片想い中の相手が彼氏ヅラしてきてツライ

式典服というのはどうにもうっとうしい。飛べるわけでもないのに、袖口が広く鉛の翼のようで。脚まわりもダボついていて、そのくせウエストは閉められ、実に動きにくい。年に何回かしか着ない物だが、着るたびに二度とごめんだと思う。
しかしながら、今日は新入生の入学式がある。夏休み明け最初のイベントに、出席しないわけにもいかない。2年生に上がってのクラス分け発表もあることだし。私は、気合を入れて式典服に身を納め、寮の部屋を後にした。

 我が寮長ーーサバナクロー寮のレオナ・キングスカラーに連れられ、鏡の間に整列している。闇の鏡の前に新入生が立ち、魂の形で寮分けされていく。あの判別方法は、新入生の不安だとか期待だとかを煽ると思う。去年の私は納得が出来なかった……まぁそれも昔の話ではあるけれど。流れ作業的な行事に、欠伸が出たところで。
「あっ、ツバメちゃんみっーけ♪」
「……燕じゃない、金糸雀カナリアだ」
長身の彼は別寮で、しかも式典中だというのに歩き回っている。フロイドは私を見つけると、サバナクロー寮の屈強なメンズを押し除け私のところまで来た。当然、周囲からは目立ちまくっている。
「ねぇねぇ、つまんないからさ、ツバメちゃんも抜けようよー」
背後から私の両肩に手を置き、覗き込むようにしてフロイドは笑みを見せる。静かにするように唇に指を当てるが、なにを思ったのかフロイドはその指を噛んだ。
「痛っつ、なにするのよ」
「ふふふ、ツバメちゃんも噛む?」
はい、と口元にフロイドの指が持ってこられて、軽く訳が分からない。首を振り断ると、彼の顔から笑みが消える。それから、覆いかぶさるように私に抱きついてきた。
「もう飽きた。早く抜けようよぉ、アズールだって怒らないよぉ」
身体を横に縦に揺すり、フロイドは甘えた声で愚図る。そりゃ、アズールは怒らないだろうけど……そこで私の寮長を見れば。
(うぜぇからさっさと行け)
と、レオナさんが目で訴えていた。申し訳なくなり、私はフロイドの手を引いて鏡の間を後にした。

「イェーイ! 校内で誰ともすれ違わないって気分いいねえ」
 くるくると踊るように廊下を歩くフロイドに、黙ってついていく。もう私がいることはどうでもいいみたいで、好き勝手に進んでいってしまう。いつものことである。それでも、大人しくそばにいるのは。
「あっそうそう、ツバメちゃん!」
「ひゃい!?」
急に話しかけてくるから心臓に悪い。
「なぁに驚いてんの。おもしろっ」
「いや、ごめん。なんでもないよ。続けて」
「今年も同じクラスだねぇ。ツバメちゃん嬉しい?」
「う、嬉しい……よ」
「そっかぁ、よかったね!」
クロウリー学園長にカチコミ……じゃなかった、お願いをしに行った甲斐があった。私とフロイドは、2年連続で同じクラスである。そこまでして、そばにいたいのは。
「オレさぁ、今年はツバメちゃんとやりたいことがあるんだぁ」
「え、なに」
「……やーめた。教えなーい♪」
このふざけた笑顔の男に惚れてしまった弱みにすぎない。
「ちょっと、教えてよ。……出来ることなら、努力するから」
「んー? そんな難しいことじゃないよぉ」
スッとフロイドの指が私の顎をすくう。ピシッと私は固まる他にない。ドキドキとうるさい心臓を鎮めるのは難しい。思わず目を瞑った瞬間、ぶにっと両頬を潰された。
「にゃに、ふんのなに、すんの」
「あっはは、かわいー! アザラシみてー!」
この男の感性についていくのは不可能に近い……そう思いながらも、愛おしくてたまらないのは何故だろうか。
「これからも、ずーっとよろしくね♪ ツバメちゃん」
片想い中の相手が彼氏ヅラしてきてツライです。
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