ここに分類不可の三題噺を置きます。

泥人形の話、試運転

2025/07/28 09:42
人はなにを幸福と呼ぶと思う?富なのか名声なのか。これは生きることでしか幸福を証明出来なかった兄妹の、勇ましく寂しい旅路の一幕である。

小柄な少女が、バケツの水を持ってきて辺りに撒き、それに引き寄せられて集まる泥を、丁寧に掬って棺桶に放り込む。そうしているうち、満たされた棺桶には人形が宿り、身体を起こした。瞬きをすると、脆い泥の身体は固まっていき、そこらじゅうにいる人間と大差なくなった。肩を回しながら、宝石を嵌め込んだような瞳を少女に向ける。透き通りすぎて、そこには反省の色がない。
「兄貴!俺たちがいくら不死に近い存在でも、泥が回収出来なかったら死ぬよな?死ぬぞ?」
「首辺りと心臓、頭の再現が出来ないだけで、それ以外は良質な泥で再生出来る。俺たちは何度だって戦場を駆けられる。寿命と引き換えに魔法陣書いて、一度だけ俺らの再現が出来る人間とは、やってることのレベルが違う」
俺はマグを水に浸し、冷えたそれを一気に飲み干した。頭がキンとする。隣の少女を見る。少女と呼ぶには、いささか女らしく育ったか。まぁなんだっていいさ。彼女がすくすく育ってくれれば、なんだって。
「兄貴!兄貴が強ぇのは百も承知だけど!万が一ってあるだろ!ここもう国の端っこなんだぜ!?」
「国の端っこまで、穏やかで気候も安定してて。いい国じゃねぇか」
「も、もう〜〜!!論点ずらすな!!兄貴はいっつもそう!!」
どうせ何度首を刎ねられて、頭を潰されて、胸に100の矢を受けたとして。死ぬなんてこと、考えられない。興味もいつしかなくしてしまった。
「お前がいれば、だいたい大丈夫なんじゃないか?」
「〜〜〜〜あたしを頼んなよな!!」
乾いた布で俺の身体を拭き、完全に泥が固まるように整えてくれた。泥人形は形を得た時同時に色を得る。遠くで楽隊の行進曲が聞こえる。
「行くか。今度はなにが出ても素手で対処する」
「いや、ナイフくらいは貸すけどよ」
兄妹の2人旅。俺があの日に妹にしてしまった彼女への、赦しを探す旅。空は広く澄んで、果てがない。どこまでも行ける気がする。この命一つで、どこまでも。

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