ここに分類不可の三題噺を置きます。

三題噺(お守り、鏡の中、おかわり自由)

2025/11/18 22:39
鏡の中を歩いてみたいと思ったのは、向こう側の自分が囚われていると思ったからだ。冷たい鏡面に手を合わせる。温もりが少しずつ、向こうの自分に伝わる気がする。頬もくっつける。皮脂が鏡を汚す。こんなことをしたいわけじゃない。綺麗なままで、もう一人の私に触れたい。鏡を砕こうか?そんなのは意味がない。
「鏡文字でも、書いてみたら」
母がそんなアドバイスをくれた。フライパンで目玉焼きを焼きながらの朝のひと時。鏡文字?鏡に映すと、正しく読める文字になる。面白い。私は夢中で鏡文字を書いた。つらい?くらい?かなしい?鏡文字を書くと、耳に向こうから返答が届く。わたしはわたし、うれしい、このままでいようね。私はいっそう、鏡文字を書く。おかわり自由の定食屋のように。私はお米が好き、あなたは?貴方とお揃いで大好きよ!

そこで、ぷつりと記憶が途切れて。声が遠のいて、思い出せなくなっていく。鏡にはちょっと太った自分が映る。悪くない顔をしている。すっきりと重しの消えた顔だ。部屋のそこかしこに残る鏡文字が、これからの人生のお守りになる。そんな気がして、散乱しているのを集め始める。鏡に向けなくては読めない文字の数々。もう、写さない。もう、鏡の中には迷わない。

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