ここに分類不可の三題噺を置きます。

三題噺(烏龍茶、天体観測、21時のニュース)

2025/10/03 20:25
流星群を見たくて家を飛び出したが、準備が足りなかったようだ。昨日の21時のニュースで見やすいスポットとして紹介されていた場所。流星群を待ち侘びていた人達が、みんな望遠鏡を構えている。僕は天体観測なんてしようと思ったのが初めてで、半袖短パンで手ぶらで来たのが恥ずかしくなってきた。生ぬるくなった烏龍茶を飲む。なんだか渋く感じて、飲み込むとざらりとした感覚が残った。
「君、初めてかい」
白髪混じりでメガネをかけた老人が、僕ににこやかに話しかけてきた。肩をすぼめる。
「まだ流星群は始まってないけど、望遠鏡で覗くともう綺麗だよ」
「そう、なんですか」
「覗いてご覧」
老人がそっと譲るように、僕を望遠鏡の前に立たせる。望遠鏡はゴツくて、高価な部類に入ると思う。恐る恐る、覗き込んだ。
「わぁ…………!!」
思わず声が出る、ミルクをこぼした万華鏡のよう。かじりつくように覗いていたら、星が流れ出して。呼吸が浅くなる、手に汗をかいた。流れ星が落ち着いたところで、人の物を借りて大事な時に返さなかったと気付く。僕は慌てて老人に頭を下げた。
「ごめんなさい!」
「いやいや、いいんだ。私の若い頃にもね、こんな風に良くしてくれた爺さんがいたんだ」
老人は星空を見上げて目を細めた。星あかりが呼応するようにきらきら光る。
「人生の最後になにを残すかとか、これきりの機会は早めに済まそうだとか。この歳になるとあれこれ言われるけどね、やっぱり1番最初に出会う舞台。青春は、年寄りが横取りしていいもんじゃないんだよ」
老人が僕の肩を叩く。それだけでピンと背筋は伸びた。
「天体観測はいかがだったかな?」
「はい、とても素晴らしかったです……!!」
老人は満足げにそうかそうかと繰り返し、望遠鏡を片付け始めた。来年は。今度の機会は、自分の望遠鏡を持ってこよう。そう、胸に誓った。まだ名前も知らぬ星々に。

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