ここに分類不可の三題噺を置きます。

三題噺(歯車の音が止まらない夜、恋人は傘を忘れる、届かない手紙には香水の跡)

2025/10/12 11:32
「歯車が止まらない夜にお返事を」
あの人はそう言ったきり、僕と会おうとはしない。歯車が止まらない夜って?時計塔の歯車は止まることがない。だから、時計塔のことかと思うのだが。毎夜毎夜、時計塔で待ちぼうけ。歯車を買ってきて自分で組んでみて、手動で日付が変わるまで回してみたり、馬鹿馬鹿しいこともやった。半年経った。時間だけ過ぎていく。手紙も書いた。そのまま返送されてきて、仄かに香る香水の跡が、あなたを形作って思い出された。ぽたぽた、涙が落ちる。ねぇ、何故僕の前から姿を消したのですか?恋人同士だったはずでした。傘を忘れた貴方に僕は傘を差し出して、一緒に雨の中歩きましたね。僕は歯車の音よりも、傘に雨粒がぶつかって跳ねる音のが好きです。涙の落ちる音が、聞こえるくらいに側にいたい。僕だけですか。僕だけだったんですか。
ゴーン、ゴーン…………
時計塔が年明けを告げます。そろそろ、つま先の向く方向を決めなくてはなりません。香水の匂いを嗅いで、手紙は近くのゴミ箱に……今夜は捨てられなかった。雨が降ってきて、僕の肩を濡らします。風邪でもひきたいな。忘れていたいから。寒い夜です。僕は彷徨うようにふらふらと、自宅に戻りました。歯車の音が止まらない毎夜、これがお返事なのに。受け取らないのは、僕の方。それでも、もう一度お手紙を書きます。これを最後にしましょう。そう、約束をして眠りについた。

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