片目で見てた(ジェロニモ夢小説)
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つつがなく年があけた。人々が雑煮やおせちをたらふく食べ、神社や寺に詣で、旧交をあたためたりするうちに正月はあっというまにおわった。世間が通常モードにもどったあるウィークデイ、彼女とジェロニモはひさしぶりに彼の家でのんびりとすごしていた。
正義超人はいつだって多忙だ。悪行超人が横行していないときでさえ、宇宙超人委員会の意をうけ、人間と超人の友好のかけ橋となるべく、日夜奔走している。まして彼は名高いアイドル超人のひとりであるうえに、元は人間であったため、親近感から格別に人間たちに親愛をよせられている。それもあってセレモニーやイベントでの露出もたいへんに多く、去年のクリスマス前後からスケジュールはびっしりで、年あけの松がとれた頃になって、やっと休みがとれた。ジェロニモは「久しぶりにどこか遊びに行こう」と彼女を誘ってくれたけれど、彼女はその多忙ぶりを知っていたから「家で映画でも観ながらのんびりしようよ」と提案したのだった。
それで今日は手づくりのいなり寿司をたずさえ、彼女がジェロニモの自宅をおとずれた。
昼食にいなり寿司を食べたジェロニモは「いままで食べたなかでアンタのつくったいなり寿司が一番うまい」と絶賛した。彼の人ととなりからして本心で言っているのだと思うが、こんなふうに手放しでほめられるとうれしさより先に面映ゆさで顔が真っ赤になってしまう。
食後、彼女はキッチンで後かたづけと、おやつのお汁粉――これも前日に仕込んだものを持参した――の下準備をした。台所仕事をおえた彼女がリビングに通じるドアをあけると、部屋の中央に敷かれたラグの上ではジェロニモが大の字になってスヤスヤ居眠りしていた。もちろん彼は家主なのだから、どんなふうに過ごそうがまったく異存はない。ただ、薄いスウェットの上下でこんなふうに寝ころがっていては風邪をひいてしまうのではとちょっぴり心配になった。ここは日本で、季節は冬で、ジェロニモの故郷の気候とはまったく異なる。
それでもそのラグには彼の出自であるチェロキー族の伝統紋様があしらわれていて、もしも生まれ故郷で生活していたら、きっとこんなシーンもあったにちがいないと彼女は遠い世界にたまゆら思いをはせた。
彼女はジェロニモの身体にかけてやろうと、寝室から毛布を取りだしてきて、かたわらに膝をついた。ちいさな笑みを浮かべた寝顔はとてもおだやかで、リングのうえでみせる雄々しい姿とはまるで異なっている。それがうれしくて、彼女はジェロニモのほほにキスをしようと、そっと唇をよせた。その瞬間、とつぜんジェロニモが起きあがり彼女を抱きすくめた。たしかに眠っていたはずなのに、と彼女は目を白黒させた。
「お、おきてたの!?」
「アンタが毛布をとって戻ってきたときに目がさめた。うれしくて寝たフリして片目で見てた」
ジェロニモの長い前髪は、いつも右目をおおいかくしている。
「――オラ、アンタが大好きだ」
耳もとで聞こえるささやき声、頬にあたるすこしゴワついた髪、寝ておきたばかりの高めの体温。丸太のように太くたくましいジェロニモの腕のなかでそれらを感じ、彼女の胸の鼓動が速くなる。
「わたしも好きよ、ジェロニモ」
「オラはその百倍好きだ」
まっすぐで情熱的な愛の言葉とさきほどより少し力のこもったハグ。歳なりの恋愛経験だってあるのに、なんだか彼女は目の前がクラクラした。
――もしかしたら将来、自分は超人の奥さんになるのかも。
だしぬけにそんな考えが思いうかんだが、彼女は心のなかでそれもいいかもしれない、とつぶやいた。
end
(書き下ろし 2024.01.05)
正義超人はいつだって多忙だ。悪行超人が横行していないときでさえ、宇宙超人委員会の意をうけ、人間と超人の友好のかけ橋となるべく、日夜奔走している。まして彼は名高いアイドル超人のひとりであるうえに、元は人間であったため、親近感から格別に人間たちに親愛をよせられている。それもあってセレモニーやイベントでの露出もたいへんに多く、去年のクリスマス前後からスケジュールはびっしりで、年あけの松がとれた頃になって、やっと休みがとれた。ジェロニモは「久しぶりにどこか遊びに行こう」と彼女を誘ってくれたけれど、彼女はその多忙ぶりを知っていたから「家で映画でも観ながらのんびりしようよ」と提案したのだった。
それで今日は手づくりのいなり寿司をたずさえ、彼女がジェロニモの自宅をおとずれた。
昼食にいなり寿司を食べたジェロニモは「いままで食べたなかでアンタのつくったいなり寿司が一番うまい」と絶賛した。彼の人ととなりからして本心で言っているのだと思うが、こんなふうに手放しでほめられるとうれしさより先に面映ゆさで顔が真っ赤になってしまう。
食後、彼女はキッチンで後かたづけと、おやつのお汁粉――これも前日に仕込んだものを持参した――の下準備をした。台所仕事をおえた彼女がリビングに通じるドアをあけると、部屋の中央に敷かれたラグの上ではジェロニモが大の字になってスヤスヤ居眠りしていた。もちろん彼は家主なのだから、どんなふうに過ごそうがまったく異存はない。ただ、薄いスウェットの上下でこんなふうに寝ころがっていては風邪をひいてしまうのではとちょっぴり心配になった。ここは日本で、季節は冬で、ジェロニモの故郷の気候とはまったく異なる。
それでもそのラグには彼の出自であるチェロキー族の伝統紋様があしらわれていて、もしも生まれ故郷で生活していたら、きっとこんなシーンもあったにちがいないと彼女は遠い世界にたまゆら思いをはせた。
彼女はジェロニモの身体にかけてやろうと、寝室から毛布を取りだしてきて、かたわらに膝をついた。ちいさな笑みを浮かべた寝顔はとてもおだやかで、リングのうえでみせる雄々しい姿とはまるで異なっている。それがうれしくて、彼女はジェロニモのほほにキスをしようと、そっと唇をよせた。その瞬間、とつぜんジェロニモが起きあがり彼女を抱きすくめた。たしかに眠っていたはずなのに、と彼女は目を白黒させた。
「お、おきてたの!?」
「アンタが毛布をとって戻ってきたときに目がさめた。うれしくて寝たフリして片目で見てた」
ジェロニモの長い前髪は、いつも右目をおおいかくしている。
「――オラ、アンタが大好きだ」
耳もとで聞こえるささやき声、頬にあたるすこしゴワついた髪、寝ておきたばかりの高めの体温。丸太のように太くたくましいジェロニモの腕のなかでそれらを感じ、彼女の胸の鼓動が速くなる。
「わたしも好きよ、ジェロニモ」
「オラはその百倍好きだ」
まっすぐで情熱的な愛の言葉とさきほどより少し力のこもったハグ。歳なりの恋愛経験だってあるのに、なんだか彼女は目の前がクラクラした。
――もしかしたら将来、自分は超人の奥さんになるのかも。
だしぬけにそんな考えが思いうかんだが、彼女は心のなかでそれもいいかもしれない、とつぶやいた。
end
(書き下ろし 2024.01.05)
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