喫茶BLUEMOONへようこそ
昔から雨は嫌いだった。暗いし、じめじめするし、お客さんは少ないし。今朝、起きた時には少し雲が多いかなくらいで、降り出す感じではなかったのだけど。今は、横殴りの強い雨が降り注いでいる。室内にいても、激しい雨音が聞こえてくる。ため息をひとつ吐いて、普段より丁寧に食器を磨く。それくらいしか、やることがない。
(誰か来ないかな……)
なんとなく寂しくてそう思うが、この雨の中来るのは大変だろうし、お客さんに苦労はかけたくない。仕方ないか、ともうひとつため息を吐いた時、ふいにドア・ベルが鳴って、驚いて顔を上げた。
「え、保科さん! いらっしゃいませ……タオルお持ちしますね」
「おー悪いな」
傘をさしても濡れるのだろう、保科さんの服は色が変わっていた。急いでタオルをお持ちする。
「えらい降りようやなぁ」
「そうですね、来るの大変だったでしょう」
「まぁな」
なんでもないように保科さんは言う。捲られた腕や、濡れそぼった髪にふと男性を感じて、思わずドキリとした。
「? どうかしたかユキちゃん」
「いえ、なんでも!」
保科さんは気にも止めず、いつもの窓際の席に座る。来てもらえて嬉しい気持ちや、いつもと違うドキドキ感でちゃんとした接客が出来るのか、不安になる。舞い上がるような浮ついた気分を押し殺しながら、お冷とおしぼりを運んだ。
「いつもので頼むわ」
「はい、かしこまりました」
お客さんは保科さんしかいないから、ホットコーヒーとモンブランはすぐに用意が出来た。速やかに配膳して、私は読書の邪魔にならないよう、カウンターの奥に引っ込んだのだが。
「なんか今日、そわそわしとるね?」
「えっそうですか?」
なんて言ったが、内心図星でギクリとした。
「なんかあったん?」
「なんかあったっていうか……」
言うか迷ったが、保科さんの眼差しから逃れられず、観念することにした。
「雨の日はお客さんが少ないんです。今日みたいな日は特に」
「うん」
「だけど、保科さんが来てくれたから、嬉しくって……はい」
うわぁ、恥ずかしい。好きな人に告白をしてる気分だ。けれど、わざわざ来てくれた保科さんに、ちゃんと感謝の言葉を伝えなくてはと思って。顔が熱いのも構わずに、ちゃんと目を見て笑顔を向けた。
「こんな酷い雨の日に、わざわざ来店してくれてありがとうございます。おかげで、寂しい思いをしなくてすみました」
「…………おん」
保科さんは照れ臭そうにコーヒーを口に運んだ。私も上がった体温を冷ますように、お冷を口にする。それから、しばらく静かな時間が流れた。食器磨きをしながら、保科さんを見ていたが、本を読み始めないので不思議に思っていると。
「なぁ、ユキちゃん」
「はい?」
「僕、どんな天気でもここには来ることにするわ」
「えっ」
保科さんは独り言みたいにそう言った。
「そしたら君、寂しないやろ」
雨の日は嫌いだった。暗いし、じめじめするし、お客さんは少ないし。雨の日は、寂しくて嫌いだ。けれど、保科さんを待ちながら、食器を磨くのはきっと寂しくない。保科さんが来るかもしれないなら、ワクワクしながら待っていられる。
「……はい! ありがとうございます」
私の返事を聞くと、保科さんは満足気に笑った。
「ま、休みの日だけやけどな。それは堪忍」
「来てくれるだけで嬉しいです。あ、でも本当に天気悪い日は無理しないでくださいね」
「えーどうしよかなー」
「いやいや、なんでですか!」
冗談っぽく笑う保科さんに、仕事のことなど忘れて私も笑った。
(誰か来ないかな……)
なんとなく寂しくてそう思うが、この雨の中来るのは大変だろうし、お客さんに苦労はかけたくない。仕方ないか、ともうひとつため息を吐いた時、ふいにドア・ベルが鳴って、驚いて顔を上げた。
「え、保科さん! いらっしゃいませ……タオルお持ちしますね」
「おー悪いな」
傘をさしても濡れるのだろう、保科さんの服は色が変わっていた。急いでタオルをお持ちする。
「えらい降りようやなぁ」
「そうですね、来るの大変だったでしょう」
「まぁな」
なんでもないように保科さんは言う。捲られた腕や、濡れそぼった髪にふと男性を感じて、思わずドキリとした。
「? どうかしたかユキちゃん」
「いえ、なんでも!」
保科さんは気にも止めず、いつもの窓際の席に座る。来てもらえて嬉しい気持ちや、いつもと違うドキドキ感でちゃんとした接客が出来るのか、不安になる。舞い上がるような浮ついた気分を押し殺しながら、お冷とおしぼりを運んだ。
「いつもので頼むわ」
「はい、かしこまりました」
お客さんは保科さんしかいないから、ホットコーヒーとモンブランはすぐに用意が出来た。速やかに配膳して、私は読書の邪魔にならないよう、カウンターの奥に引っ込んだのだが。
「なんか今日、そわそわしとるね?」
「えっそうですか?」
なんて言ったが、内心図星でギクリとした。
「なんかあったん?」
「なんかあったっていうか……」
言うか迷ったが、保科さんの眼差しから逃れられず、観念することにした。
「雨の日はお客さんが少ないんです。今日みたいな日は特に」
「うん」
「だけど、保科さんが来てくれたから、嬉しくって……はい」
うわぁ、恥ずかしい。好きな人に告白をしてる気分だ。けれど、わざわざ来てくれた保科さんに、ちゃんと感謝の言葉を伝えなくてはと思って。顔が熱いのも構わずに、ちゃんと目を見て笑顔を向けた。
「こんな酷い雨の日に、わざわざ来店してくれてありがとうございます。おかげで、寂しい思いをしなくてすみました」
「…………おん」
保科さんは照れ臭そうにコーヒーを口に運んだ。私も上がった体温を冷ますように、お冷を口にする。それから、しばらく静かな時間が流れた。食器磨きをしながら、保科さんを見ていたが、本を読み始めないので不思議に思っていると。
「なぁ、ユキちゃん」
「はい?」
「僕、どんな天気でもここには来ることにするわ」
「えっ」
保科さんは独り言みたいにそう言った。
「そしたら君、寂しないやろ」
雨の日は嫌いだった。暗いし、じめじめするし、お客さんは少ないし。雨の日は、寂しくて嫌いだ。けれど、保科さんを待ちながら、食器を磨くのはきっと寂しくない。保科さんが来るかもしれないなら、ワクワクしながら待っていられる。
「……はい! ありがとうございます」
私の返事を聞くと、保科さんは満足気に笑った。
「ま、休みの日だけやけどな。それは堪忍」
「来てくれるだけで嬉しいです。あ、でも本当に天気悪い日は無理しないでくださいね」
「えーどうしよかなー」
「いやいや、なんでですか!」
冗談っぽく笑う保科さんに、仕事のことなど忘れて私も笑った。
