ここに分類不可の三題噺を置きます。

三題噺(神の背中、焦げたパン、夜明け前の虹)

2025/10/19 09:28
神の子イエスは、食器をパンに変えてみせたという。まごうことなき、奇跡。幼い頃、それを聞いて「もともと食器がパンなんじゃ?」と思って、齧り付いたことがある。母が慌てて皿を取り上げたのを覚えている。皿が口の中で割れなくて幸いだった。当時母は、仕事をしながら私を育ててくれ、朝ごはんは大抵パンだった。トーストはよく焦がしてしまって、苦いと言いながらジャムを塗って食べていた。お昼ごはんもパン。でも夕飯はなにかしら手作りで、ハンバーグやオムライスを食べさせてくれた。私が笑うのも忘れて頬張るのを、嬉しそうに見つめていた。母は悪くなりそうなパンをかじっていた。私を生んだ女神は、ずっとパンをかじって人生を駆け抜けた。その背中を、ぼんやりと眺めて過ごした。別に特別なものとは、思わなかったのだ。
母親が亡くなったのは3年前。夜明けに虹が見えてはしゃいだ私が、疲れてる母を起こそうと思って。そうだ、母は疲れてくたびれて、私と向き合う時間すら削っていた。私はそれを自由だと勘違いしていたのだ。母は夜明けの虹が連れていったのだ。もっと幸せで、もっと楽な場所へ。
今の私は、パン屋で見習いをやっている。パンって贈り物だ。みんなを笑顔にし、お腹を満たす。私は竈門に愛情を込めすぎて、よく焦がす。まだまだ半人前だ。焦げてないパン。綺麗に焼き上げたパンを、お母さんに食べてもらいたい。まだ弱いから、そう思うたびにちょっぴり、泣いてしまうのです。パンが塩辛くなっちゃう、堪えながら修行の日々。神の背に問いかける。私、まだ親孝行は間に合いますか?いつかは会わせてくれますか。食器をパンにする奇跡なんて、見せてくれなくてもいいから。願いを届ける虹は、まだ出ない。

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