鬼退治の前に

夜の山に朝日が差し込む。無残に殺した鬼達の残骸が、焼き尽くされて消えていく。私が殺しきれなかった鬼も、日の光を浴びて絶命した。耐えた。また耐えてしまった。生き残った安堵から、ずるずると地面にへたり込む。斬られた肩口と腹の傷を、呼吸で止血する。そうして、生きているということを実感する。じきに隠がきて、またこの山は平穏な自然に戻る。少し眠ろう。回収してもらえることを期待し、疲労からの眠気に誘われていると。

「遅くなった、すまない。よく耐えたな」
「…………義勇さん」

柱の方にいらしていただけるとは、光栄だ。死んでいたら、骨を拾えてもらえたかもしれない。死に損なったけど。立ち込める血の臭いが、ここが地獄であるかように錯覚させる。ああ、悪夢なら早く覚めてほしい。

「お前、また鬼に血を与えて狂暴化させたな。時期に自分の実力が追い付かなくて死ぬぞ」
「……不覚を取りました。鬼殺隊に怪我はつきものですから」

訝し気に義勇さんは私を見る。そりゃそうだ。私は自分から鬼に血を与えているのだから。知られれば、隊務違反により即、処分だ。……私は、稀血だ。それにより、十五の頃から鬼に追われるようになった。そうして十八の頃まで、鬼から必死に逃げて生きてきた。その時に、私は何人もの人が鬼に食われるのを見てきたのだ。私の代わりに。私がいなければ、鬼に遭遇することはなかった人々。私の身代わりになった人々。その人たちを思う度、本当は私が鬼なんじゃないかと、考えずにはいられない。

「止血はしたか」
「はい、済ませております」
「立てるか」
「歩けます」

柱の前で、格好の悪いところは見せられない。私は眠気を押して立ち上がると、ふらふらと山道を下った。義勇さんの背を追って。朝日が目に入り眩しい。

「……お前が生きているのは、」
「??」
「お前が強いからだ。それを恥じるな」

なにか悟られただろうか。私が強い?

「いいえ、私は弱いですよ。今までいくつも犠牲にしてきた」
「それでも、お前は歩き続けている。弱かったときも、諦めず。したたかで強い。これからも、存分にその力を奮え」

義勇さんは、話すのは決して上手くはない。けれども、その背中は私が生きる道標のようで。生に縋り付いた、醜い私を肯定してくれた。この強さを、まだ見捨てずに使いこなせと。もう少し、生に縋り付いていようと思えた。朝日の光が、私の身体を温めていく。まるで死ぬなと応援するように。
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