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「俺みたいな戦い方する奴、東さん以外にもいないの?」
「あー?」
かげうら先輩に、こないだ言われたことが引っかかっていた。嘘とまでは言わないけれど、陰りがあったんだあの時。他にも知っている風だった。個人ランク戦ブース、ひと息いれている時に訊ねてみた。
「なんだ、気になるのか?」
「うん、ちょっとね」
「…………来るか分かんねーけど、連絡取ってやるよ」
かげうら先輩はその場で電話をかける。そんなに身近な人なのに隠したのか?でも会わせてはくれるようで、ちょっとした違和感に神経を澄ませる。
「おう、影浦だ。お前の先輩の。お前に会いたいって奴がいる。暇ならブース来い」
かげうら先輩は手短に言うと、電話を切った。話し方にも違和感が残る。お前の先輩の?なんでわざわざ、そんなことを言うのだろう。
「……かなり変わってる奴だから、会ってびっくりするなよ」
「カゲ先輩くらい?」
カゲ先輩は眉間に皺を寄せると。
「俺とはベクトルがちげぇよ」
と、それきり詳しくは話さなかった。しばらく、時計をぼんやり見ながら静かに時を過ごす。15分くらいして、ブースの入り口で女の子が立ち止まった。キョロキョロと人を探してるようで。
「晶、こっちだ」
かげうら先輩が声をかけると、瞬きを繰り返し。恐る恐る、こちらへやってきた。どこかよそよそしく、それでいてぽけっとしている。
「お前のこと、気になるって奴がいるから呼んだ」
「電話と同じ声」
「おう、さっき電話したのは俺だ」
「どなたでしたっけ」
「影浦だ。先輩の影浦」
「そうでしたか」
「……知り合いじゃないの?」
どう訊くのが正解か分からないが、シンプルな感想をぶつける。かげうら先輩は頭を掻いた。
「あー……知り合いだよ。知り合いだけどよ」
「私、人のことを覚えられなくて」
言葉に熱はなく、虚ろな瞳が俺を映していた。精神を壊しているのだと、すぐに察した。
「人の見分けがつかないの」
「それはそれは……」
ということは、誰か分からないけど知り合いであろう人物から、ブースに来いと言われて来たことになる。それは勇気のある行動なんじゃないだろうか。本人は、意識もしていなそうだけど。危うい人だな、と思う。
「……第一次侵攻の時から、人の見分けがつかなくなったんだと。侵攻前からの知り合いじゃねぇと、名前も顔も分かんねぇそうだ」
「…………」
かげうら先輩の説明を聞いて、かけるべき言葉などないように思える。なにを言ったって気休めやいい加減に聞こえるだろう。それなら、無理に寄り添おうとはせずに、フラットに向き合おう。
「強いの?」
「そこそこだな。お前より怖くはねぇよ」
「それは、私が決める。確かめる」
結構、見た目より好戦的な性格なんだな。
「じゃあ、10本勝負やる?」
「やる」
彼女はブースにさっさと入ろうとする。名前も知らなきゃ、マッチング出来ないじゃん。
「名前は?」
「日向晶。貴方は?」
「空閑遊真だよ」
「ゆうま、ユーマ……」
彼女はぶつぶつ復唱しながら、ブースに入っていった。
「……俺、このあと任務なんだわ。道とかは覚えられる奴だから、終わったら自然解散で大丈夫だぞ」
「ありがとうかげうら先輩」
先輩は特になにも聞くこともなく、言うこともなく去っていった。俺もブースに入る。日向晶は、どんな奴なんだろう。
『最終スコア、8-2。勝者、空閑遊真』
10本勝負が終わる。ブースを出ると、晶はきょろきょろと俺を探していた。
「晶さん、俺だよ。俺が空閑遊真だよ」
「あ、さっきと同じ声」
どうやら、声が一番印象に残るらしい。
「ゆうまくん、強いね。入って長いの?」
