予行演習(ザ・ニンジャ夢小説)
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部屋の戸がガラリとあいて、風呂からもどったザ・ニンジャが姿を現した。濡れ手ぬぐいを片手にさげた様子がいかにも温泉客といったふうだ。はだいた浴衣の襟もとから、湯上がりでほんのり赤らんだ肌がのぞき、くくり髪からほつれたおくれ毛が、一すじハラリとうなじにこぼれている。
「ふう、よい湯であった」
どっかりと座敷に座りこむニンジャ。
彼女はその様子にうっとりとまなざしをむけた。
「今日のニンジャさん、とっても色っぽい」
「……そなた、なにをぬかしている」
ニンジャは呆れたような声音でつぶやくと、小さなため息をついた。
二人でむかえる二度目の冬。ザ・ニンジャと彼女は、山あいのちいさな温泉宿をおとずれていた。ちなみに去年はスキーに行った。古風な彼のことだから、スノーブーツのかわりにかんじき、スキー板は竹スキー――彼女はてっきりそんな姿を想像してなかば萌え、なかば笑いをこらえて当日をむかえた。しかし意外や意外、ニンジャはゲレンデに着くとスリムなシルエットのネイビーのスキーウェアに着替え、最新モデルのスキー板をはくと白銀のコースをさっそうとすべり始めた。
さもありなん。もともと彼は身軽さが身上のシノビ。超人格闘家としての闘い方も、その特有のフットワークをぞんぶんに活かしたものだ。それに比べればレジャースキーなど児戯にひとしい。華麗にゲレンデをかけぬける姿たるや想像を絶する格好のよさで、悶絶した彼女は冷たい雪のうえでのたうち回り、周囲の人々も彼に釘づけになった。
大変なのはそのあとだった。ゴンドラに乗っていても、食堂で熱いラーメンをすすっているときも、彼に声をかけようと、たえず女性が接近してくる。
となりに彼女がいるにもかかわらず、だ。
おそるべしゲレンデマジック――いやジャパニーズマジック。
それで彼をけして一人にはしておけないと、彼女は限界までトイレをガマンしてしまい、当のニンジャに「顔色がよくないようだが大丈夫か?」と心配されるしまつだった。
そんな次第で、休みがとれたニンジャに「ひさしぶりに旅行でもいかぬか?」と誘われとき、彼女は心のなかでまっさきにシーズンスポーツにバツをつけた。最適なのは彼に秋波をおくってくる女性がいなさそうな場所で、結果として選んだのがこの温泉宿だった。
枝葉末節的な選択だったが、そのひなびた佇まいがニンジャの好みにあっていたようだ。「そなた、よくこんな場所を見つけたな」と彼女のセンスをほめてくれた。
夕飯はついたてで別個に仕切られた掘りごたつの卓で膳をかこんだ。浴衣に丹前をはおってくつろぐニンジャの姿は、しつらえと絶妙に調和していた。運ばれる料理は地の物を使った素朴なもので、どれも彼をよろこばせた。ことに山菜の天ぷらのなかに、フキノトウの姿を見つけると「寒いなかにも少しずつ春が近づいているな」と顔をほころばせた。料理の合間には盃をかたむけて日本酒でのどをうるおす。これも地元の酒蔵でつくられたものだ。やがて、ニンジャは手にした徳利を彼女にさしだし「たまにはそなたも一献どうだ?」とさそった。酒は強くないが、せっかくなのでありがたく酌をうけることにした。盃につがれた酒をそっと口にふくむと、豊かでまろやかな薫りが鼻をぬけ、熱くのどをやいた。
「ニンジャさんも、どうぞ」
「うむ」
たもとを片手でおさえつつ、向かいのニンジャに酒をつぐ。ままごとめいたそのやり取りは、夫婦のようでなんだかくすぐったい。
イワナの塩焼きがはこばれてきた。焼きたてでまだ湯気をたてており、皮目にほどよくついた焦げめが食欲をそそる。ニンジャはさっそく皿に箸をのばす。波型にうった竹串をイワナの口からぬきとり、箸でかるくおさえたあと器用に身をほぐして口にはこんだ。同じように彼女もイワナを口にはこぶ。
「このお魚おいしいわ」
「うむ。よい焼きぐあいだ」
身肉のほかに香ばしく焼かれた皮もニンジャは食べた。あいまに指についた化粧塩をペロリとなめてから盃をあおる。
箸さばきはたくみでうつくしかった。皿にそそぐ視線や骨と身をていねいにより分ける熱意と探究心。それは褥で彼が彼女にむけるものと、ほんの少しだけどこか似ていた。
