混ぜ込みハンバーグ

旅立ちの日

その日はよく晴れていて、むしとり大会にはうってつけの日だった。
「優勝、ユイカの捕まえたストライク!!」
公園内に響き渡るアナウンスと、賞賛の拍手。私は嬉しくて、ストライクに抱きつきながら、会場に訪れた観客に手を振る。ストライクは少し身をよじって私から離れようとする。
「そっか、ごめんね。ゲットしたばかりだもの、驚いちゃったよね」
素直に離れて謝ると、ストライクはお辞儀のように頭を下げた。その仕草が紳士的で、憧れのポケモンだったこともあり私の頬は熱くなった。ストライクを自慢する為に、エンジュシティのジムに立ち寄る。マツバにいは来ることが分かっていたようで、すぐに会うことが出来た。
「ストライクを捕まえたんだね。きっとユイカによくなつくよ」
「本当? よかったー仲良くなれるか、不安だったの」
「それで? ここに立ち寄ったのはそれだけが理由じゃないだろう?」
マツバにいは、千里眼の持ち主だと言う。マツバにいの祖父と私のお爺ちゃんが仲がよかった関係で、小さい頃からマツバにいとは一緒にいるけれど、彼に隠し事を出来た試しはない。私は、胸の内に秘めていた計画を話すことにした。
「マツバにい、あのね……私、旅に出たいんだけど」
「却下」
「ええっまだ最後まで理由も聞いてないじゃない!」
「君は素直で純粋過ぎる。変なやつに捕まっても知らないよ?」
「ううっだから今日守ってくれる相棒を見つけてきたんじゃない!」
むしとり大会で優勝したら……ストライクを捕まえたら、私はポケモントレーナーとして旅に出ると決めていたのだ。……何故かいつも旅に出ることに反対するマツバにいも、これなら納得すると思ったのに。
「私、もっとたくさんの人やポケモンと知り合いたい! トレーナーとしても強くなってみたいの! いつか、マツバにいも倒せるような……」
「……その言葉に嘘も偽りもないなら、僕はもう止める手立てを持たないな」
マツバにいは寂しそうな眼で私を見る。そんな風に見られたことはなかったから、思わずドキリとした。
「ユイカが幼い頃から、僕は兄貴分として振る舞ってきたけど……それももう卒業なのかもしれない」
マツバにいは、ジムの奥へなにかを取りにいった。なんとなく不安になり、ストライクの鎌に触れる。大丈夫だ、と言うようにストライクは手を揺らした。
「はい、これ。君が旅に出る時に渡そうと思っていた」
大きなリュックには、ポケギアやモンスターボール、きずぐすり……旅に必要な物がぎっしりと詰まっていた。
「え、ちょっと……こんなに貰えないよ!」
「受け取らないなら、旅に行く話はなしだ」
「ええー? なにそれ?」
マツバにいは、たまに変なことを言う。でも、大抵そういった時はこちらが折れるまで退かないのだ。申し訳なく思いながらも、リュックを受けとる。
「いい子。あとそれから、この子も連れていってほしい」
マツバにいは私にモンスターボールを手渡した。中にポケモンが入っているようなので、外に出す。
「ムウ~~」
「わっムウマだ!」
ムウマは私の顔にべったりとくっつく。前が見えなくて引き剥がそうとするが、ゴーストタイプなのでそれは叶わない。ムウマは人懐っこく、私の周りをふよふよと飛んだ。
「そのムウマを育てること。それから、定期的に僕に連絡をいれること。それが旅に出す条件」
「わ、分かった」
「よし。で、いつ出発する?」
「明日にでも!……って言いたいところだけど、ミナキさんに調査の手伝い頼まれてるから、それが終わったらかな」
「律儀だなぁユイカは。まあ、そこがポケモンにもなつかれやすい理由かもね」
「なつかれやすいのかな?」
「そうだよ、君は気づいてないのかもだけど。そのムウマは他の人の前ではそんなにはしゃがないもの」
「えっそうなんだ」
私に頬擦りをするように側にいるムウマの、身体の輪郭をなぞってあげた。すると、嬉しそうに空中一回転をする。とてもご機嫌だ。
「なんにせよ、僕は寂しくなる……ユイカもムウマもいなくなるからね」
「うっ……なんかごめんなさい。でも、ちゃんと帰ってくるから!」
「…………お土産話を、楽しみに待っているよ」
マツバにいは優しく微笑んだ。この笑顔にいつでも会いに行けなくなるのは、自分としても大きな決断だと思う。でも、まだまだ知りたい世界があるから。
「マツバにい、心配しないでね。私、ちゃんと強いポケモントレーナーになって見せるから!」
「……心配しないってのは無理かなぁ。ユイカは抜けてるから」
「も、もう! 大丈夫だってば!」
私はポケモントレーナーとしての一歩を、踏み出すのでした。
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