ポートルポ、観察日記

四天王サヤギが守る町は「ヒスイクラフト」と呼ばれた。町というよりは村に近いかもしれない。ヒスイクラフトに住む人は大半が農耕者で、きのみを作ったり麦を作ったり、ポケモン用フードに加工して暮らしている。山側に日が沈み、南方に大きな湖がある。ユークレース湖から、農業用水が引かれている。ポートルポの庭の反対側に位置するこの場所は、ポートルポにとって裏口みたいなものだった。ポートルポは、湖を泳いで庭に帰る。そのおかげで水質がいいと言われており、湖を泳いでいくポートルポにはついて行ってはいけない。ポートルポが泳ぐのは、決まって月の美しい、空に雲のない日らしい。
「あれ、夜中にお客さんだ。ぼくぽ、もう寝る時間じゃないの?」
サヤギは玄関の向こうでドアを叩く音が聞こえたので、扉を開けた。ポートルポは片手を挙げて挨拶をする。
「サヤグ、だーだ!ぐんぐ?」
サヤギ、だーだ!げんき?。だーだ、はポートルポ独自の言葉で、心を込めた挨拶、ありがとう、大好き、さようならなどのすべてが込められた親愛の言葉。サヤギはポートルポと目を合わすのにしゃがんだ。
「元気だよ。今から庭に帰るの?暗くない?私のジュナイパーで送ろうか?」
「だうじょぶ!むて、こーまんぐつ!」
ポートルポは指をさして空を見上げる。綺麗な満月が、雲一つない夜空に輝いている。
「あーほんとだ。綺麗だねぇ」
「ぬ!」
「でも、じゃあなんで私のとこ寄ったの?なにか理由あんのかな?」
「サヤグ、むずうむむーうこ!」
「んー??」
今のは、サヤギには難解である。アニマダウのシモトは、これくらいの言葉は造作なく理解するが。ポートルポは、サヤギをユークレース湖に誘った。ポートルポが4本の指でサヤギの手を優しく握り、外へ引っ張る。サヤギの持つモンスターボールから、ジュナイパーが飛び出した。この個体は「ウノ」という。
「あれ、ウノ。ついていく?」
「クルゥ、ク」
ウノは音も立てずに飛び、ポートルポの上を旋回しながらポートルポについて行った。ポートルポはにこにこしながらウノを見上げて、たまに飛び上がってでんぐり返しして、進んでいく。
「まぁ、ジュナイパーは夜行性だし。いっか。私も行くよー、ちょっと靴履くから待って〜」
ジュナイパーは一度地面におり、サヤギを待った。ポートルポはジュナイパーになにか話しかける。ジュナイパーはこくこくと頷き、クークーとなにか喋っていた。
「お待たせ。じゃあ夜の散歩しよっか」
そこからは、ユークレース湖まで静かだった。無音なわけではない。風がそよぎ、木々は揺れる。虫ポケモンのさざめき、どこかでポケモンが寝返る音。ポートルポは耳をパタパタと動かして、聞き入りながら歩いていた。
「ユークルースこ、つーた!」
湖に辿り着くと、バルビートとイルミーゼが愛のダンスを踊り、湖のへりにはネマシュが揺れ、湖がその明かりたちを綺麗に反射していた。サヤギが辺りを見回すと、草陰からたくさんのポケモンがその明かりを鑑賞していた。
「……静かな花火みたいだね」
「うん!サヤグにむすたかったの!」
ジュナイパーが珍しく座り込み、羽根でポートルポを撫でた。んふー、とポートルポは満足気に鳴く。サヤギも座り込んで、しばらくその光景を眺めていた。……満月が空の真上に登る。ポートルポの庭まで、まっすぐに光の路が出来る。ポートルポは身体を揺らして立ち上がる。
「帰るの?」
「うん。だーだ!さんぽすーくる、あっとー!」
サヤギはまたポートルポがなんと言ったのかはよく分からない。でもまぁ、だーだって言ってるし。機嫌良さそう。ちなみに、あっとーはありがとうの省略である。
「ぽくぽ、泳いで行くの?ウノに乗っていけば?ウノは夜でも飛べるけど」
呼ばれたウノは、静かに首を振る。ポートルポはウノの翼に触れて、握手をして、トプンと水の中に飛び込んだ。湖の中は暗くて見えない。サヤギが目を凝らすと、ポートルポは頭を出した。
「つくあるす、ぽくぽだくどもかーるる!」
「…………帰れるって?」
ウノは頷く。ポートルポは話が通じたので、背を向けて月の道筋を辿っていく。
「またぬー!だーだ!」
月を受けてきらめく虹色の鱗。それが見えなくなるまで、サヤギはその場にいた。
「…………さっむ。部屋着のまま出てきちゃった」
サヤギが呟くと、もう1匹ジュナイパーが飛び出す。この子はトレという。ウノとトレはサヤギを自分たちの身体で挟み、そのまま夜空を飛ぶ。ウノの背中で、サヤギはうとうとまどろんだ。トレはウノの上ギリギリを飛ぶ。サヤギは、この温もりの中で育った。
「クルゥー」
静かな林に、ジュナイパーの鳴き声が溶けていった。
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