彼女はゼブラの胸にうずめていた顔をあげた。
「落ちついたか?」
「うん」
「気になったことはちゃんと言え。察して気づかうのは苦手だ」
苦虫を噛みつぶしたような顔でつぶやくゼブラに、彼女はつい吹きだしてしまった。
「知ってるわ、とっくに」
気がつけば窓のそとでは雨がやんで、雲のすき間から陽がさし始めていた。結局しまいまで雨にうたれていた洗たく物は、まるで最終ラウンドまで闘いぬいたボクサーみたいに、くたびれきってポタポタ雫をたらしていた。
「さて、雨もあがったようだし、駅まで送っていこう」
「……え?」
「なんだ?」
「さっきの続きは?」
ゼブラは肩をすくめた。
「おまえの泣き顔をみたら気がうせた」
「ひどいわ、またわたしのせい?」
「まったく……」
ゼブラは彼女を抱きよせ、耳元に低くささやいた。
「次は絶対にやめないからな。おぼえておけよ?」
end
(2024.06.19 書き下ろし)
雨はいまだに勢いがおとろえず、窓のむこうがけぶってみえる。リビングの窓ガラスに雨粒があたってパツ、パツと音をたてていた。
「降られなくてよかった」
「そうだな」
折りたたみ傘はもっていたけれど、この勢いではたいして役にたたなかったろう。
あるいは、ずぶ濡れになってもよかったのだ。そうしたら服を乾かさなくてはならないし、そのあいだに「コレを着ろ」なんて、ゼブラの普段着かなにか貸してもらえただろうから。きっとサイズはブカブカで、彼のにおいがして――想像したらドキリとした。
安堵と落胆、どちらが自分の本音なのか彼女は判断がつかず、飾り気のないマグカップに目をおとした。
ゼブラの部屋をおとずれるのは今日が初めてだった。
手のなかのカップとおなじく、住まいもまたシンプルなつくりだ。15畳ほどのLDKは打ちっぱなしのコンクリートの壁にフローリングの床、家具はほぼ黒で統一されている。イスが二脚とテーブル、キッチンには小さな冷蔵庫と電子レンジ、申し訳程度のコンロ。シンクわきの大きな密閉容器の中身はきっとプロテインだろう。
むろん女気など、ない。それで彼女はホッとした。無口で無愛想なゼブラに二股などできようはずがないとアタマでは理解していても、「もしかしたら」と疑念がわくのは惚れた弱みだ。
そんな彼女のもの思いなどつゆ知らず、ゼブラはテレビをながめている。
そういえば朝からバタバタしていてトイレにいっていないことを思いだした。
「ゼブラ、お手洗い借りてもいい?」
「ああ、出て右手の洗面所のとなりのドアだ」
「わかった」
男の一人暮らしにもかかわらず、そこはあんがい清潔に保たれていた。はじめての、恋人の家の手洗いはなぜだか妙に緊張する。
スッキリして廊下にでると、反対側の部屋のドアがうっすらひらいていた。好奇心も手伝って、そっとすき間をのぞいてみれば、ベッドのおかれた寝室だった。ドアと反対側の壁の掃きだし窓はベランダに続いている。こんな天気にもかかわらず洗濯物が吊るされたままになっていて、風雨にはためくTシャツの白さが奇妙に目についた。ゼブラはきっと洗たく物を干したことを忘れているに違いない。この雨ではすでに手おくれだろうが、せっかく気がついたのだからと彼女は取りこんでやることにした。
ドアをあけてそっと足を踏みいれると、手前の壁には作りつけのガラス戸棚があって、なかに並べられたトロフィーやベルトがゼブラの華々しい戦歴を雄弁に物語っていた。輝きにひきつけられ、戸棚のなかをのぞきこんだ彼女は、棚の片すみに写真が一枚立てかけられていることに気がついた。写真には一人の青年と一頭のシマウマがならんで写っている。色あせて古びたそれは、きらびやかな他の品々とくらべて、あきらかに異質だった。
青年はキン肉族なのだろう、頭頂部分に特有の飾りをそなえ、フサフサした眉とくっきりした目元の特徴的な好男子だったが、どこか陰のある印象をいだかせた。となりのシマウマは、彼をふかく慕っている様子で、おそらく野生動物ではないだろう。いつ、どこで撮られたものなのか、さっぱり見当がつかなかった。
彼女のもの思いは背後からかけられた声でやぶられた。
「金目のものはそこにはないぞ」
おどろいてふり返るとゼブラが立っていた。
「あの、洗濯物が干しっぱなしだったから取りこもうかって。ごめんなさい、無断で入ったりして」
ゼブラは窓のそとに目をやると、やっとそのことに気がついた。
「どうせ洗いなおすんだ。あとで取りこめばいい」
とくだん気を悪くしたふうでもなかったので、彼女はホッとした。
「たくさんあるのね、トロフィーとか」
「まあな」
「この写真の人は、あなたの家族?」
