刀鍛冶の少女
これは白ひげ海賊団二番隊隊長「火拳のエース」が、まだ白ひげのジョリーロジャーを背負わずして、モビーディック号に乗り合わせていた頃の話。
爽やかで、それでいて寂しさを思い出す風の吹く島、秋島バーニングエイト。その島の港に、鯨と見まごうような大きな帆船が停泊していた。この船の主であるのはかの大海賊「白ひげ」エドワード・ニューゲート。そしてバーニングエイトのあちこちには彼のジョリーロジャーが掲げられている。この島は白ひげ海賊団のナワバリなのだ。なので、彼らが大所帯で街中を闊歩しようと、街の人たちはそれ程気にしない。それどころか、海賊である彼らを歓迎し、手土産を持たせる者までいるくらいだ。しかし、何も目的もなく彼らは陸に上がったわけではなかった。目的地は職人の工場が多いこの島でも、一際広い敷地を有する刀鍛冶「鬼徹一派」の工場であった。屈強で一際身体の大きい白ひげが、悠々と潜れる木造の門の中。そこが鬼徹一派の本拠地であり、入り口には完成した様々な刀剣が立ち並んでいた。
「白ひげさんだ! 白ひげさんが来たぞぉ*!!」
店番をしていた一人が声をあげれば、奥の工場から続々と鍛治職人が出て来て挨拶した。そうして、一番最後に顔を出した大男が、笑い声をあげて白ひげの前に出た。
「ダハハハハ! お久しゅうございます親父さん! この度はこちらの都合で予定をズラしてもらって済まなかった!」
「グララララ! 本当だぞ、鬼徹よ! トットランドに行ったと聞いた時には、俺の船団を動かすか迷ったもんだ!」
「心配には及びません。こうして俺も弟子も無事に帰って来てる! 俺は俺の仕事をしに行っただけでさぁ!」
笑いあいながら、固く握手を交わす両者の頭。その二人を慕う者たちも、和やかな表情で二人を見つめる。そんな中で。
「おい!! やめろエース!!」
誰かが叫ぶ。メラメラと身体の半分を炎に変えながら、エースと呼ばれた男が刀を白ひげに振りかざしていた。しかし白ひげは表情を変えることなく、その男を弾き飛ばした。エースは工場の壁に穴を空けて、外に放り出される。
「おいおい、店の入り口近くに穴空けられちゃ困んな! 親父さん、ありゃ誰だい?」
「グラララ。あいつも息子さ、大目に見てやってくれ」
なら仕方ない、と何事もなかったように会話する二人。そこへ、一人の背の低い少女が鬼徹の服の裾を引いた。
「ん? なんだ、アケビ」
「さっき飛ばされた人の、様子を見てきます。どうも、うちの商品に手を出したみたいなので」
「おう、そりゃ大変だな。頼んだぞ」
頷くと、少女は外に飛び出して行った。年頃だろうに服はススだらけの作業服で、髪も無造作に下ろされている。しかし何よりも目を引くのは、彼女の首筋から右肩にかけてある、酷い火傷の跡だった。アケビ、と鬼徹に呼ばれる少女は、工場の壁から数十メートルは吹き飛ばされているエースの元に駆け寄った。
「大丈夫ですか? お怪我は?」
「こんくらいなんともねぇよ……!」
少し気が立っている様子のエース。アケビは一瞬だけ彼の目を見たが、すぐに逸らして彼の背後へ歩みを進める。そうして、エースと共に吹っ飛ばされた刀を回収した。元より、そちらの方が彼女の心配であった。
「困りますよ、うちにたくさん刀剣があるからって無闇に触られちゃ。全部、うちの商品なんですから」
「なに? 商品? じゃああんた、これ作って生活してんのか?」
「そうです」
エースに背を向けたまま、アケビは答える。さっきまでの苛立った雰囲気はなりを潜め、エースは慌てて立ち上がり頭を下げた。
「そいつはすまねぇことをした! 俺はエース! どうしたらその刀直るんだ?」
「弁償するなら500万ベリー位ですかね」
「500万ベリー!?」
予想外の高い金額が飛び出し、エースは冷や汗をかく。なによりも、アケビがこちらを振り向かないのが、彼にとって強いプレッシャーとなった。相当怒っているのでは……次に来る言葉を待ち、エースはごくりと唾を飲んだ。
「まあ、鍔にちょっとしたヒビと……刀身に土埃をかぶっただけなんで。十二代目に断って、私が直しておきますよ」
対するアケビは、なんでもないような声でそう言って振り向いた。その顔には怒りなど微塵もなく、むしろ微笑みをたたえている。ほっとエースは胸を撫で下ろした。
「お前いいヤツだな! 名前はなんていうんだ?」
「アケビと申します。貴方はエースさん、と言いましたっけ」
「おう、俺はエースだ! よろしくな!」
エースの笑顔を見て、太陽みたいに笑うなとアケビは思った。そして、何故そんな人が白ひげの首を狙っているのか、そんな彼を何故白ひげが息子と呼んでいたのか、いろいろと興味が湧いてきた。エースの方も、なによりも大切そうに刀を持ち、それに語りかけるような優しい眼差しを向けるアケビに、好奇心が湧いた。
「なあ、」
「あの、」
