ここに分類不可の三題噺を置きます。

三題噺(灰色の空、くしゃくしゃのメモ、ふたりのうそ)一次創作

2025/07/21 21:13
灰色の空の日は、遊びたがりのイレモ達も少しおとなしく、あくびをしながら飼い主に身を寄せる。イレモが眠いということは、彼らと魂を繋いでる人間も眠いということなので、どんな仕事でも仮眠は許されているし、休むことも寛容である。なんせ、この国で殺人罪の次に重いのはイレモを死なせるという罪なのだ。アズサは狭い窓から空を睨んだ。あの日、自分の覚悟が確かだったなら、マーチは死なずに済んだのに。マーチはおおいぬのような姿で、オレンジの立て髪の美しい荘厳なイレモだった。3ヶ月前、皇族の式典でテロがあった。護衛隊長のアズサが先陣を切ったのだが……マーチは死んでアズサは皇族との接触を絶たれ、事件は闇の中に攫われていった。
「キィ」
膝の上に手を投げ出して、心配そうに見つめてくる、新たなパートナー。しっかり5本指がある、尻尾の長いお猿さんのような姿。尻尾の端は青白く燃えている。
「降りようか」
腕をよじ登り、肩に座る。いつだって不安だから、いつも一緒にいたくて。だって、マーチがどれだけ偉大だったか、僕は知っている。貴方が思い出すたびに、僕は今でもアズサを守ってるのはマーチだってことを、知っているの。だけどね、マーチは役目を終えてしまったから。僕は頑張らなきゃいけないんだ。
「…………なえ〜」
テーブルの上は、散らかり放題だった。路頭に迷うアズサに、萬屋として部屋を貸してくれたのは従兄弟なのだが、整理整頓は苦手だった。アズサも苦手。だから、僕は出来る範囲で片付けをした。僕が進んでやるから、アズサも締まりが悪くなって付き合う。昼飯を食べられるスペースまでは空けた。
「キキっ?」
くしゃくしゃのメモを渡す、中身をも見ずにゴミ箱へ。本当に?ほんとにへいき?
「そんな心配しなくても平気だよ。ほら、お前も好きなもん食え」
ツヤツヤのリンゴを選び、齧った。美味しい。イレモなんてなにも食べさせずとも飼い主が肥えていれば生きていられるのに。アズサは優しい。アズサとマーチなら、きっとどこまでも行けたろう。それを踏み躙った誰かが、僕は許せない。マーチのことを思うと、ヤキモチよりも悲しみに溺れる。無念だったよな、まだ一緒にいたかったよな。
「バナナはいいのか?」
「キュ」
バナナに手を伸ばしながら、マーチに僕は誓った。必ず、アズサの汚名を晴らして、笑顔がひとつでも増える生活をさせる。マーチの想いも僕の誓いも、ふたりだけのうそにならないように。それだけは願わなきゃならないほど、僕はちっぽけで弱虫だけど。必ず。必ず叶えてみせるからね。

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