いまも、これからも。(バッファローマン夢小説)
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今年も残りわずかになった。
街は浮き足だって、行きかう人々の足どりもせわしない。
十二月のありさまをジェットコースターに例えたならばクリスマスが頂点で、あとは除夜の鐘がなるまで勢いにまかせて走りきるのみだ。
しかし、彼女はそんな慌ただしさから少し距離をおいた毎日を過ごしていた。
興行的側面のある超人レスリングもこの時期は御多分にもれずかき入れ時で、めったにリングに上がることのなくなったバッファローマンも珍しくリングコスチュームをまとい四角いリングのなかに足を踏みいれる。往年のファンはそれを楽しみに会場に駆けつけ、試合が終わればファンサービスやら何やらが待っている。そういうことを各地でやって回るので、いきおい彼女はクリスマス前後を一人で過ごすのだった。
そのことは二人で暮らす前から知っていた。今さら不満などないし、誤解をおそれずに言えば、たまには一人でのんびり過ごすのもよいと思っている。
バッファローマンのことがわずらわしいとかうっとうしいというのではない、絶対に。むしろ逆だ。物思うような横顔、何かの拍子に見せる笑顔、酒を飲んでくつろいだ表情。鍛え上げられたみごとな体躯、そして唯一無二の、彼という存在を体現するロングホーン。それらを見るたび、触れるたびに愛おしくて切なくて、いつも胸がぎゅうとしめつけられる。
要するにバッファローマンとの生活は刺激の強い毎日なのだ。
そういうものから少しのあいだ離れるのもけして悪くはない。
そういう話だ。
怒涛のクリスマスが終わり、数日前にやっと大仕事を終えて帰宅したバッファローマンも、やっと大みそかになってのんびりと自宅で羽をのばしていた。もうあと数時間で新年を迎える。
彼はスペインでは年越しの習慣として一年の最後に十二粒のブドウを食べていた。だから日本の年越しそばの習慣もすぐに馴染んだ。
今夜は天ぷらそばだ。とはいってもそばはシメに食べることになっていて、今のところは天ぷらをつまみにして晩酌に精をだしている。彼女が揚げるはしからサクサクとこころよい音をたてて腹におさめ「春菊の天ぷらは地味だけど旨い」とか「海老天は塩に限る」などと感想をのべる。
「作ってばかりいないでおまえも一緒に食おうぜ」
「天ぷらって揚げてるとあんまり食べたくなくなっちゃうんだ。それよりもバッファが食べてるところ見るほうが嬉しいから。ずっと留守で会えなかったし」
それは本当だ。自分の作った料理を美味しそうに頬張るバッファローマンの姿を見ていると、ああ、いま自分は幸せだ、としみじみ感じる。
「その半纏、あったかい?」
「ああ、温かいしピッタリだ」
今年はクリスマスプレゼントにバッファローマンのための半纏を作った。この大男がいかにも「冬!」といったふうのそれを着て、ぬくぬくと丸くなっている姿をどうしても見たかったのだ。だけど彼にあうサイズの半纏はどこにも売っていないだろうし、オーダーメイドも何だかつまらない。だから材料を買ってきてちょっと――いや、かなり頑張った。
あかがね色の身ごろの生地とくろがね色のビロードの襟はリングでの姿をイメージして選んだ。和裁は出来ないし初めて作ったからあまりよそ様には見せられない出来だけど、とても喜んで毎日着てくれている。
人間の男ならこんなささいなことで手を煩わすこともないだろう。バッファローマンの場合は寝起きから着るもの食べるものまで、常人とは異なるという事実がついてまわる。そういう愚痴を彼がこぼすことはめったにないが、不自由を感じていないわけがない。だから自分がそれに寄り添って、少しだけ快適に毎日を過ごせるようになったらうれしい。
「今年もクリスマスに居てやれなくて、悪かったな」
「ううん、慣れてるから」
「ちゃんと毎日、おまえのこと考えてたぞ」
「うん。知ってる」
彼女もバッファローマンがいない間もずっと彼のことを考えていた。
だからパーティーや、ファンとの集まりで他の誰かと過ごしていても、それでいい。
「そろそろ、おそば茹でようか?」
「ああ、どっさり茹でてくれよ」
「うん。大根をもう少しすって、おろしそばもいいかな」
「それいいな」
まずは湯をわかそうと彼女はコンロに火をつけた。青い炎がぐるりと灯る。
来年も、これからもずっとこうしてバッファローマンのためにご飯を作れますように。
彼女はこころのなかで小さくそうつぶやいた。
end
