たのしみごと(ステカセキング夢小説)
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季節はそろそろ初夏になろうとしていた。日の入りもずいぶん遅くなって、家路をたどる人びとの足どりも、ゆったりとしている。ステカセキングは台所の小窓からのぞく、やわらかな茜空を横目に、ガスコンロにかけられたフライパンを小刻みにうごかしていた。ひき肉とみじん切りにした玉ねぎやパプリカなどの野菜が強火で炒められており、あたりにはスパイスのこころよい香りがただよっている。ふと、彼のさとい耳が部屋のそとの階段をトントンとかけのぼる足音を聞きつけた。足音は玄関のドアのまえでやみ、ガチャリと鍵をあける音とともに「ただいまぁ!」と彼女が姿をあらわした。
「おかえり、早かったな」
「うん、夕飯はガパオライスってメールもらったから。お腹へったぁ!」
うれしそうに顔をほころばせる彼女につられ、ステカセキングも笑顔をうかべた。
二人が寝食をともにするようになってどれくらいだろうか。彼女は外に勤めにでて、ステカセキングはフリーランスで(その時々によって職種は異なるが)音楽に関わる仕事をしている。現在はライター兼批評家だ。おおむね家で文章を書いているので、夕飯の支度はこのところもっぱら彼の担当になっていた。今夜は上述のとおりガパオライス。玉ねぎやパプリカをリズムよく刻んだり、手首のスナップをきかせてフライパンを繰る作業は、なかなかに楽しい。
ステカセキングの本性(ほんせい)が「音にまつわる――いわば音を産みだすこと」と深く結びついている以上、創造的な作業は彼に適しているのだろう。思えば悪魔将軍のもとで修業にあけくれていたときも、自身の変身を完璧なものにするために強さをもとめていたところがある。ステカセキングがリーダーのバッファローマンや悪魔六騎士のように心底非情になりきることができなかったのも、「敵を倒す=可能性を排除する」行為が「何かをつくりだす」行為と相反する点に理由があったのかもしれない。
彼女がシャワーを浴びているあいだ、ステカセキングはテキパキとテーブルセッティングをすませた。洗い髪をふきながら彼女が姿をあらわすころには、めいめいの皿にもられたガパオライスがホカホカ湯気をたてていた。
「おいしそう!」
彼女はクンクンとあたりをかいだあと、食卓についた。
「あったかいうちに食べよう」
「うん、いただきます!」
「いただきます」
なんとも食欲をさそうニンニクの匂いにさそわれ、二人はスプーンを手にとるとさっそく料理を口にはこんだ。
たちまちバジルのさわやかな香りが口いっぱいにひろがり、ナンプラーの旨味と砂糖の甘味に顔がほころぶ。唐辛子のピリリとした刺激があとをおうようにやってきて舌をやく。それを目玉焼きのマイルドな味が中和してくれる。
空腹をみたすよろこびに心がうきたち、食べるあいまに彼女はその日の出来ごとをステカセキングに話してきかせた。ステカセキングも「へえ!」とか「それはタイヘンだ」とかさかんにあいづちをかえす。
すっかり皿がキレイになると、ココナツミルクティで口内のほてりをしずめ、やっと彼女はひと心地ついた。
「ごちそうさま、おいしかった!大好きな人がごちそうを作ってまっててくれるなんて、わたしって世界一しあわせ」
「オーバーだなぁ」
「ホントだよ?だから仕事もがんばれたもの。ね、ステカセはどんな一日だった?」
「んー昨日とたいして変わらなかったな」
「なにか聞かせて?わたしばっかりしゃべってたし」
「気にすんな。オレはさ、聴くのが専門だから」
ステカセキングと彼女は顔を見あわせ、笑い声をあげた。
なにもかも違う二人だから、ともに楽しくすごせる時間があればそれでいい。
彼女は小首をかしげ、イタズラめいた笑みをうかべていった。
「でもね、明日はお休みとったの。忙しいのもあらかた終わったから。だから……今夜はゆっくりできるよ?」
楽しみごとがひとつ増えたというわけだ。
そういうことなら二人でゆっくり夜を楽しもう。
end
(2024.04.26 書き下ろし)
「おかえり、早かったな」
「うん、夕飯はガパオライスってメールもらったから。お腹へったぁ!」
うれしそうに顔をほころばせる彼女につられ、ステカセキングも笑顔をうかべた。
二人が寝食をともにするようになってどれくらいだろうか。彼女は外に勤めにでて、ステカセキングはフリーランスで(その時々によって職種は異なるが)音楽に関わる仕事をしている。現在はライター兼批評家だ。おおむね家で文章を書いているので、夕飯の支度はこのところもっぱら彼の担当になっていた。今夜は上述のとおりガパオライス。玉ねぎやパプリカをリズムよく刻んだり、手首のスナップをきかせてフライパンを繰る作業は、なかなかに楽しい。
ステカセキングの本性(ほんせい)が「音にまつわる――いわば音を産みだすこと」と深く結びついている以上、創造的な作業は彼に適しているのだろう。思えば悪魔将軍のもとで修業にあけくれていたときも、自身の変身を完璧なものにするために強さをもとめていたところがある。ステカセキングがリーダーのバッファローマンや悪魔六騎士のように心底非情になりきることができなかったのも、「敵を倒す=可能性を排除する」行為が「何かをつくりだす」行為と相反する点に理由があったのかもしれない。
彼女がシャワーを浴びているあいだ、ステカセキングはテキパキとテーブルセッティングをすませた。洗い髪をふきながら彼女が姿をあらわすころには、めいめいの皿にもられたガパオライスがホカホカ湯気をたてていた。
「おいしそう!」
彼女はクンクンとあたりをかいだあと、食卓についた。
「あったかいうちに食べよう」
「うん、いただきます!」
「いただきます」
なんとも食欲をさそうニンニクの匂いにさそわれ、二人はスプーンを手にとるとさっそく料理を口にはこんだ。
たちまちバジルのさわやかな香りが口いっぱいにひろがり、ナンプラーの旨味と砂糖の甘味に顔がほころぶ。唐辛子のピリリとした刺激があとをおうようにやってきて舌をやく。それを目玉焼きのマイルドな味が中和してくれる。
空腹をみたすよろこびに心がうきたち、食べるあいまに彼女はその日の出来ごとをステカセキングに話してきかせた。ステカセキングも「へえ!」とか「それはタイヘンだ」とかさかんにあいづちをかえす。
すっかり皿がキレイになると、ココナツミルクティで口内のほてりをしずめ、やっと彼女はひと心地ついた。
「ごちそうさま、おいしかった!大好きな人がごちそうを作ってまっててくれるなんて、わたしって世界一しあわせ」
「オーバーだなぁ」
「ホントだよ?だから仕事もがんばれたもの。ね、ステカセはどんな一日だった?」
「んー昨日とたいして変わらなかったな」
「なにか聞かせて?わたしばっかりしゃべってたし」
「気にすんな。オレはさ、聴くのが専門だから」
ステカセキングと彼女は顔を見あわせ、笑い声をあげた。
なにもかも違う二人だから、ともに楽しくすごせる時間があればそれでいい。
彼女は小首をかしげ、イタズラめいた笑みをうかべていった。
「でもね、明日はお休みとったの。忙しいのもあらかた終わったから。だから……今夜はゆっくりできるよ?」
楽しみごとがひとつ増えたというわけだ。
そういうことなら二人でゆっくり夜を楽しもう。
end
(2024.04.26 書き下ろし)
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