声をかけたのはほぼ同時だった。それに驚いたように顔を合わせ、二人とも自然と笑っていた。これがエースとアケビの、何てことはない普通の出会いだった。
爽やかで、それでいて寂しさを思い出す風の吹く島、秋島バーニングエイト。その島の港に、鯨と見まごうような大きな帆船が停泊していた。この船の主であるのはかの大海賊「白ひげ」エドワード・ニューゲート。そしてバーニングエイトのあちこちには彼のジョリーロジャーが掲げられている。この島は白ひげ海賊団のナワバリなのだ。なので、彼らが大所帯で街中を闊歩しようと、街の人たちはそれ程気にしない。それどころか、海賊である彼らを歓迎し、手土産を持たせる者までいるくらいだ。しかし、何も目的もなく彼らは陸に上がったわけではなかった。目的地は職人の工場が多いこの島でも、一際広い敷地を有する刀鍛冶「鬼徹一派」の工場であった。屈強で一際身体の大きい白ひげが、悠々と潜れる木造の門の中。そこが鬼徹一派の本拠地であり、入り口には完成した様々な刀剣が立ち並んでいた。
「白ひげさんだ! 白ひげさんが来たぞぉ*!!」
店番をしていた一人が声をあげれば、奥の工場から続々と鍛治職人が出て来て挨拶した。そうして、一番最後に顔を出した大男が、笑い声をあげて白ひげの前に出た。
「ダハハハハ! お久しゅうございます親父さん! この度はこちらの都合で予定をズラしてもらって済まなかった!」
「グララララ! 本当だぞ、鬼徹よ! トットランドに行ったと聞いた時には、俺の船団を動かすか迷ったもんだ!」
「心配には及びません。こうして俺も弟子も無事に帰って来てる! 俺は俺の仕事をしに行っただけでさぁ!」
笑いあいながら、固く握手を交わす両者の頭。その二人を慕う者たちも、和やかな表情で二人を見つめる。そんな中で。
「おい!! やめろエース!!」
誰かが叫ぶ。メラメラと身体の半分を炎に変えながら、エースと呼ばれた男が刀を白ひげに振りかざしていた。しかし白ひげは表情を変えることなく、その男を弾き飛ばした。エースは工場の壁に穴を空けて、外に放り出される。
「おいおい、店の入り口近くに穴空けられちゃ困んな! 親父さん、ありゃ誰だい?」
「グラララ。あいつも息子さ、大目に見てやってくれ」
なら仕方ない、と何事もなかったように会話する二人。そこへ、一人の背の低い少女が鬼徹の服の裾を引いた。
「ん? なんだ、アケビ」
「さっき飛ばされた人の、様子を見てきます。どうも、うちの商品に手を出したみたいなので」
「おう、そりゃ大変だな。頼んだぞ」
頷くと、少女は外に飛び出して行った。年頃だろうに服はススだらけの作業服で、髪も無造作に下ろされている。しかし何よりも目を引くのは、彼女の首筋から右肩にかけてある、酷い火傷の跡だった。アケビ、と鬼徹に呼ばれる少女は、工場の壁から数十メートルは吹き飛ばされているエースの元に駆け寄った。
「大丈夫ですか? お怪我は?」
「こんくらいなんともねぇよ……!」
少し気が立っている様子のエース。アケビは一瞬だけ彼の目を見たが、すぐに逸らして彼の背後へ歩みを進める。そうして、エースと共に吹っ飛ばされた刀を回収した。元より、そちらの方が彼女の心配であった。
「困りますよ、うちにたくさん刀剣があるからって無闇に触られちゃ。全部、うちの商品なんですから」
「なに? 商品? じゃああんた、これ作って生活してんのか?」
「そうです」
エースに背を向けたまま、アケビは答える。さっきまでの苛立った雰囲気はなりを潜め、エースは慌てて立ち上がり頭を下げた。
「そいつはすまねぇことをした! 俺はエース! どうしたらその刀直るんだ?」
「弁償するなら500万ベリー位ですかね」
「500万ベリー!?」
予想外の高い金額が飛び出し、エースは冷や汗をかく。なによりも、アケビがこちらを振り向かないのが、彼にとって強いプレッシャーとなった。相当怒っているのでは……次に来る言葉を待ち、エースはごくりと唾を飲んだ。
「まあ、鍔にちょっとしたヒビと……刀身に土埃をかぶっただけなんで。十二代目に断って、私が直しておきますよ」
対するアケビは、なんでもないような声でそう言って振り向いた。その顔には怒りなど微塵もなく、むしろ微笑みをたたえている。ほっとエースは胸を撫で下ろした。
「お前いいヤツだな! 名前はなんていうんだ?」
「アケビと申します。貴方はエースさん、と言いましたっけ」
「おう、俺はエースだ! よろしくな!」
エースの笑顔を見て、太陽みたいに笑うなとアケビは思った。そして、何故そんな人が白ひげの首を狙っているのか、そんな彼を何故白ひげが息子と呼んでいたのか、いろいろと興味が湧いてきた。エースの方も、なによりも大切そうに刀を持ち、それに語りかけるような優しい眼差しを向けるアケビに、好奇心が湧いた。
「なあ、」
「あの、」
声をかけたのはほぼ同時だった。それに驚いたように顔を合わせ、二人とも自然と笑っていた。これがエースとアケビの、何てことはない普通の出会いだった。