「いや、ここには来て2ヶ月くらいだよ」
「はえ……それでこんなに強いんだ。びっくり」
晶は顎に手を当てて、興味深そうに俺を見る。それから、残念そうな瞳をして。
「でも忘れちゃうんだよね……」
「……忘れるのは、怖い?」
「いや、怖いことも忘れちゃった。けど、」
嘘ではなかった。嘘なことも忘れたのかもしれないけど。次の言葉をじっと待つ。晶は宙をぼんやり見つめる。
「生きてて欲しい、と誰かに言われたんだ。誰の言葉かは忘れたけど。思い出さなきゃいけない気がするんだ」
「……忘れたとしても、生きてて欲しいって言われたなら、生きていかなきゃ」
「そうかな?」
「そう思うよ」
自分の望みとは違っても、それが誰かの願いなら。叶えるのが、優しさだとか愛だとか言われるんじゃないだろうか。大切な人の願いなら尚更。
「じゃあそうしてみるか……」
晶は首を回して、あくびをした。それから、俺を見つめて微笑むと。
「君のことは、覚えてられそうな気がする」
その言葉が告白のようで、俺は呆気に取られた。彼女の記憶に、残ることは光栄に思える。少し胸が高鳴った。
「なんか、あんまり見ない風貌で目立つし」
……あぁ、なんだそういうことか。ま、それでもいいや。
「空閑遊真、クガユーマだよ」
「くがゆーま……」
「遊真だけでも覚えてよ」
「努力は、するよ」
曖昧な微笑みに寂しさを見たから、どうしても覚えて欲しくなった。
「連絡先、交換しようぜ。覚えてもらえるまで連絡する」
「怖……」
「別に、しつこくはしないよ」
「そうしてもらえると……うん」
連絡先を交換する。アドレス帳に「日向晶」の文字が増える。
「もし、」
「うん」
「もし、君のことを覚えられたら。もう離れないで欲しいな」
切なる願いが胸を抉った。その言葉だけで、この子がたくさん傷ついてきたことは分かる。俺は、彼女を見捨てられそうにない。
「あー?」
かげうら先輩に、こないだ言われたことが引っかかっていた。嘘とまでは言わないけれど、陰りがあったんだあの時。他にも知っている風だった。個人ランク戦ブース、ひと息いれている時に訊ねてみた。
「なんだ、気になるのか?」
「うん、ちょっとね」
「…………来るか分かんねーけど、連絡取ってやるよ」
かげうら先輩はその場で電話をかける。そんなに身近な人なのに隠したのか?でも会わせてはくれるようで、ちょっとした違和感に神経を澄ませる。
「おう、影浦だ。お前の先輩の。お前に会いたいって奴がいる。暇ならブース来い」
かげうら先輩は手短に言うと、電話を切った。話し方にも違和感が残る。お前の先輩の?なんでわざわざ、そんなことを言うのだろう。
「……かなり変わってる奴だから、会ってびっくりするなよ」
「カゲ先輩くらい?」
カゲ先輩は眉間に皺を寄せると。
「俺とはベクトルがちげぇよ」
と、それきり詳しくは話さなかった。しばらく、時計をぼんやり見ながら静かに時を過ごす。15分くらいして、ブースの入り口で女の子が立ち止まった。キョロキョロと人を探してるようで。
「晶、こっちだ」
かげうら先輩が声をかけると、瞬きを繰り返し。恐る恐る、こちらへやってきた。どこかよそよそしく、それでいてぽけっとしている。
「お前のこと、気になるって奴がいるから呼んだ」
「電話と同じ声」
「おう、さっき電話したのは俺だ」
「どなたでしたっけ」
「影浦だ。先輩の影浦」
「そうでしたか」
「……知り合いじゃないの?」
どう訊くのが正解か分からないが、シンプルな感想をぶつける。かげうら先輩は頭を掻いた。
「あー……知り合いだよ。知り合いだけどよ」
「私、人のことを覚えられなくて」
言葉に熱はなく、虚ろな瞳が俺を映していた。精神を壊しているのだと、すぐに察した。
