圧壊(マンモスマン夢小説)
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(――またか)
マンモスマンは「ゾウ」というキーワードを耳にした瞬間、心のなかで舌打ちした。大きな耳と長い鼻、それだけでたいていの子どもは彼のことを象と認識し、ついでフィクションのなかの気のいいキャラクターを彼に投影する。
予想どおり、声の主はガッシと彼の背中にしがみついてきた。
マンモスマンがしぶしぶそちらを向くと、小さな女の子が彼のモシャモシャの上衣にしがみついて、こちらをみあげていた。今日はロックライブなので、常ならば周囲から浮いてしまうあのリングコスチュームを身につけてきたのだ。もちろんチェーンは外しているが。
「……ゾウじゃねぇ」
どうしてもそこだけは譲れないマンモスマン。
「ウソだぁ!」
彼女はあわてて二人のやり取りに割ってはいった。
「あのね、ゾウさんじゃないのよ、マンモスって知ってるかな?」
「しらない!」
「ええとね、とにかくマンモスなの。それでねこの人のお名前はマンモスマンっていうの」
「マンモスさん!だっこして!!」
「さんじゃなくてマンだっつーの」
ぶぜんとした表情でマンモスマンはつぶやいた。
そんなことなどおかまいなしに子どもは「だっこ!だっこ!」といいながらつかんだ毛皮をゆすり始めた。
うへぇ、とマンモスマンは渋面をつくった。眉間の毛皮がこぶのようにもりあがる。
「どーすんだ、コイツ」
「だっこしてあげたら満足するじゃない?」
「カンベンしてくれ」
そこへようやっと子どもの父親が姿を現した。親の目を離れて駆けていってしまった我が子においつくと「すいません、すいません」としきりに二人に頭をさげ、娘の手をしっかりとにぎりなおして去っていった。とうの子どもは父親に引きずられながら「ばいばいマンモスさん!」と小さな手をぶんぶんふっていた。
そのあとしばらくして待ちかねていたライブがはじまった。特大スピーカーからはなたれる振動を浴びながら二人は心地よいグルーヴ感にひたっていた。やがて演奏が佳境にさしかかりジャンピングがはじまると、マンモスマンは「ほら」といって彼女をヒョイと肩車にのせた。誰かとぶつかってケガをしないようにという気づかいだったが、そのあいだも彼はドシンドシン、とジャンプをくり返す。それはまるで遊園地のスリリングなアトラクションのようで、会場の雰囲気にあてられていた彼女は、キャアキャア黄色い声をあげてはしゃいだ。その様子をマンモスマンはヒステリーをおこしたネズミみたいだ、と思った。
かつてはリングで暴虐の限りをつくしていたマンモスマン。彼の猛攻のすさまじさに、超人強度1000万パワーの正義超人でさえ座りこんで怖気づいたものだった。それはマンモスマンがマンモスマンであることの証だった――いうなればラベル、もしくはスティグマ。
けれども今ではなぐさみ物のように子どもにあつかわれ、人間の女を肩にのせてはしゃいでいる。
いっそ聞いてみたくなる。
「お前たちはオレがこわくないのか?」と。
それともみんなは忘れてしまったのだろうか。彼がいままで浴びた返り血を、時の流れがすっかり洗い流してしまったせいで。
(――くだらねえ)
マンモスマンは観客たちのなかで一番高く飛びあがると、感傷めいた想いを押しつぶすようにズシン!と地面を踏みつけた。
end
(2024.02.05 書き下ろし)
マンモスマンは「ゾウ」というキーワードを耳にした瞬間、心のなかで舌打ちした。大きな耳と長い鼻、それだけでたいていの子どもは彼のことを象と認識し、ついでフィクションのなかの気のいいキャラクターを彼に投影する。
予想どおり、声の主はガッシと彼の背中にしがみついてきた。
マンモスマンがしぶしぶそちらを向くと、小さな女の子が彼のモシャモシャの上衣にしがみついて、こちらをみあげていた。今日はロックライブなので、常ならば周囲から浮いてしまうあのリングコスチュームを身につけてきたのだ。もちろんチェーンは外しているが。
「……ゾウじゃねぇ」
どうしてもそこだけは譲れないマンモスマン。
「ウソだぁ!」
彼女はあわてて二人のやり取りに割ってはいった。
「あのね、ゾウさんじゃないのよ、マンモスって知ってるかな?」
「しらない!」
「ええとね、とにかくマンモスなの。それでねこの人のお名前はマンモスマンっていうの」
「マンモスさん!だっこして!!」
「さんじゃなくてマンだっつーの」
ぶぜんとした表情でマンモスマンはつぶやいた。
そんなことなどおかまいなしに子どもは「だっこ!だっこ!」といいながらつかんだ毛皮をゆすり始めた。
うへぇ、とマンモスマンは渋面をつくった。眉間の毛皮がこぶのようにもりあがる。
「どーすんだ、コイツ」
「だっこしてあげたら満足するじゃない?」
「カンベンしてくれ」
そこへようやっと子どもの父親が姿を現した。親の目を離れて駆けていってしまった我が子においつくと「すいません、すいません」としきりに二人に頭をさげ、娘の手をしっかりとにぎりなおして去っていった。とうの子どもは父親に引きずられながら「ばいばいマンモスさん!」と小さな手をぶんぶんふっていた。
そのあとしばらくして待ちかねていたライブがはじまった。特大スピーカーからはなたれる振動を浴びながら二人は心地よいグルーヴ感にひたっていた。やがて演奏が佳境にさしかかりジャンピングがはじまると、マンモスマンは「ほら」といって彼女をヒョイと肩車にのせた。誰かとぶつかってケガをしないようにという気づかいだったが、そのあいだも彼はドシンドシン、とジャンプをくり返す。それはまるで遊園地のスリリングなアトラクションのようで、会場の雰囲気にあてられていた彼女は、キャアキャア黄色い声をあげてはしゃいだ。その様子をマンモスマンはヒステリーをおこしたネズミみたいだ、と思った。
かつてはリングで暴虐の限りをつくしていたマンモスマン。彼の猛攻のすさまじさに、超人強度1000万パワーの正義超人でさえ座りこんで怖気づいたものだった。それはマンモスマンがマンモスマンであることの証だった――いうなればラベル、もしくはスティグマ。
けれども今ではなぐさみ物のように子どもにあつかわれ、人間の女を肩にのせてはしゃいでいる。
いっそ聞いてみたくなる。
「お前たちはオレがこわくないのか?」と。
それともみんなは忘れてしまったのだろうか。彼がいままで浴びた返り血を、時の流れがすっかり洗い流してしまったせいで。
(――くだらねえ)
マンモスマンは観客たちのなかで一番高く飛びあがると、感傷めいた想いを押しつぶすようにズシン!と地面を踏みつけた。
end
(2024.02.05 書き下ろし)
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