鬼退治の前に
蝶屋敷に居る我妻善逸に単独任務が入った。正確に言えば、蝶屋敷にいる連れ立ちとは別行動だが、一人先輩隊員が就くことになっていた。善逸はいつもの怖がりを抑えて、泣きそうになりながらも、先輩の待つ山の麓まで足を進めていた。
(うえー……一人じゃないことはありがたいけど、知らない人と二人で行動も緊張するんだよぉ! どーしよう、大柄な男で弱い俺のことこずくような人だったら! 辛いのは嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)
「鬼殺隊の早乙女あきです! 貴方が我妻善逸くん?」
「はい! そうです! この度はご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします!」
先輩隊員が女性というだけで、善逸のテンションは上がった。
「今回の任務のことはもう聞いてるかな?」
「はい! 鬼の生け捕りですよね?」
鬼の生け捕り。これは鬼殺隊員になるための試験に必要なものである。今回、この付近の山で雑魚の鬼達が集まり出しているとの情報が出ている。生け捕るには丁度よいと、判断されたものである。しかし、善逸は初めての任務に内心かなりびびっていた。
(どーしよう……弱い俺が鬼を生け捕りになんて出来るわけないだろ! そんな手加減していたら殺される! あーでも、あきさんいい匂いするな、華やかで美人だな)
「善逸くん、大丈夫ですよ」
「はいぃ! なにがです?」
「鬼の生け捕りは私の得意分野。善逸くんは私を補佐してくれれば大丈夫ですから。安心してね」
にっこりと笑う早乙女に、善逸は言われた通り恐怖を忘れた。鬼なんかより早乙女とこのままデートに行きたい。そんな妄想で頭を満たし、現実逃避をした。時期に日が暮れる。障気の立ち込めた不気味な山に、二人は颯爽と足を踏み入れた。
山の中腹まで来て、鬼に囲まれていることに二人は気づく。早乙女は鬼が姿を現すように、挑発をした。
「そこにいるのは分かっているわよ? さっさと出てきたらどうかしら? こっちは二人。それとも、数で優位にあるのに出てこれないような腰抜け鬼なのかしら?」
その言葉に、がさがさと茂みから鬼達が現れ出す。しかし、口々に俺の獲物だ、手出しするなと喚き散らす。統一など取れていないのだ。有象無象の鬼達は、やがて殺ったもん勝ちだとばかりに飛び掛かってきた。
「ひっ…………!!」
「善逸くん、耳を塞いで」
「!??」
言われるがままに、善逸は耳を塞いだ。それを確認すると、早乙女は両手を広げ、呼吸を大きく吸った。
ーー歌の呼吸、壱ノ型。子守唄ーー
早乙女が高らかに歌い出すと、それを聞いた鬼が一人また一人と深い眠りに落ちる。そうして、早乙女は血の一滴も流さずに鬼を鎮圧して見せた。
「よし、これであとはいつも通り隠の方々にお願いしてーー」
「あんた、いい歌歌うなあ」
「!!」
木の上から声がする。そんな、もう全て眠らせたはずーーそんな困惑を嘲笑うかのように、鬼は現れ早乙女に一撃をくれた。反射で避けるも、早乙女は鬼の爪で肩口に負傷した。鬼は気味悪くニタニタと笑う。
「もっとも、俺の聞こえない耳には届かないがなぁ」
(聾の鬼……!! そんな鬼が……でも、鬼は元々人、有り得ない話じゃない! この鬼と私の相性は最悪ね)
鬼舞辻無惨の策略だった。容易く鬼を生け捕りにするこの女に、業を煮やしたのだ。早乙女は先輩隊員として、あるべき決断を下した。
「善逸くん、逃げーー」
善逸はすやすやと眠っていた。耳のいい善逸には、耳を塞いでも早乙女の歌は届いていたのだ。早乙女を絶望が襲う。
(耳がいいんだわ、この子! 迂闊だった、もっと後輩の情報に気を配るべきだった!)
「味方まで眠らせちまって、馬鹿だねぇ。さあ、お祈りは済んだかい?」
早乙女は死を覚悟した。けれども、相討つ覚悟で刀を抜いた。後輩を死なせるわけにはいかない。
「死ねええええ!」
鬼が凄まじいスピードで早乙女に襲いかかった。それよりも速く、早乙女の横を善逸がすり抜ける。
ーー雷の呼吸、壱ノ型。霹靂一閃ーー
「あきさんは、俺が守ります」
一撃。その鋭い一撃は、容易く鬼を絶命させた。へたり、と早乙女は尻餅をつく。自分は生きている。
「助かった……助かった……」
早乙女の顔には、涙が流れていた。
「いやあ、ありがとうございました! あきさんの歌、俺一生忘れません!」
「はぁ……ありがとう」
任務後。一切の記憶を持っていないようである善逸は、とにかく早乙女を褒めた。居心地の悪さを感じながら、早乙女は曖昧に笑う。無事に鬼は生け捕りとなり、隠の仕事も順調である。朝日を眺めながら、早乙女は善逸にこう言った。
「ありがとう、救われたわ。もしかしたら、善逸くんと私は相性がいいのかもね」
にっこり。笑う彼女に善逸は大きな勘違いをした。
(え? え? なにそれ、プロポーズですか? 俺プロポーズされてんのかな!! うっひょう!!)
