ここに分類不可の三題噺を置きます。

星のための仕事(錆びたブランコ、ひとつだけ光る星、忘れられた手紙)

2025/08/14 16:07
酷く凍える夜だ。そうルーシャンは思った。ルーシャンは潰れかけの郵便局に勤めており、残業は増えるばかりなので、転職の準備もしなければと、肩を震わせて考えていた。右目の端でなにか光ったように思えたので、首を回す。なんてことはない、飾り立てるだけ飾り立てただけの女が去っていく。街は騒がしい。ルーシャンはひとつ内側の道を通り、そこに錆びたブランコを見つけて腰をかける。星座の欠けた夜空に、特段感傷は抱かない。キィ、とブランコが鳴く。なんでこんな仕事、しているんだっけな。明日の予定を思い返す。今日、初老のじいさんが泣きながら手紙を持ち込んできて、20年以上前の手紙だが、届けて欲しいと泣き寝入りしてた。他の連中は無視を決め込んだが、俺はどうにも見捨てきれず(身なりはちゃんとしていて、清潔感のあるご老人だったのだ)話を聞いた。詳細は説明が前後しすぎていて忘れたが、結ばれることのなかったフィアンセが、記憶喪失になったと風の噂で聞いた。自分の手紙を読んで、会いにきて欲しいわけでないが、思い出してまた少しでも、平和な毎日が続きますようにと。ルーシャンは、探してやることに決めた。それは、老人の願いがささやかであり、美しいと感じたからだ。ルーシャンは夜空を見上げる。星がひとつだけ光って見える。誰にとっても、星なんてひとつでいいのかもしれない。だから明日は、星を見失ったご婦人に、手紙を届ける仕事に勤しむとしよう。ルーシャンは、転職のことは忘れた。

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