「気になるか?」
「あなたって、自分のことあまり話さないから」
「人に話して聞かせるほどのことなど、たいしてない」
運命の五王子の一人であったとか、そんな派手派手しい部分はわざわざ話すまでもなく誰もが知っている。
「わたしはゼブラのこと、もっと知りたいわ」
「……そうか」
ゼブラは彼女の手をとると、ダンスでもするように足をはらい、かたわらのベッドに相手の身体を押したおした。
のしかかるゼブラの肩ごしに、天井のライトがみえる。
「あ、あの、ゼ」
問いかけはゼブラの唇でふさがれてしまった。いきなりドアを開くように唇をこじ開けられ、強引に舌をからめ取られた。これまでいくどか交わしキスとはまったく異なっている。
こちらの意思などおかまいなし。
それとともにゼブラの膝頭が彼女の両の足のあいだに割りこんだ。膝でスカートをたくし上げつつ、ゼブラはブラウスのすそから右手をさし入れ、肌をもてあそぶ。両の手首は片手でガッシリとつかまれて、抵抗もままならなかったが、彼女のなかにあらがう気持ちはみじんもなかった。むしろ身体をなで回す無骨な大きい手や、ピッタリとよせられた下腹から伝わる硬さに、気がつくと身体の奥が熱をおびていた。
しばらくあと、やっとキスから開放された彼女は荒い息をついた。ゼブラは頬が紅潮した彼女を真剣なまなざしで見おろしている。まるでこれからむつみ合うのではなく、雌雄を決するかのように。
「おまえの知らないオレを、教えてやろう」
彼女を見おろしたまま、ゼブラは空いているほうの手をみずからのマスクの首もとにかけ、かなぐり捨てた。
そうしてあらわになった素顔に彼女は衝撃をうけた。歳月の経過を感じさせるものの、キン肉マンゼブラは、あの古ぼけた写真の人物と同じ顔をしていた。
「アレは、オレだ」
キン肉族の掟――マスクの下の素顔をさらした者は自害――は超人のみならず人間にも広く知られている。もちろん彼女も知っていた。
彼女が「ゼブラのことをもっと知りたい」と言ったせいで、ゼブラはタブーをおかしてしまった。
だからとたんにかたく眼をとじた。
「ゼブラ、ごめんなさい、ゼブラ。お願いだから早くマスクをかぶって。わたしはなにも見てないから」
「……オレを知りたいのではなかったのか?」
「だけど素顔を知りたいなんて思ったわけじゃないわ」
「安心しろ、これは素顔じゃない」
「……え?」
つまりはこういうことだった。写真に写っている頃のゼブラはみなにパワフルマンと呼ばれていた。それは両親が彼の出生にさいして、マスクとともにあたえた名だ。やがてキン肉星の王位継承問題に関連して、ゼブラは邪悪五大神のひとり「技巧の神」に見出され、超人強度一億パワーやマスクとともに、あらたにキン肉マンゼブラという名をさずかった。つまり、ゼブラは出生時に両親から与えられたものと、技巧の神に与えられたもの、二つのマスクをつねに身につけているのだ。
ゼブラに説明をうけ、彼女はポカンとほうけた顔をしてたずねた。
「じゃあ、その顔は素顔じゃないのね」
「そうだ」
「よかった……あなたの素顔を見ちゃったんだとばっかり」
「おまえが写真をみて『これは誰だ?』と聞いたんだろう」
「それならそう言ってくれたらいいのよ。わたしのせいで、てっきりゼブラがし、死なないといけないんじゃないかって」
彼女はゼブラにしがみつくと、ポロポロと安堵の涙をこぼしはじめた。シャツに染みた涙の熱さにゼブラは狼狽し、微苦笑をうかべて彼女を抱きしめた。
「オレは死なん」
やがて、しゃくりあげる声が少しずつおさまり、彼女はゼブラの胸にうずめていた顔をあげた。
「落ちついたか?」
「うん」
「気になったことはちゃんと言え。察して気づかうのは苦手だ」
苦虫を噛みつぶしたような顔でつぶやくゼブラに、彼女はつい吹きだしてしまった。
「知ってるわ、とっくに」
気がつけば窓のそとでは雨がやんで、雲のすき間から陽がさし始めていた。結局しまいまで雨にうたれていた洗たく物は、まるで最終ラウンドまで闘いぬいたボクサーみたいに、くたびれきってポタポタ雫をたらしていた。
「さて、雨もあがったようだし、駅まで送っていこう」
「……え?」
「なんだ?」
「さっきの続きは?」
ゼブラは肩をすくめた。
「おまえの泣き顔をみたら気がうせた」
「ひどいわ、またわたしのせい?」
「まったく……」
ゼブラは彼女を抱きよせ、耳元に低くささやいた。
「次は絶対にやめないからな。おぼえておけよ?」
end
(2024.06.19 書き下ろし)
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