この世にひとつを知ってもらうため

ポケモンバトルはテレビの向こうからの観戦より、その場で目の当たりにすると圧倒されるパワーがある。インティモタンタラジム、今月初の公式戦。晴天からの落雷、砂埃に混じって鋼の翼が舞い散る。バトルに合わせた生演奏は少し静けさを演出する。砂埃が風に払われると、ジムリーダーショウハのアーマーガア2匹が戦闘不能に。挑戦者のライボルトの呼吸は荒いが、まだ立っている。
「アーマーガア2匹、戦闘不能!」
審判のコウモトの声が会場に響く。ショウハの手には、あとひとつのモンスターボール。
「やるねぇ。お互い、残り1匹か。まぁ気負うなよ、うちのレディはエスコートにうるさいからさ」
ショウハが下投げしたモンスターボールから出てきたのは、またアーマーガア。アーマーガアは首を左右に振り、相手のライボルトを品定めするように見てから、甲高く鳴いて空に飛ぶ。
「さぁ、フィナーレといこうか!」
音楽隊の演奏に力が入る。鳴き声轟くバトルの残り時間は、3分もない。

「あー勝ててよかったー!カッコつけたのに負けてたらコメントに困るからなー」
楽屋でショウハは支給されたお弁当を、椅子にまっすぐ座って食べた。インティモタンタラジムは6番目のジム。挑戦者こそアニマダウのシモトより少ないが、そこそこに噛み応えのあるトレーナーがやってくる。ま、別に俺が6番目に強いかっていうと怪しいところだけど。ショウハは今日のバトルを振り返る。レディがクローザーだっただけで、ハニーもミッシェルも頑張った。今はポケモンセンターに預けてある。お弁当を食べ終えたところで、楽屋のドアがノックされる。
「どうぞ〜」
「失礼します。お疲れ様です」
礼儀正しく入ってきたのは、アダマスカーポジム、ジムリーダーのトグラ。トグラは不満気な顔で腰に手を当て、メガネを上げた。
「どした?」
「…………ジム防衛、おめでとうございます」
「おう。お前が負けた挑戦者に勝っといたぞ」
「納得いきません!なんでアーマーガア3匹で勝ってるんですか!?というか!嫌味やめてください!」
「いやお前が先に嫌味言いそうだったから、先回りしただけだよ」
「そうですね!ジム防衛、紙一重じゃないですか。よくあんな決め台詞言えますね?」
ショウハはなんであんなこと言ったんだっけ?と、少し天井を見つめた。まぁ。レディならなんとかするんじゃないかなという確信は、なかったわけではない。
「勝てそうだと思ったしなー」
「……相性不利でも?」
「ポケモンバトルは理屈じゃねぇからなぁ」
トグラは腕を組んで、その言葉を噛み砕こうとした。この人と僕では、バトルに求めていることが違う。では、負けた僕は間違ったのだろうか?
「まぁ、トグラがやりたいようにやればいいんじゃね。俺はインティモタンタラを守りながら、挑戦者から逃げずに戦うだけだよ」
「……勝ちは勝ち、負けは負け。僕はその結果から逃げない」
ショウハは挑戦から逃げない。トグラは勝敗から逃げない。似て非なる2人は、隣あった町を守る。
「ところで、歩いて帰るの面倒なのでアーマーガアで送ってください」
「いやみんなポケモンセンターにいるんだけど?スワンナで帰ればいいじゃねぇか」
「スワンナは華奢なので安定感ないし、可哀想なんですよ」
「相棒を信じて帰れ!いや流石にスワンナ2匹いるなら帰れるだろよ」
「……スメラギのおばばに挨拶してから帰ります」
「いやおばばのヨルノズクを当てにするな」
なんだかごちゃごちゃとやり取りして、トグラは失礼します、と挨拶だけはちゃんとして帰った。ショウハは一息ついてお茶を飲んだ。
「ポケモンバトルって、なんなんだろなー」
とりあえず今日の配信、女の子達がどんくらいの反応してるのか見よう。ショウハはタブレットを出して、コウサイファンクラブのバトルログの更新を待った。
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