ここに分類不可の三題噺を置きます。

三題噺(処方箋、木枯らし、スクランブル交差点)

2025/11/06 18:22
大量の処方箋を持って、駆けずり回る女がいる。処方箋は、どこの薬局も受け付けないのだ。スクランブル交差点でクラクションを鳴らされながら、それでも木枯らしで舞う紙の束を追いかけて、焦燥し、項垂れる。処方箋は不思議なことにくしゃくしゃにはならず、必ず女の手の元に戻った。一枚一枚、女は確かめながら、また折れたヒールで立ち上がる。
「どなたの処方箋かな」
女の頭に直接響くような、荘厳な語り声。女は涙も隠さず、処方箋を抱えて走りながら。
「息子が、息子が重病なんです、薬がなくてはあの子は。あぁ、あぁ!死んでしまいます、死んでしまうのです……」
処方箋の文字は、消えかけ始めていた。あんなに騒がしかったスクランブル交差点にも、人はいない。地面に膝をついた女に、骨だけの手が差し出される。女は顔を上げた。濃い緑のローブを被った、髑髏の死神。死神が処方箋を拾い上げると、青い炎で燃えだし、やがて風と共に去りゆいた。女は乱れた髪で、ただ茫然とその様子を見ていた。
「あなたに罪はない。おかえりなさい」
死神が大鎌を振り上げ、女の首を落とす。たちまち女の頭も身体も、青い炎で消えていく。女の悪夢は、終わった。

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