ビッグボディと 夢主が仲良く ラーメンを 食べる話(キン肉マンビッグボディ)
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良い天気だ。
自宅の玄関を出て、雲ひとつない空を見上げたビッグボディは大きなのびをした。
自分は晴れ男だ、とつくづく思う。
大柄で笑顔の似合ういかにも朗らかそうなこの超人は、体色までも鮮やかなピンク色をしていて、さしもの雨雲もその陽気さにはとてもかなわない、と彼の顔をみてコソコソ逃げ出してしまうのだろう。
今日は二か月ぶりに彼女とデートだ。
元気にしているといいが。
待ち合わせ場所にはビッグボディが先についた。それから10分ほどで彼女が小走りに姿を現す。彼が彼女を見つける前に相手は彼を見つけていて――なにしろ身長が245センチもあるのだ――それであわてて駆けよったのだろう。
「……ひ、ひさしぶりなのにゴメンね、待たせて」
「気にするな、オレもちょうど来たばかりだ」
時刻は昼近かった。すでに飲食店はどこもランチの看板を出している。
「さて、何を食うか」
「そうねぇ」
ビッグボディはたくさん食べるから、できるだけボリュームのある料理がいいのだけど。彼女がそんなことを考えながら周囲の店を品定めしていると、「そういえば、この間あの店でラーメンを食べていたろう?」と、ビッグボディは思い出したように一軒の小さなラーメン屋を指さして言った。
たしかに食べた。
近ごろラーメンも色んな種類が増えて、たまに一人でフラリとはいる。
「見かけたのなら声をかけてくれたら良かったのに。とても美味しかったのよ、一緒に食べたかったわ」
「いや、よほどそうしようと思ったんだが、オレが入ったら店に迷惑をかけそうで、な」
「あ」
カウンターがあるきりの、五人も入れば満席になる小さな店だった。それで、身体の大きなビッグボディは遠慮をしたのだろう。
「そう言われればそうよね、ごめんなさい」
「何を言ってるんだ、おまえが気にすることじゃないだろう」
ビッグボディは鷹揚な笑みを浮かべた。
彼はいつも、そうなのだ。大きくて強いのだから、自分の流儀でふるまえばいいのに、と彼女は思う。合わせるべきは彼ではなく周囲だ。だけどそのことを彼に伝えると、とんでもないと大きな両手を左右に振ってみせる。
「オレなんか、少しも強くない。世界にはもっと強いヤツがごまんといる。まだまだだ」
まあ、外見に似合わない、そんな奥ゆかしいところも好ましいのだが。
「せっかくだから、今日はラーメンを食うか。前から一度連れていきたいと思ってた店があるんだ」
歩いていた道を脇にそれて、裏路地を抜けたところに集会所のような小さな広場があった。
そこにポツンと一台の屋台が店を出していて、色あせた赤のれんには「ラーメン」と書いてあった。こんな場所にこんな屋台があるなんて今まで知らなかった。
「よし、もうやってるな」
ビッグボディはひとり言のようにつぶやくと、ノシノシ近づいていった。
「よう、オヤジさん!」
体躯にみあった大きな声に、のれんの向こうから小柄な老人がヒョッコリと顔を出す。
「おう、大将か。ちょうどいい、さっき仕込みが終わったんだ」
「今日はもう一人客を連れてきたぜ」
ホラ、とビッグボディは己の傍らに目を向けたが、そこに恋人の姿はない。
「どうしたんだ、来いよ」
「う、うん」
おずおずと近づいてくる様子をみて、ビッグボディは重大ごとに気がついたように言った。
「……もしかして、他になにか食いたいものがあったのか!?」
「え?いいえ、大丈夫よ」
「そうか、なら良かった」
ホッと肩をなでおろす大男の姿に、彼女は小さな笑みをうかべた。
「二人で食べられるなら何だっていいの。ただ、こんな秘密基地みたいな場所にラーメン屋さんがあるなんて知らなかったからビックリしただけ」
「今日はオレのおごりだから」
「わぁ!ありがとう!!」
仲むつまじい二人の様子に、ラーメン屋の老人は目を細めている。
二人は醤油ラーメンを注文した。メニューはそれきりで、あとはチャーシューやゆでたまごを追加でのせるくらいだ。
「秘密基地とは上手いこと言ったもんだ」
店主は麺のゆで加減を気にしつつ、我が意を得たとばかりにうなずく。
「本当に、こんな場所があるなんて、表通りからは思いもつかないわ。どうしてビッグボディはこのお店を知っていたの?」
ある日、ビッグボディが道を歩いていると、一台の屋台と困りはてた様子の老人が立ちつくしていた。どうしたのだ、とビッグボディが訊ねると「道に落ちていた大きな石くれにぶつかって、屋台の車輪が外れてしまったのだ」という。「ご覧の通り老いぼれで、元通りにハメ直すこともできず、困っているのだ」老人はそうつけ加えた。
