未熟な祈り
「オケアノスでは世話になりましたね」
今のマスターに召喚されて、最初に賜わったのはこんな言葉だった。仁王立ちで腕を組み、鋭い視線を寄越すマスターにため息を吐く。
「いやね? おじさんにも立場ってもんがあるからさぁ」
「……死霊に立場もなにもあるもんか」
苦々しく紡がれた言葉に目を丸くした。サーヴァントで、一応英雄であるこの俺を、死霊と一蹴したのか、このお嬢さんは。
「ともかく、カルデアには戦力が必要だから、おじさんには今度はこちら側で働いてもらうよ」
「ヘクトール、ね。それくらい覚えて頂戴」
そう言えば、薄くだが、マスターは笑った気がした。背を向けたマスターの後ろに立てば、なんと小さく細い。この双肩に、人類史人理の全てがかかってるってか。
(こいつは、なんて喜劇なんだろうか)
しばらくの間は、派手に動くこともせずにマスターを観察していた。まだ充分とは言えない戦力、サーヴァントの未熟な扱い、なによりマスターの魔術師としての非力さ。サーヴァントの召喚には成功しているが、それらとのコミュニケーションが足りておらず、レイシフトに参加できる者が少ないように見える。これでよく、第五特異点まで復元したもんだと、感心はした。
「私とマシュ、Dr.ロマンを始めとする、今を生きている人間以外に、価値なんてない」
それがマスターの信念らしく、サーヴァントとは一定の距離を置いていた。置こうとしている、ように見えた。本当は誰彼構わずに、泣いて縋りたいんじゃねぇか、と感じた。悲痛なまでの強がりが、彼女をなんとかマスターとたらしめている。それは、きっとカルデアのサーヴァント誰しもが気付いていることで、だからこそ彼女を見限りはしないのだろう。サーヴァントは、ただ命を守る道具。そう割り切ろうとするマスターに、一つ確認をしたくなった俺は、マスターが一人になる時を待った。
「ちょっといい? マスター」
「……ヘクトール? なに?」
話しかけられたことに単純に驚いたのか、年相応の柔らかい表情をした彼女が足を止める。マイルームに向かう途中の廊下、就寝前。警戒されてもいいと思うが、そんな雰囲気は微塵もない。脇が甘いねぇ。
「おじさん、一つ聞いときたい事があったのよ。オケアノスの時、ヘラクレス倒す算段を立てたのは嬢ちゃんかい?」
「……?? そう、だけど」
嫌なことを思い出した、そう言わんばかりに眉をひそめる。それに引かずに、質問を続ける。
「あん時、エウリュアレを殺す……って選択肢はあったかい」
「!!……それは、」
ああ、この表情は。駄目だな、この人。そんなこと思いつきもしなかったんだな。
「そうかい、分かった。寝る前に時間取らせて悪かったな」
「待って、そんな……いざって時にはそういうことも、やむを得ないと」
「いざってのは、いつだい。あんたが、死んだ後か?」
「……っ!!」
言葉を無くして立ちすくむマスターに、出来うる限り一番優しい顔を向けて、頭を撫ぜた。別に強がりを辞めろとは言ってない。ただ、
「いいんだよ、あんたはそれで。それがあんたの限界だ」
そう諭して、その場を離れた。本人にその気は無くとも、あの女神の為に、人類の未来の為に、自分の命をかける選択をした。それがマスターの全てで、真実だ。
「……おじさんも、もう少し頑張りますかねぇ」
呟きは誰に聞かれることもなく、闇に溶けた。
今のマスターに召喚されて、最初に賜わったのはこんな言葉だった。仁王立ちで腕を組み、鋭い視線を寄越すマスターにため息を吐く。
「いやね? おじさんにも立場ってもんがあるからさぁ」
「……死霊に立場もなにもあるもんか」
苦々しく紡がれた言葉に目を丸くした。サーヴァントで、一応英雄であるこの俺を、死霊と一蹴したのか、このお嬢さんは。
「ともかく、カルデアには戦力が必要だから、おじさんには今度はこちら側で働いてもらうよ」
「ヘクトール、ね。それくらい覚えて頂戴」
そう言えば、薄くだが、マスターは笑った気がした。背を向けたマスターの後ろに立てば、なんと小さく細い。この双肩に、人類史人理の全てがかかってるってか。
(こいつは、なんて喜劇なんだろうか)
しばらくの間は、派手に動くこともせずにマスターを観察していた。まだ充分とは言えない戦力、サーヴァントの未熟な扱い、なによりマスターの魔術師としての非力さ。サーヴァントの召喚には成功しているが、それらとのコミュニケーションが足りておらず、レイシフトに参加できる者が少ないように見える。これでよく、第五特異点まで復元したもんだと、感心はした。
「私とマシュ、Dr.ロマンを始めとする、今を生きている人間以外に、価値なんてない」
それがマスターの信念らしく、サーヴァントとは一定の距離を置いていた。置こうとしている、ように見えた。本当は誰彼構わずに、泣いて縋りたいんじゃねぇか、と感じた。悲痛なまでの強がりが、彼女をなんとかマスターとたらしめている。それは、きっとカルデアのサーヴァント誰しもが気付いていることで、だからこそ彼女を見限りはしないのだろう。サーヴァントは、ただ命を守る道具。そう割り切ろうとするマスターに、一つ確認をしたくなった俺は、マスターが一人になる時を待った。
「ちょっといい? マスター」
「……ヘクトール? なに?」
話しかけられたことに単純に驚いたのか、年相応の柔らかい表情をした彼女が足を止める。マイルームに向かう途中の廊下、就寝前。警戒されてもいいと思うが、そんな雰囲気は微塵もない。脇が甘いねぇ。
「おじさん、一つ聞いときたい事があったのよ。オケアノスの時、ヘラクレス倒す算段を立てたのは嬢ちゃんかい?」
「……?? そう、だけど」
嫌なことを思い出した、そう言わんばかりに眉をひそめる。それに引かずに、質問を続ける。
「あん時、エウリュアレを殺す……って選択肢はあったかい」
「!!……それは、」
ああ、この表情は。駄目だな、この人。そんなこと思いつきもしなかったんだな。
「そうかい、分かった。寝る前に時間取らせて悪かったな」
「待って、そんな……いざって時にはそういうことも、やむを得ないと」
「いざってのは、いつだい。あんたが、死んだ後か?」
「……っ!!」
言葉を無くして立ちすくむマスターに、出来うる限り一番優しい顔を向けて、頭を撫ぜた。別に強がりを辞めろとは言ってない。ただ、
「いいんだよ、あんたはそれで。それがあんたの限界だ」
そう諭して、その場を離れた。本人にその気は無くとも、あの女神の為に、人類の未来の為に、自分の命をかける選択をした。それがマスターの全てで、真実だ。
「……おじさんも、もう少し頑張りますかねぇ」
呟きは誰に聞かれることもなく、闇に溶けた。
