ここに分類不可の三題噺を置きます。
三題噺(手鏡、廃駅、白い羽)
2025/10/04 17:593年前、僕の大学進学が決まった年、最寄駅が廃駅になった。「君の通学のために走っていたようなもんだったからな」なんて車掌さんは冗談を言ったが、僕にはそれが重い事実のように思われて、気分が沈んだ。大学も来年には卒業だ。今は夏休み、解体工事すらされない廃駅が、目の前にある。懐かしさを共有出来るような友達もいない。それほどこの村は過疎化している。村人みんなの坊ちゃん、可愛い可愛い太一くん。村が見捨てられない。けれど、僕には僕なりにやりたいことがある。みんなはなにも言わないことも分かっている。でもその沈黙が、僕の心の隅、チリチリと焦がす感覚からは逃れられないと思う。廃駅の中に入る。そのままの駅舎。至る所につたが生い茂り、少しずつ大地に飲み込むようだ。ベンチの上に、忘れ物がある。手鏡だった。小さな鏡を覗くと、最初は泥の水面のようになにも映さなかった。少し眉を寄せたが、見続けていると死んだばっちゃの顔が浮かんだ。目を見張り、手鏡を持つ手に力が入る。村を出ていたせいで、ばっちゃの死に目にはあってない。ちょうど3年前だ。
「ばっちゃ、ばっちゃ……どうして、なにこれ」
鏡の中のばっちゃはにこにこと笑い、太一、と呼びかけてくる。耳を通してでなく、胸に直接語りかけられている。
「太一、なんも気にせんと。好きなように生きたらええんよ。みんな、それが一番の望みやけん」
涙が溢れるのを止める術はなく、僕は声を上げながら泣きじゃくった。言葉なんて出てこない。ばっちゃが背中を撫でてくれている感覚がある。
「太一はええこや、自慢の孫。優しすぎるのだけが、ばっちゃの心配。自分を大事にすること、約束してけろ」
僕は必死で頷いて、涙を袖で拭い、空を仰いだ。焼けるような夕焼けの向こうに、白い鳩が羽ばたいていく。白い羽が夢を覚ますようにひとつ舞い降りる。手鏡を今一度見れば、鼻の赤い自分がいる。強くならなくちゃ。手鏡は持ち帰ったが、東京に戻る時には手元から消えてしまった。それでも、僕は東京へ帰った。
「ばっちゃ、ばっちゃ……どうして、なにこれ」
鏡の中のばっちゃはにこにこと笑い、太一、と呼びかけてくる。耳を通してでなく、胸に直接語りかけられている。
「太一、なんも気にせんと。好きなように生きたらええんよ。みんな、それが一番の望みやけん」
涙が溢れるのを止める術はなく、僕は声を上げながら泣きじゃくった。言葉なんて出てこない。ばっちゃが背中を撫でてくれている感覚がある。
「太一はええこや、自慢の孫。優しすぎるのだけが、ばっちゃの心配。自分を大事にすること、約束してけろ」
僕は必死で頷いて、涙を袖で拭い、空を仰いだ。焼けるような夕焼けの向こうに、白い鳩が羽ばたいていく。白い羽が夢を覚ますようにひとつ舞い降りる。手鏡を今一度見れば、鼻の赤い自分がいる。強くならなくちゃ。手鏡は持ち帰ったが、東京に戻る時には手元から消えてしまった。それでも、僕は東京へ帰った。