夜が遅くなれば二人は身体を重ねあわせるだろう。目の前でくり広げられているのはいわば予行演習だ。ニンジャがどんなふうに自分を抱くか、きちんと視ておこう。彼女は心のなかでそう思った。
end
書き下ろし(2023.01.12)
「ふう、よい湯であった」
どっかりと座敷に座りこむニンジャ。
彼女はその様子にうっとりとまなざしをむけた。
「今日のニンジャさん、とっても色っぽい」
「……そなた、なにをぬかしている」
ニンジャは呆れたような声音でつぶやくと、小さなため息をついた。
二人でむかえる二度目の冬。ザ・ニンジャと彼女は、山あいのちいさな温泉宿をおとずれていた。ちなみに去年はスキーに行った。古風な彼のことだから、スノーブーツのかわりにかんじき、スキー板は竹スキー――彼女はてっきりそんな姿を想像してなかば萌え、なかば笑いをこらえて当日をむかえた。しかし意外や意外、ニンジャはゲレンデに着くとスリムなシルエットのネイビーのスキーウェアに着替え、最新モデルのスキー板をはくと白銀のコースをさっそうとすべり始めた。
さもありなん。もともと彼は身軽さが身上のシノビ。超人格闘家としての闘い方も、その特有のフットワークをぞんぶんに活かしたものだ。それに比べればレジャースキーなど児戯にひとしい。華麗にゲレンデをかけぬける姿たるや想像を絶する格好のよさで、悶絶した彼女は冷たい雪のうえでのたうち回り、周囲の人々も彼に釘づけになった。
大変なのはそのあとだった。ゴンドラに乗っていても、食堂で熱いラーメンをすすっているときも、彼に声をかけようと、たえず女性が接近してくる。
となりに彼女がいるにもかかわらず、だ。
おそるべしゲレンデマジック――いやジャパニーズマジック。
それで彼をけして一人にはしておけないと、彼女は限界までトイレをガマンしてしまい、当のニンジャに「顔色がよくないようだが大丈夫か?」と心配されるしまつだった。
そんな次第で、休みがとれたニンジャに「ひさしぶりに旅行でもいかぬか?」と誘われとき、彼女は心のなかでまっさきにシーズンスポーツにバツをつけた。最適なのは彼に秋波をおくってくる女性がいなさそうな場所で、結果として選んだのがこの温泉宿だった。
枝葉末節的な選択だったが、そのひなびた佇まいがニンジャの好みにあっていたようだ。「そなた、よくこんな場所を見つけたな」と彼女のセンスをほめてくれた。
夕飯はついたてで別個に仕切られた掘りごたつの卓で膳をかこんだ。浴衣に丹前をはおってくつろぐニンジャの姿は、しつらえと絶妙に調和していた。運ばれる料理は地の物を使った素朴なもので、どれも彼をよろこばせた。ことに山菜の天ぷらのなかに、フキノトウの姿を見つけると「寒いなかにも少しずつ春が近づいているな」と顔をほころばせた。料理の合間には盃をかたむけて日本酒でのどをうるおす。これも地元の酒蔵でつくられたものだ。やがて、ニンジャは手にした徳利を彼女にさしだし「たまにはそなたも一献どうだ?」とさそった。酒は強くないが、せっかくなのでありがたく酌をうけることにした。盃につがれた酒をそっと口にふくむと、豊かでまろやかな薫りが鼻をぬけ、熱くのどをやいた。
「ニンジャさんも、どうぞ」
「うむ」
たもとを片手でおさえつつ、向かいのニンジャに酒をつぐ。ままごとめいたそのやり取りは、夫婦のようでなんだかくすぐったい。
イワナの塩焼きがはこばれてきた。焼きたてでまだ湯気をたてており、皮目にほどよくついた焦げめが食欲をそそる。ニンジャはさっそく皿に箸をのばす。波型にうった竹串をイワナの口からぬきとり、箸でかるくおさえたあと器用に身をほぐして口にはこんだ。同じように彼女もイワナを口にはこぶ。
「このお魚おいしいわ」
「うむ。よい焼きぐあいだ」
身肉のほかに香ばしく焼かれた皮もニンジャは食べた。あいまに指についた化粧塩をペロリとなめてから盃をあおる。
箸さばきはたくみでうつくしかった。皿にそそぐ視線や骨と身をていねいにより分ける熱意と探究心。それは褥で彼が彼女にむけるものと、ほんの少しだけどこか似ていた。
夜が遅くなれば二人は身体を重ねあわせるだろう。目の前でくり広げられているのはいわば予行演習だ。ニンジャがどんなふうに自分を抱くか、きちんと視ておこう。彼女は心のなかでそう思った。
end
書き下ろし(2023.01.12)
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