ここに分類不可の三題噺を置きます。

三題噺(雨宿り、赤いビー玉、忘れた約束)

2025/10/31 22:41
雨宿りの軒下で、幼い子供がビー玉を零した。母親はイラつきながらも、ひとつひとつ拾いあげて、幼く小さな手に戻す。ビー玉は祖母が縫って仕上げた巾着袋に仕舞われていた。
「ねぇ、ない」
「ええ?」
「あか、ない」
幼い子供の記憶力など、たかが知れている。たかを括った母親は聞く耳を持たなかった。
「ねぇ、あかがないの」
「分かったって。あとで赤いビー玉は買ってあげるから」
少し苛立った素振りで、子供の手を引く。子供ながらに分かっていた、忘れられる約束になるのだと。雨と共に流されていく、小さくて、それでも鮮明に残る。今でも、雨に流された赤いビー玉を探しているのかも知れない。忘れた約束なんかもう責めない。だけどもう一度、貴方と昔の話がしたい。病室で斜陽を浴びる貴方は穏やかでした。歳を老いることを覚えて、雨宿りも上手くなって。雨のようにばら撒かれたビー玉から、赤いビー玉を探しに行きたい。ねぇ母さん、約束をしましょうよ。しわしわの小指をそっと結び、勝手に約束した。私が泣くと、母は笑った。急に昔を思い出したように頭に触れるから、私は子供のように泣いてしまった。

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