「人の見分けがつかないの」
「それはそれは……」
ということは、誰か分からないけど知り合いであろう人物から、ブースに来いと言われて来たことになる。それは勇気のある行動なんじゃないだろうか。本人は、意識もしていなそうだけど。危うい人だな、と思う。
「……第一次侵攻の時から、人の見分けがつかなくなったんだと。侵攻前からの知り合いじゃねぇと、名前も顔も分かんねぇそうだ」
「…………」
かげうら先輩の説明を聞いて、かけるべき言葉などないように思える。なにを言ったって気休めやいい加減に聞こえるだろう。それなら、無理に寄り添おうとはせずに、フラットに向き合おう。
「強いの?」
「そこそこだな。お前より怖くはねぇよ」
「それは、私が決める。確かめる」
結構、見た目より好戦的な性格なんだな。
「じゃあ、10本勝負やる?」
「やる」
彼女はブースにさっさと入ろうとする。名前も知らなきゃ、マッチング出来ないじゃん。
「名前は?」
「日向晶。貴方は?」
「空閑遊真だよ」
「ゆうま、ユーマ……」
彼女はぶつぶつ復唱しながら、ブースに入っていった。
「……俺、このあと任務なんだわ。道とかは覚えられる奴だから、終わったら自然解散で大丈夫だぞ」
「ありがとうかげうら先輩」
先輩は特になにも聞くこともなく、言うこともなく去っていった。俺もブースに入る。日向晶は、どんな奴なんだろう。
『最終スコア、8-2。勝者、空閑遊真』
10本勝負が終わる。ブースを出ると、晶はきょろきょろと俺を探していた。
「晶さん、俺だよ。俺が空閑遊真だよ」
「あ、さっきと同じ声」
どうやら、声が一番印象に残るらしい。
「ゆうまくん、強いね。入って長いの?」
「いや、ここには来て2ヶ月くらいだよ」
「はえ……それでこんなに強いんだ。びっくり」
晶は顎に手を当てて、興味深そうに俺を見る。それから、残念そうな瞳をして。
「でも忘れちゃうんだよね……」
「……忘れるのは、怖い?」
「いや、怖いことも忘れちゃった。けど、」
嘘ではなかった。嘘なことも忘れたのかもしれないけど。次の言葉をじっと待つ。晶は宙をぼんやり見つめる。
「生きてて欲しい、と誰かに言われたんだ。誰の言葉かは忘れたけど。思い出さなきゃいけない気がするんだ」
「……忘れたとしても、生きてて欲しいって言われたなら、生きていかなきゃ」
「そうかな?」
「そう思うよ」
自分の望みとは違っても、それが誰かの願いなら。叶えるのが、優しさだとか愛だとか言われるんじゃないだろうか。大切な人の願いなら尚更。
「じゃあそうしてみるか……」
晶は首を回して、あくびをした。それから、俺を見つめて微笑むと。
「君のことは、覚えてられそうな気がする」
その言葉が告白のようで、俺は呆気に取られた。彼女の記憶に、残ることは光栄に思える。少し胸が高鳴った。
「なんか、あんまり見ない風貌で目立つし」
……あぁ、なんだそういうことか。ま、それでもいいや。
「空閑遊真、クガユーマだよ」
「くがゆーま……」
「遊真だけでも覚えてよ」
「努力は、するよ」
曖昧な微笑みに寂しさを見たから、どうしても覚えて欲しくなった。
「連絡先、交換しようぜ。覚えてもらえるまで連絡する」
「怖……」
「別に、しつこくはしないよ」
「そうしてもらえると……うん」
連絡先を交換する。アドレス帳に「日向晶」の文字が増える。
「もし、」
「うん」
「もし、君のことを覚えられたら。もう離れないで欲しいな」
切なる願いが胸を抉った。その言葉だけで、この子がたくさん傷ついてきたことは分かる。俺は、彼女を見捨てられそうにない。
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