(うえー……一人じゃないことはありがたいけど、知らない人と二人で行動も緊張するんだよぉ! どーしよう、大柄な男で弱い俺のことこずくような人だったら! 辛いのは嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)
「鬼殺隊の早乙女あきです! 貴方が我妻善逸くん?」
「はい! そうです! この度はご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします!」
先輩隊員が女性というだけで、善逸のテンションは上がった。
「今回の任務のことはもう聞いてるかな?」
「はい! 鬼の生け捕りですよね?」
鬼の生け捕り。これは鬼殺隊員になるための試験に必要なものである。今回、この付近の山で雑魚の鬼達が集まり出しているとの情報が出ている。生け捕るには丁度よいと、判断されたものである。しかし、善逸は初めての任務に内心かなりびびっていた。
(どーしよう……弱い俺が鬼を生け捕りになんて出来るわけないだろ! そんな手加減していたら殺される! あーでも、あきさんいい匂いするな、華やかで美人だな)
「善逸くん、大丈夫ですよ」
「はいぃ! なにがです?」
「鬼の生け捕りは私の得意分野。善逸くんは私を補佐してくれれば大丈夫ですから。安心してね」
にっこりと笑う早乙女に、善逸は言われた通り恐怖を忘れた。鬼なんかより早乙女とこのままデートに行きたい。そんな妄想で頭を満たし、現実逃避をした。時期に日が暮れる。障気の立ち込めた不気味な山に、二人は颯爽と足を踏み入れた。
山の中腹まで来て、鬼に囲まれていることに二人は気づく。早乙女は鬼が姿を現すように、挑発をした。
「そこにいるのは分かっているわよ? さっさと出てきたらどうかしら? こっちは二人。それとも、数で優位にあるのに出てこれないような腰抜け鬼なのかしら?」
その言葉に、がさがさと茂みから鬼達が現れ出す。しかし、口々に俺の獲物だ、手出しするなと喚き散らす。統一など取れていないのだ。有象無象の鬼達は、やがて殺ったもん勝ちだとばかりに飛び掛かってきた。
「ひっ…………!!」
「善逸くん、耳を塞いで」
「!??」
言われるがままに、善逸は耳を塞いだ。それを確認すると、早乙女は両手を広げ、呼吸を大きく吸った。
ーー歌の呼吸、壱ノ型。子守唄ーー
早乙女が高らかに歌い出すと、それを聞いた鬼が一人また一人と深い眠りに落ちる。そうして、早乙女は血の一滴も流さずに鬼を鎮圧して見せた。
「よし、これであとはいつも通り隠の方々にお願いしてーー」
「あんた、いい歌歌うなあ」
「!!」
木の上から声がする。そんな、もう全て眠らせたはずーーそんな困惑を嘲笑うかのように、鬼は現れ早乙女に一撃をくれた。反射で避けるも、早乙女は鬼の爪で肩口に負傷した。鬼は気味悪くニタニタと笑う。
「もっとも、俺の聞こえない耳には届かないがなぁ」
(聾の鬼……!! そんな鬼が……でも、鬼は元々人、有り得ない話じゃない! この鬼と私の相性は最悪ね)
鬼舞辻無惨の策略だった。容易く鬼を生け捕りにするこの女に、業を煮やしたのだ。早乙女は先輩隊員として、あるべき決断を下した。
「善逸くん、逃げーー」
善逸はすやすやと眠っていた。耳のいい善逸には、耳を塞いでも早乙女の歌は届いていたのだ。早乙女を絶望が襲う。
(耳がいいんだわ、この子! 迂闊だった、もっと後輩の情報に気を配るべきだった!)
「味方まで眠らせちまって、馬鹿だねぇ。さあ、お祈りは済んだかい?」
早乙女は死を覚悟した。けれども、相討つ覚悟で刀を抜いた。後輩を死なせるわけにはいかない。
「死ねええええ!」
鬼が凄まじいスピードで早乙女に襲いかかった。それよりも速く、早乙女の横を善逸がすり抜ける。
ーー雷の呼吸、壱ノ型。霹靂一閃ーー
「あきさんは、俺が守ります」
一撃。その鋭い一撃は、容易く鬼を絶命させた。へたり、と早乙女は尻餅をつく。自分は生きている。
「助かった……助かった……」
早乙女の顔には、涙が流れていた。
「いやあ、ありがとうございました! あきさんの歌、俺一生忘れません!」
「はぁ……ありがとう」
任務後。一切の記憶を持っていないようである善逸は、とにかく早乙女を褒めた。居心地の悪さを感じながら、早乙女は曖昧に笑う。無事に鬼は生け捕りとなり、隠の仕事も順調である。朝日を眺めながら、早乙女は善逸にこう言った。
「ありがとう、救われたわ。もしかしたら、善逸くんと私は相性がいいのかもね」
にっこり。笑う彼女に善逸は大きな勘違いをした。
(え? え? なにそれ、プロポーズですか? 俺プロポーズされてんのかな!! うっひょう!!)