初出PIXIV 2022.12.27
街は浮き足だって、行きかう人々の足どりもせわしない。
十二月のありさまをジェットコースターに例えたならばクリスマスが頂点で、あとは除夜の鐘がなるまで勢いにまかせて走りきるのみだ。
しかし、彼女はそんな慌ただしさから少し距離をおいた毎日を過ごしていた。
興行的側面のある超人レスリングもこの時期は御多分にもれずかき入れ時で、めったにリングに上がることのなくなったバッファローマンも珍しくリングコスチュームをまとい四角いリングのなかに足を踏みいれる。往年のファンはそれを楽しみに会場に駆けつけ、試合が終わればファンサービスやら何やらが待っている。そういうことを各地でやって回るので、いきおい彼女はクリスマス前後を一人で過ごすのだった。
そのことは二人で暮らす前から知っていた。今さら不満などないし、誤解をおそれずに言えば、たまには一人でのんびり過ごすのもよいと思っている。
バッファローマンのことがわずらわしいとかうっとうしいというのではない、絶対に。むしろ逆だ。物思うような横顔、何かの拍子に見せる笑顔、酒を飲んでくつろいだ表情。鍛え上げられたみごとな体躯、そして唯一無二の、彼という存在を体現するロングホーン。それらを見るたび、触れるたびに愛おしくて切なくて、いつも胸がぎゅうとしめつけられる。
要するにバッファローマンとの生活は刺激の強い毎日なのだ。
そういうものから少しのあいだ離れるのもけして悪くはない。
そういう話だ。
怒涛のクリスマスが終わり、数日前にやっと大仕事を終えて帰宅したバッファローマンも、やっと大みそかになってのんびりと自宅で羽をのばしていた。もうあと数時間で新年を迎える。
彼はスペインでは年越しの習慣として一年の最後に十二粒のブドウを食べていた。だから日本の年越しそばの習慣もすぐに馴染んだ。
今夜は天ぷらそばだ。とはいってもそばはシメに食べることになっていて、今のところは天ぷらをつまみにして晩酌に精をだしている。彼女が揚げるはしからサクサクとこころよい音をたてて腹におさめ「春菊の天ぷらは地味だけど旨い」とか「海老天は塩に限る」などと感想をのべる。
「作ってばかりいないでおまえも一緒に食おうぜ」
「天ぷらって揚げてるとあんまり食べたくなくなっちゃうんだ。それよりもバッファが食べてるところ見るほうが嬉しいから。ずっと留守で会えなかったし」
それは本当だ。自分の作った料理を美味しそうに頬張るバッファローマンの姿を見ていると、ああ、いま自分は幸せだ、としみじみ感じる。
「その半纏、あったかい?」
「ああ、温かいしピッタリだ」
今年はクリスマスプレゼントにバッファローマンのための半纏を作った。この大男がいかにも「冬!」といったふうのそれを着て、ぬくぬくと丸くなっている姿をどうしても見たかったのだ。だけど彼にあうサイズの半纏はどこにも売っていないだろうし、オーダーメイドも何だかつまらない。だから材料を買ってきてちょっと――いや、かなり頑張った。
あかがね色の身ごろの生地とくろがね色のビロードの襟はリングでの姿をイメージして選んだ。和裁は出来ないし初めて作ったからあまりよそ様には見せられない出来だけど、とても喜んで毎日着てくれている。
人間の男ならこんなささいなことで手を煩わすこともないだろう。バッファローマンの場合は寝起きから着るもの食べるものまで、常人とは異なるという事実がついてまわる。そういう愚痴を彼がこぼすことはめったにないが、不自由を感じていないわけがない。だから自分がそれに寄り添って、少しだけ快適に毎日を過ごせるようになったらうれしい。
「今年もクリスマスに居てやれなくて、悪かったな」
「ううん、慣れてるから」
「ちゃんと毎日、おまえのこと考えてたぞ」
「うん。知ってる」
彼女もバッファローマンがいない間もずっと彼のことを考えていた。
だからパーティーや、ファンとの集まりで他の誰かと過ごしていても、それでいい。
「そろそろ、おそば茹でようか?」
「ああ、どっさり茹でてくれよ」
「うん。大根をもう少しすって、おろしそばもいいかな」
「それいいな」
まずは湯をわかそうと彼女はコンロに火をつけた。青い炎がぐるりと灯る。
来年も、これからもずっとこうしてバッファローマンのためにご飯を作れますように。
彼女はこころのなかで小さくそうつぶやいた。
end
初出PIXIV 2022.12.27
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