「そこで強力自慢のオレが手を貸したってワケだ」
ビッグボディが得意げな様子で二の腕に力を込めると、膂力を感じさせる力こぶがグッと盛りあがった。
ちょうどその瞬間、店主は二人の前にラーメンの丼をさしだした。
「おまたせ、出来たよ」
話はひとまず中断して、それぞれ箸を手にとった。
まずはひと口とスープをすすれば、いかにも昔ながらといった、濃い醤油色をしながらも、カツオだしのよく効いた、どこか懐かしい味がした。
続いて麺を口にはこぶ。太からず細からずのちぢれ麺は、どちらかといえばあっさり目のスープと絶妙にマッチする。
「わたし、この味好き」
「うん、オレもいっぺんで気にいった」
そう言いながらビッグボディはあっという間に丼を空にした。
「オヤジさん、おかわり頼むよ」
するとあいだを置かずに二杯目が姿を現す。
「さっきの話には続きがあってな」
熱さに舌をやきながら二杯目のラーメンをすするビッグボディを眺めながら、店主は彼女に話しだした。
くだんの車輪が外れてしまった屋台は、ビッグボディの手によってたちまち元通りになった。何しろ年代物だから、修理をするといってもすぐに引き受けてくれる店があるわけでもなく、店主は心から彼に感謝を述べた。そのうえで「修理代だ」といって幾ばくかの代金を彼に渡そうとしたが、ビッグボディは「困ってるヤツがいたら手を貸すのは当たり前のことだから」と、絶対に受けとろうとしない。すったもんだしたあげく、根負けした店主が「それじゃ代わりにウチのラーメンでも食って行ってくれ」と彼をこの場所へ招いて、ラーメンをふるまったというのが顛末だった。
「そうなんですか、その話はちっとも知りませんでした」
ことさらに善行をひけらかさない、そんな奥ゆかしさもビッグボディのステキなところだ。
「恥ずかしいからやめてくれよ、オヤジさん。で、おかわりだ」
空になった丼が二つ重なった。
「ところが、連れてきたはいいがこの大将ときたら『うまいうまい』とラーメンを十杯も食いやがってね。もしかしたら修理代より高くついたかもしれん」
「まあ!」
「まいったな、こりゃ!」
ビッグボディは声をあげて笑いだした。つられて彼女と店主も笑いだす。
大好きな人と美味しいものを食べて笑って。彼女はしみじみと幸せをかみしめながら、ビッグボディが恋人で本当によかった、と感じていた。
end
初出:PIXIV 2023.05.05
自宅の玄関を出て、雲ひとつない空を見上げたビッグボディは大きなのびをした。
自分は晴れ男だ、とつくづく思う。
大柄で笑顔の似合ういかにも朗らかそうなこの超人は、体色までも鮮やかなピンク色をしていて、さしもの雨雲もその陽気さにはとてもかなわない、と彼の顔をみてコソコソ逃げ出してしまうのだろう。
今日は二か月ぶりに彼女とデートだ。
元気にしているといいが。
待ち合わせ場所にはビッグボディが先についた。それから10分ほどで彼女が小走りに姿を現す。彼が彼女を見つける前に相手は彼を見つけていて――なにしろ身長が245センチもあるのだ――それであわてて駆けよったのだろう。
「……ひ、ひさしぶりなのにゴメンね、待たせて」
「気にするな、オレもちょうど来たばかりだ」
時刻は昼近かった。すでに飲食店はどこもランチの看板を出している。
「さて、何を食うか」
「そうねぇ」
ビッグボディはたくさん食べるから、できるだけボリュームのある料理がいいのだけど。彼女がそんなことを考えながら周囲の店を品定めしていると、「そういえば、この間あの店でラーメンを食べていたろう?」と、ビッグボディは思い出したように一軒の小さなラーメン屋を指さして言った。
たしかに食べた。
近ごろラーメンも色んな種類が増えて、たまに一人でフラリとはいる。
「見かけたのなら声をかけてくれたら良かったのに。とても美味しかったのよ、一緒に食べたかったわ」
「いや、よほどそうしようと思ったんだが、オレが入ったら店に迷惑をかけそうで、な」
「あ」
カウンターがあるきりの、五人も入れば満席になる小さな店だった。それで、身体の大きなビッグボディは遠慮をしたのだろう。
「そう言われればそうよね、ごめんなさい」
「何を言ってるんだ、おまえが気にすることじゃないだろう」
ビッグボディは鷹揚な笑みを浮かべた。
彼はいつも、そうなのだ。大きくて強いのだから、自分の流儀でふるまえばいいのに、と彼女は思う。合わせるべきは彼ではなく周囲だ。だけどそのことを彼に伝えると、とんでもないと大きな両手を左右に振ってみせる。
「オレなんか、少しも強くない。世界にはもっと強いヤツがごまんといる。まだまだだ」
まあ、外見に似合わない、そんな奥ゆかしいところも好ましいのだが。
