ここに分類不可の三題噺を置きます。

三題噺(余白のドラマ、不穏なセット、喪失感)一次創作(柴崎くん)

2025/07/19 16:11
外はどしゃ降りで、タクシーのワイパーが一生懸命働いている。月も星も見えないのに、この世界は明るすぎて。呼吸の仕方も忘れそうになり、タバコに火をつけようとした。あ。
「構わないよぉ。俺たちだって休憩で吸ってっし。それが一本増えたくらい」
松ヶ谷先輩とは直接親しいわけではない。親友の柴崎と中高年バッテリーを組んでいた。悪い人でないけど末恐ろしいと感じることがある。いよいよ道は山道に差し掛かり、街灯が少なくなっていく。どうせ真っ暗闇だって怖い。世界が怖いんだよ。睨みつけるように、前方の闇を見据える。鹿の親子が通り過ぎていってしまう。車が一度停められて、松ヶ谷さんが辺りを伺う。
「やれやれ、ちょっと一服するかな……あ、最後なんだった」
「いや松ヶ谷さんさっき俺にくれたじゃないですか!最後のだったんですか!?」
「んーそうみたい」
松ヶ谷さんはタバコが足りなくとも不機嫌ということもなく、この森の中の新鮮な空気を肺いっぱいに吸っていた。俺も真似してみると、確かに満たされる感触があった。
「で、今日はどこに行きたいんだい?」
走るだけ走って、最後に目的地を聞くなんて法外なタクシー運転手である。けれど松ヶ谷先輩とのドライブはなぜかな、怒らずに働いて得たしわくちゃのお金、渡しちゃってもいいかと思えるのだ。
「とりあえず、お風呂大きめな宿探しましょうか」
「分かった」
雨で寒いから車内に入って、作品ごっこ。どうせなら柴崎呼ぼうかな、あかりさんはどうだろう。旅のプランを考えているだけで、幸せになれる人たちがいる。俺は幸せ者だ。

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