「せっかくだから、今日はラーメンを食うか。前から一度連れていきたいと思ってた店があるんだ」
歩いていた道を脇にそれて、裏路地を抜けたところに集会所のような小さな広場があった。
そこにポツンと一台の屋台が店を出していて、色あせた赤のれんには「ラーメン」と書いてあった。こんな場所にこんな屋台があるなんて今まで知らなかった。
「よし、もうやってるな」
ビッグボディはひとり言のようにつぶやくと、ノシノシ近づいていった。
「よう、オヤジさん!」
体躯にみあった大きな声に、のれんの向こうから小柄な老人がヒョッコリと顔を出す。
「おう、大将か。ちょうどいい、さっき仕込みが終わったんだ」
「今日はもう一人客を連れてきたぜ」
ホラ、とビッグボディは己の傍らに目を向けたが、そこに恋人の姿はない。
「どうしたんだ、来いよ」
「う、うん」
おずおずと近づいてくる様子をみて、ビッグボディは重大ごとに気がついたように言った。
「……もしかして、他になにか食いたいものがあったのか!?」
「え?いいえ、大丈夫よ」
「そうか、なら良かった」
ホッと肩をなでおろす大男の姿に、彼女は小さな笑みをうかべた。
「二人で食べられるなら何だっていいの。ただ、こんな秘密基地みたいな場所にラーメン屋さんがあるなんて知らなかったからビックリしただけ」
「今日はオレのおごりだから」
「わぁ!ありがとう!!」
仲むつまじい二人の様子に、ラーメン屋の老人は目を細めている。
二人は醤油ラーメンを注文した。メニューはそれきりで、あとはチャーシューやゆでたまごを追加でのせるくらいだ。
「秘密基地とは上手いこと言ったもんだ」
店主は麺のゆで加減を気にしつつ、我が意を得たとばかりにうなずく。
「本当に、こんな場所があるなんて、表通りからは思いもつかないわ。どうしてビッグボディはこのお店を知っていたの?」
ある日、ビッグボディが道を歩いていると、一台の屋台と困りはてた様子の老人が立ちつくしていた。どうしたのだ、とビッグボディが訊ねると「道に落ちていた大きな石くれにぶつかって、屋台の車輪が外れてしまったのだ」という。「ご覧の通り老いぼれで、元通りにハメ直すこともできず、困っているのだ」老人はそうつけ加えた。
「そこで強力自慢のオレが手を貸したってワケだ」
ビッグボディが得意げな様子で二の腕に力を込めると、膂力を感じさせる力こぶがグッと盛りあがった。
ちょうどその瞬間、店主は二人の前にラーメンの丼をさしだした。
「おまたせ、出来たよ」
話はひとまず中断して、それぞれ箸を手にとった。
まずはひと口とスープをすすれば、いかにも昔ながらといった、濃い醤油色をしながらも、カツオだしのよく効いた、どこか懐かしい味がした。
続いて麺を口にはこぶ。太からず細からずのちぢれ麺は、どちらかといえばあっさり目のスープと絶妙にマッチする。
「わたし、この味好き」
「うん、オレもいっぺんで気にいった」
そう言いながらビッグボディはあっという間に丼を空にした。
「オヤジさん、おかわり頼むよ」
するとあいだを置かずに二杯目が姿を現す。
「さっきの話には続きがあってな」
熱さに舌をやきながら二杯目のラーメンをすするビッグボディを眺めながら、店主は彼女に話しだした。
くだんの車輪が外れてしまった屋台は、ビッグボディの手によってたちまち元通りになった。何しろ年代物だから、修理をするといってもすぐに引き受けてくれる店があるわけでもなく、店主は心から彼に感謝を述べた。そのうえで「修理代だ」といって幾ばくかの代金を彼に渡そうとしたが、ビッグボディは「困ってるヤツがいたら手を貸すのは当たり前のことだから」と、絶対に受けとろうとしない。すったもんだしたあげく、根負けした店主が「それじゃ代わりにウチのラーメンでも食って行ってくれ」と彼をこの場所へ招いて、ラーメンをふるまったというのが顛末だった。
「そうなんですか、その話はちっとも知りませんでした」
ことさらに善行をひけらかさない、そんな奥ゆかしさもビッグボディのステキなところだ。
「恥ずかしいからやめてくれよ、オヤジさん。で、おかわりだ」
空になった丼が二つ重なった。
「ところが、連れてきたはいいがこの大将ときたら『うまいうまい』とラーメンを十杯も食いやがってね。もしかしたら修理代より高くついたかもしれん」
「まあ!」
「まいったな、こりゃ!」
ビッグボディは声をあげて笑いだした。つられて彼女と店主も笑いだす。
大好きな人と美味しいものを食べて笑って。彼女はしみじみと幸せをかみしめながら、ビッグボディが恋人で本当によかった、と感じていた。
end
初出:PIXIV 2023.05.05
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